第3話 半分騙すようにして後輩を花火に誘った件
梶の情報通り、高橋は誘ったら二つ返事で承諾してくれた。
「先輩が誘ってくれるなんて、うれしいです!」
と、にこにこ満面の笑顔で答える高橋に対し、秋本たちと合流することを伝えてない俺は、なんかドッキリカメラの仕掛け人にもなった感じで、ちょっと心が痛い。
あの2人が悪いんだからな。
「高橋クンには、サプラ〜イズでお願いしゃーす。そっちの方が運命的感が出て、うまくいきそうでしょ?」
と言われて口止めされたのだ。
♢♢♢
花火大会当日。
なんとなく気がせいて、約束の15分前に来てしまったが、すでに高橋は来ていて、「先輩ーっ」と無邪気にぶんぶん手を振ってくれた。
「早かったな」
「だって、先輩待たせるわけにいかないじゃないですか」
にっこり笑って答える高橋。…ほんといい子だなぁ。
ちなみに俺も高橋も、TシャツにGパンという極めてラフな格好である。
じゃ行きましょうか、と高橋に言われて、とんでもないことに気がついた。
「えっ、あ、うーん…じ、実はさ、他にも待ち合わせているやつらがいるんだよ」
このまま出発してしまうと、女子との合流が難しくなる。口止めされていたが、ここはやむを得まい。
「え、誰ですか?」
「いや、部活の女子なんだが…、ど、どうも俺たちの話を聞いていたようでさ、どうせなら、一緒に行かないかって言われて。その、高橋につたえてなかったのは悪かったけど…」
「?何で謝るんですか?」
「何でって…」
「先輩がオッケーなら、僕は全然かまいませんよー。賑やかになっていいことじゃないですか」
…高橋。ほんと〜にいい子だわ。
「アーッ、高橋クンとせんぱぁい!すっごい偶然‼︎」
このアニメ声のハイテンションは、と思って声の方を見ると浴衣姿の女子4人。先頭の佐々木が周りにも聞こえそうな声をあげている。
「こんばんわ〜。ここで会ったのも何かの縁ですしぃ、一緒に花火大会大会行きましょ〜よぉ〜」
佐々木の言葉に、あれ?と首を傾げる高橋
「え?待ち合わせてたんですよね?そう先輩に聞きましたけど?」
「…副部長?」
後ろの梶の目が冷たい。
バラしてんじゃねーよ、口止めしてただろ、使えねぇヤツ、などという梶の思いが、テレパシーのように伝わってくる目つきだ。
「いや…、これはだな」
「あー、うん、岡本センパイは佐藤部長とはそんな話をしてたようだけど、私たちはその後で乗っかったからぁ、高橋クンがいることを知らなかったんだよ〜」
瞬時に状況を察したらしい佐々木が、表情も変えずに口裏を合わせてくる。
「ね、部長」
「…そうそう、この子達も一緒に来たいって話は岡本氏に伝えるのを忘れていたかも。ごめんなさい」
「そうなんですか…。いや、人数が多い方が楽しいですからね、謝る必要はないです」
高橋はすんなり受け入れてくれたようだが、なんだか、佐藤に泥をかぶってもらった形になり、申し訳ない気持ちが先に立つ。
「そんなことより、この子どう?浴衣似合ってると思わな〜い?」
と、背後でもじもじしていた秋本を引っ張りだす佐々木。
ちょ、ちょっと…と言いながらも高橋の前に引き出された彼女は、金魚を描いた浴衣姿が幼児体型ともうまくマッチしている。普段の学校では禁止されている化粧も、きつくない程度にしていることもあり、かわいさ1.5倍増しに感じられる。
「ほんとだ!あんまりこういう姿を見たことないからさ、なんだか新鮮!」
天真爛漫に笑う高橋に、秋本も顔を赤らめながら喜んでいる。
「勝手に決めちゃいましたけど」
不意に、高橋が小声でささやいてきた。
女子4人は少し離れたとこで何やら話しあってる(作戦会議?)ので、彼女たちに聞かれたくない話なのか。
「先輩的には彼女たちと一緒でもよかったんですか?」
「え?」
「いや、さっきの話だと先輩は僕をだしにして、佐藤部長だけを誘いたかったんじゃなかったのかなって」
「………はあ?」
いやいやいや、何で俺が佐藤を?
「あ、僕の勘違いならいいんですけど。先輩と部長ならお似合いだなぁと思っただけで」
「男子ぃ〜。ひそひそ話して女子の品定めですかぁ?」
佐々木の下世話な声が飛んできた。
「違うよー。先輩にちょっとした確認」
にこやかに高橋が答え、俺の方を向いてにっこり。
これ以上は会話できなかったから、突っ込んではきけなかっけど……なんだったんだ、今のは??
「じゃあ、そろそろ行かない?久しぶりの花火大会で、人手すごいらしいしぃ〜」
仕切りをかってでている佐々木が言うと、この男女6人の集団も動き出す。
自然と(意図的?)先頭に高橋、秋本ペアが並んで歩き、その後ろの佐々木、梶が2人をフォローしながら着いていく。保護者スタンスの俺と佐藤が少し離れて歩く並びとなる。
「岡本氏もご苦労さま」
佐藤が声をかけてくる。彼女も浴衣姿だ。
「ああ、佐藤も。さっきは話合わせてくれてありがとな」
「あれはささやんに乗っかっただけだよ」
「なんか、佐藤がミスった形になっちゃったし、申し訳なくて」
「いいよぉ。大したことじゃないから」
朗らかに笑う彼女。
ちょっとつり目で、ショートに切りそろえた髪や女子にしては高い背丈もあり、人によっては威圧感を感じるようだが、今日の彼女からはそれは微塵も感じない。
何より、浴衣姿ってのがレアだ。これまで制服かジャージ姿ばかりで私服もほとんど見たことなかったしな。薄い水色の生地に涼しげな朝顔が描かれている絵柄も、彼女に合ってるように思う。
花火会場となっている安倍川の河川敷に近づくにつれ、どんどん人混みは増えてきた。
数多くの屋台が並び、粉物を焼く匂いと音が高校生の食欲をそそる。
正直、高校生にとっては花火そのものよりこういう雰囲気の中で、浮かれながら買い食いするのが楽しいのだ。たこ焼き食べたりチョコバナナ食べたり、取れない金魚すくいに興じてみたり。それをスマホで撮ったり撮られたり。財布のひもが緩むのも仕方ない。
「いい感じじゃない」
佐藤が顔を寄せてささやいてきた。
「えっ、な、何が?」
急に近づいてきたことにちょっと慌てた。
「決まってるじゃん。あの2人だよ」
食べかけのチョコバナナを挿した方向には、高橋と秋本。
……そういや、それが本来の目的だったな。
「いい感じには見えるな」
確かに2人とも楽しそうだ。よくしゃべっているし、よく笑っている。
さっきなどは、佐々木・梶に煽られて、たこ焼きを互いに食べさせ合ったりしてた。
「もう、私たちはお役御免かも」
確かに俺らのやる事はもうないかもしれない。2人のフォロー(煽り?)は佐々木・梶に任せておけば問題ないようだし。
「まあ、俺らは俺らで楽しめばいいんじゃないの」
「だよねー」
にっこり笑う彼女を見ていたら、不意に浮かんできた高橋の言葉。
『先輩は、佐藤部長だけを誘いたかったんじゃなかったのかなって』
いやいやいや。佐藤をそんな目で見た事一度もないしっ。
彼女はただの部活仲間。それ以上でもそれ以下でもない。特別な感情もないっ。
『先輩と部長なら、お似合いかなって』
いやいやいやいやいや。
そんなタイプじゃないだろ、俺は。
俺も高校生だし、同級生と『彼女欲しいなあ』なんて言う事はあるよ?けど、本気じゃないとゆーか、社交辞令とゆーか、どうせ俺のような非モテ男子にできるわけないってゆーか。
なんか彼女いるヤツってのは、別世界の住人のように感じてたんだよ。
だいたい、佐藤が彼氏持ちかどうかも知らんし。
…いるんだろうな、どうせ。
さっぱりとした性格で、男女隔てなくコミュニケーションが取れる。見た目だって悪くないし、色んな意味で目立つ。
そりゃ、相手いるよなぁ……。
…あれ?
なんで俺、がっかりしてる??
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