第2話 部活の後輩の恋を応援することになった件


 いろんな名前や部活の話がでてきたので、説明した方がいいだろう。

 俺や佐藤たちが所属してるのは、ギター部という、あまり一般的ではない部活だ。

 その名の通り、クラシックギターを演奏する部活で、ちゃんと高文連主催の全国大会もある。


 それで、女子校の流れをくむこの城東高校では、伝統的に女子がギター部部長となる。単純に女子部員が多いというのもある。

 43人中、男子部員は俺を含め6人だ。更に言うと3年男子は俺しかいない。1年生の時はもう少しいたが、転部したり幽霊化して俺だけが残った。

 で、副部長は男子がやるのが慣例だそうで(いれば、の話だが)、自他共に認めるリーダー性皆無の俺に、一応副部長の肩書きは回ってきていた。


 また、ギター部の絶対数が少ないこと、本校ギター部が女子校以来の伝統校であること(吹奏楽とか音楽系部活は女子の比率が高い)、顧問が変わっても地域に根付いた指導者がいることなどから、全国大会の常連校になっている。

 今年も7月末の全国大会に出場を決めていて、それをもって俺たち3年生は引退、受験に専念するのが基本的コースとなる。


 そして最後の仕事になるのが後継部長の指名だ。


 佐々木は、軽いし頭悪そうなしゃべりだが、実は努力家で演奏技術も高い。何よりコミュニケーションモンスターで、誰ともすぐ友達になれるという稀有な才能を持っており、特に他人の恋愛話にはいつもアンテナを高くしている。

 ある種の人望というか、自分を中心に濃い人間関係を構築している佐々木なら、十分部長をやれると思う。暴走気味なところは、いつも一緒にいる梶が止めてくれるだろうし。


 そういうことを、一応肩書き副部長の俺にも了解をとるためにこの場を設けた、と思ったんだが。


 あと、話に出てきた高橋、高橋拓海たかはしたくみってのは2年生唯一の男子部員だ。俺と同じような事情で学年1人の男子となり、自然、俺と組むことが多い。残り4人の男子は1年生で結束しているし、先輩づらして入り込むのも気が引ける。

 明るくちょっとかわいい感じの男子で、こんな無愛想な俺にもよく懐いてくれている。


 もちろん、来年の副部長の肩書きは高橋にくっつくことになる。

 似合う、とは言えないが、俺でさえできたのだ。女子にかわいがられている奴なら、充分にこなせるだろう。

 …でも、彼女がいるかどうかは知らん。興味もない。

 どう考えても、聞く相手を間違ってる。


 ♢♢♢


「わたしもぉ、センパイに聞くのはホントは不本意なんですよぉ〜。でもでもぉ、高橋クン、あー見えてけっこう口が硬くってぇ」

 情報通を自認している佐々木なら、そう思うのも無理はない。

「まあ、それらしい付き合いの女の子はいない感じなのですが、一応確認出来ればと」

 梶は冷静な態度を崩さない。

「じゃあ、なんで俺に聞く?」

 俺が人間関係に疎いのは、知ってるだろうに。

「あくまでこれは確認です。副部長にはもう一つ重要なお願いがあり、その付け足しなようなものですので」

「そーなんですよぉ〜。岡本センパイっ、高橋クンを誘って安倍川の花火大会にきて下さいっ!」

「花火大会?なぜ??」

「それはもちろん、レナのためですよぉ」

 また別の名前が出てきた。


 レナとは、秋本玲奈あきもとれいなのことだろう。

 2年生の後輩で、佐藤がかわいがってる子だ。もちろん佐々木たちとも仲が良く、口数は多くないがいつもにこにこしており、小動物的なかわいさがある。

 ここで、秋本の名前が出てきたって事は…。


「あれか?高橋と秋本をくっつけようとか、そんな算段をしてるのか?」

「ピンポーン‼︎やー、岡本センパイも気がついてましたかぁ〜」

「さすがにな」

 秋本は、高橋と話す時にはあからさまに態度が違う。ワタワタして、顔が赤い。

「高橋も嫌がってる感じはありませんし、いいカップリングだと判断しました」

 梶が断言する。…マンガなら、キランとメガネが光るとこだな、きっと。


「でもさ、それは周囲が口を出す事じゃないんじゃないかなぁ?くっつくもくっつかないも、2人が決める事だと…」

「それじゃあ、ダメなんですよぉ〜!」

 言葉を被せてくる佐々木。…俺、これでも先輩なんだけどな。

「わたしたちはレナを何度も煽り…、いえ、励まして、告白させようとしましたが、あのヘタレ…いえ、おとなしい性格ですので上手くいかず」

 …梶よ、毒舌が隠し切れていないぞ。

「だからぁ、高橋クンからコクらせるシチュエーションが必要なんですよぉ〜!」

「花火大会、いつもと違う浴衣姿、花火に照らされる横顔…。これでグッとこない男の子はいないでしょう」

「もちろん、わたしたちもサポートしますしぃ」

「そして、2人は不器用に指を絡めながら、物陰に…」

 おーい、梶?妄想の世界に行ってないか?


 と、前のめりな2年生2人より一歩下がって、複雑な笑顔を浮かべている佐藤に気がつく。

「佐藤は、どう思う?」

「わたし?」

「そう。こんな企て、お節介だとは思わないか?」

 佐藤は後輩の秋本の面倒をよくみているし、秋本も懐いてるように見える。

 ある意味、俺と高橋の関係に似ている保護者ポジションだから、興味本位の2人組とは違った視点があると思うのだが。

「うーん…。お節介だとは思うんだよ、確かに。けどさ、わたしレナの気持ちも知ってるからね…。うまくいったらいいなとも思うし」

 ふぅむ。消極的賛成ってことか。


「もちろん、高橋君がその気じゃないのに無理矢理くっつけることはしないよ。それはレナにとってもいい事じゃないし。この2人が暴走しそうだったら止める」

 軽く睨むように2年生コンビを見る佐藤に対し、

「そんなことしませんよぉ〜」「偏見です」

 と、それぞれのキャラらしい返答。

 まあ、こいつらもそこまで横暴じゃないだろう。

 そう、思いたい。


「それにさ、うまくいくかどうかは置いといて、今回久しぶりの花火大会だから単純に見に行きたいってのはあるのよね、わたしは」

 そうなのだ。台風やらコロナ禍やらで3年連続で中止され、関係者とって今年こそはという思いがあるらしい。前に見たのは中学2年の時だったか。時の経つのは早い。

「岡本氏も、高橋君と一緒に花火見にいくってくらいのスタンスでいいと思う。そこで、わたしたちと会ったとしても、あとは2人の問題ってことだよ」

 そんな感じで佐藤に言われれば、それくらいのことかとも思えてくる。


 俺としても、花火大会には行きたいと思っていたのだ。ただ、ボッチ気味の俺には気軽に誘える友達が少なく(いないわけではない。念のため)、1人でいくのもなんだしなぁ、と考えていたので、ある意味、いい口実ができたとも言える。


「わかったよ」

 結局、こいつらにうまく動かされてるなと思わなくもない。だが、意地を張っても仕方ない。

「ただ、誘うだけだからな。断られても文句を言うなよ」

「センパイ、あざぁ〜す!」

「心配無用です。副部長と同じく、高橋もボッチ気味ですから、喜んでついてくると思います」

 …いちいちイラっとする言い方だな。

 この10分ほどの話し合いの中で1番変わったのは、梶に対する認識かもしれん。真面目実直な子だと思っていたんだが、結構なクセ者に変わったわ。





















 

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