私とアイツの、呑気な日常

@manta100

私とアイツの、呑気な日常

西暦、無量大数年。

人類は、なんだか知らないが降ってわいた超能力なんか手に入れたりしてたのだが、なんだかんだと平和にやっていた。



トン、トン、トンッ。

何時ものように、軽快に壁を蹴り昼下がりの町を跳ぶ。

それなりに暑い。日差しがうっとおしい。


低い屋根が雁首そろえて並んでいる住宅街では正直せまっ苦しく感じるが、昔の人は私のように飛んだり跳ねたり出来なかったらしいので、「狭い」と思うことはあっても「憤る」事はまあない(不便だったんだなあとは思うが)。


「よ、っと」着地。

学校からおよそ13歩(私基準)。

コンクリの地面と水路の水音。

毎日のように私はここに足を運ぶ。


「………」

ばしゃりばしゃりばしゃり。

アイツはおらず…いや、多分あのめっちゃ波打ってる水路の中にいるな?

またぞろ何か見つけたか…


バチンッ!バチバチ…

水面を電気が撫でる。私に”見える”ってことは結構な高出力だ。


「………」

その電撃から2,3秒後には水面は静かになっていた。


「…はあ」

私は溜息をつくと、その辺に置いてあった鉄パイプとロープ、それと鉤爪で作られた釣り竿(らしきもの)の糸(だと思われる)を水中に放り込んでやる。

じゃぽん。立てる音が夏にぴったりである。


――反応はすぐにあった。何かひっかけて、あっこれクソ重い!


「…ふんぎぎぎぎ…力、仕事は…オマエの…担当だろ…!」

必死に引っ張る。私は速度があるからってパワーもあるわけじゃないぞ!


「ぶはーっ!きつかった!」

ばしゃーん!ぶるぶるぶるっ。ぺたぺたぺた…

そんなことを考える間もなく”パワー”担当である奴…”アー”の奴は水からあがってきた。


「アーッ!早く代われ!きついわボケ!」

「あっごめんごめん、すぐ代わる、すぐ代わる!」

ぺたぺたぺたーっ。裸足に水路の水が張り付いて足音が滅茶苦茶呑気だ。

「早くしろ…!って言うかオマエ、今度は何見つけて捕ってたんだ…!めっちゃ重いんだけど…!」

みしみしみしみし…!こっちの釣り竿から立ってる音は全然呑気じゃないんだけどな…!

「なまず」

「なまずゥ!?…ああ、近頃なんか大量発生してるって言う”デンキビリビリナマズン”か…?あの電気量は…」


私よりちょいと(とアイツは言い張るが実際はかなり)ちっこいアイツは、私の懐に入って釣り竿を持つ。


「よし!じゃあタイミング合わせて~…」

「はいはいっと。この前みたいにカウント間違えて先走るなよ」

「がんばる」

「その受け答えが不安なんだけど!?…まあいいや、ほいカウント」

「へい」

「「さーん、にー、いーち!」」ぴくっ。

「「…ぜろ!」」


どっばしゃあーん!


――こうして。景気の良い水音を立てながらデンキビリビリ”オオ”ナマズン(大物サイズ)は引っ張り上げられ私たちの懐に収まることとなったのだった。


アイツ、ちょっと一瞬「いーち」のタイミングで引き揚げようとしたのは見なかったことにしてやろうと思う。



「いや、このサイズ差はねえよ」

私は指先で持ち上げ、びちびちしているデンキビリビリナマズンと。

――どでんと後ろに横たわっている、空地に置いてある土管を超えるであろうほどの大きさの釣り上げたデンキビリビリオオナマズンを見比べる。


「そうかねえ、これぐらいきっとあるよ、あるある」ぎゅーっ。

アイツは呑気に安物のTシャツを絞って水を出している。

色気のない、男子小学生みたいな身体だ。

こいつが女子の挙句、私と同い年とはとても信じられん。


「あるかなあ…あっくそ」

かばんからライターを探す。…見つけたが時化っていた。

釣り上げるとき水かぶりまくったからさもありなんと言った所だろうか。


「えー困ったな…たき火で乾かそうと思ったのに…あっそうだ」

ちょっとピーンと来て、デンキビリビリオオナマズンを包丁で解体し始める。


「およよ、ワッちゃん何解体してるのー?」

「ワッちゃん言うな、アーちゃん。見ての通りだよ、電気出すなら電気袋があるじゃん…」


しゅばばばばばばばば。

ちっ、包丁がなまくらで切るの面倒だな。もうちょっと速度を上げて切るか…


「と言うかアの助、次は包丁もうちょっといいの買い直しておけ」

「はーい」

「構造はでかくてもマジで変わらないんだな…生物の神秘…っとと…あったあった」

電気袋はそのまま掴むと私にも電気が流れるので、取ったら電気が流れてくるより前に手放し、そしてまたキャッチ。

これを繰り返して運び、さっきの釣り竿を使って縛り、吊るす。


「アー、お前は触るんじゃないぞ。こうやって運んだりできるの私だけだからな」

「ワッちゃんは面倒見がいいねえ、それで?これからどうするの?」

「まあ見てろって…」


たき火の薪を用意し、切り取ったデンキビリビリオオナマズンの髭をケーブル代わりにする。


「離れてろよー」「はーい」ささささっ。

アーの奴がしっかり退避した事を確認すると、電気袋にくっつけた髭どうしを、薪に接触――


――――どごーん!ごろごろごろごろ…


火はつかず、薪は消し炭になり、私の髪の毛はちりちりになった。



ぱちっ。ぱちぱちっ。たき火が小気味よい音を立てる。


「――最初っから小さいナマズのを使えばよかったな…」


デカいナマズのだと出力が過剰すぎた。

その証拠につるされた電気袋は夕暮れ時でもめっちゃバチバチ言ってるし、蚊が飛び込んでは死んでいっている。

そう簡単に電力がなくなるとは思えん。


「ワッちゃんのうっかりさん。あ、これもう焼けてるかな」

「誰がうっかりさんだ、それはまだだからこっち食え」


制服を乾かしながら二人で解体ばらしたナマズを食う。


「やっぱり魚は醤油だよね」

「私は塩も好きなんだがなあ」


刺し身はいまいち怖いので困った時は焼く。もしくは煮る。

何時もの通りだ。


「……っていうか、量が多い!食いきれないわこれ」

「干しとけば日持ちするからヘーキヘーキ」


呑気にそんなことを話しながらそれなりの量を平らげる。


「「ごちそーさまでした」」

串焼きだったので後片付けとかの面倒なことは全部たき火にぶち込んでしまえば終わる。

アイツはせっせせっせとナマズ干しの作業に入っていく。


「んじゃ、私はそろそろ帰るわ。こまいナマズはどうする?」

「んー。こっちで明日市場に売ってくるつもりだけど」

「大発生中なんだろ?イマイチもうからないんじゃないか?」

「まあそれでも取れたんだしねえ、あ、そうだワッちゃん」

「ワッちゃん言うな、で?」

「…おうちの方はどうなの?」

「…………全然ダメ、多分そのうちここに世話になると思う」

「そっか」


たわいもない会話をして、別れる。


「んじゃ、また明日」

「はいよー、また明日―」


こうして私の一日は更けていく。

明日も、明後日も、明々後日も。



トン、トン、トンッ。

何時もよりも遅く、壁を蹴り昼下がりの町を跳ぶ。

ぎらつく日差しは消えて、秋空に吹く木枯らしが冷たさを感じさせ始めた。

背負って飛び出してきた荷物が重い。


家から数えて普段なら42歩、今日かかった歩数は76歩。

何時もの水路にたどり着く。


「…………よう」

「おいっすワッちゃん…どうしたのその大荷物」


どさっどさっ。

家から持ち出せるだけ持ち出して来た私物を(勝手に)テントに入れていく。


「家出。今日からここ住むから」

「ありゃあ、とうとう」


着替え、教科書、目覚まし、スマホ、充電器etc…

夏に取ったデカナマズの電気袋はいつの間にやら立派なコンデンサーへと変貌を遂げ、アーの生活水準を上げることに多大なる貢献を果たしていた。


まさか私もその恩恵にあずかることになるとは思ってなかったが。

そうでもないか。いつの日かこうなるんじゃないかとは思っていた。


「で、やっぱり飛び出してきた理由って」

「うん、そう。”医者になれー”って一点張り」


――私の家は医者の家系だ。

そんでもって、私の”能力”は「思考、動作、全般スピードの高速化」と来ている。


つまり、外科医にはもってこいの能力であるのだ、が。


「私は別にそんな他人の命なんてしょい込みたくないんだよね~…」

「大変だねえワッちゃん」

「ワッちゃん言うなー…その干しナマズ取ってー…」

「お疲れですねえ、はい」

「あむ、むぐ…今日はどうすんの」

「山のほう行ってー、山菜とデカブツの情報があるから出たら取ろうかなって」

「あいよー」


子供っぽい意地を張っているだけなのかもしれない。

でも私にとっては大事なことである。

このまま流されて決めたくはなかった。

いつも通り接してくれるアーの気遣いが有り難かった。


何時もの日常が、少しだけ変わった。



「で、デカブツって何よ」

「えーとねえ…”ドンドコイノシシ”の首領ドンである”ドンドコドンドコ首領ドンイノシシ”だってさ」

「ドンドコドン…名前言いにくい」


そんなこんなで私たちはほど近い山へ来ていた。

普通に人里近いのでほって置いたらまあ被害が出る。

そう言うのを狩ったり売ったりしながらアーの奴は生活費を稼ぐわけだ。


「で、とりあえずはね、最近旬のノビルと、クリと、後は品種改良のせいでものすっごい臭くなったイチョウの”ハナガマガリチョウ”が」

「待って。最後の何」


まあ私はまだあまり一緒になってそう立っていないので素人とまでは言わないが、アーより詳しいと言えるわけではないがなんだそのふざけた名前と特性は。


「そんなの探すの!?と言うか匂いがそんなに臭いのならすぐわかるようなものじゃ…」

「それがねー、その匂いがちょうど”ドンドコイノシシ”たちを引き寄せて…」


ドンドコドンドコドンドコドンドコ。

何やらドンドコした足音が聞こえてくる。


「あっ、ラッキー。一匹来たよドンドコイノシシ」

「いや、普通に危ないレベルのスピード出しながらこっち来てるけど」


その台詞の通り、私たちの前に猛スピードでドンドコイノシシが迫ってきていた。


「だいじょーぶだいじょーぶ。ここはあたしに任せてちょーだい」

「…まあ、あのぐらいならあんたなら何とかなるだろうけど」


私は素早く離れ、ドンドコイノシシと正面から立ち向かうアーを見つめる。

スピードでは100%私が勝つが、あいつの能力は単純明快。


「んじゃいっくよー!どっこい…せっ!!!」どごーん!!!

『ブギャーッ!!!』


――見ての通り、ただ只管に力が強く、そして頑丈だ。

右手をぐるぐる回してイノシシに叩きつけても、へっちゃらどころか向こうの頭蓋骨が陥没するぐらいには。


「おりゃっ!おりゃおりゃおりゃおりゃーっ!」どごどごどがばき!!!

『バゴーッ!ブモ―ッ!ピギーッ!』殴られるたびにイノシシのどこかが壊れていく。


「おーい、それぐらいにしときな。毛皮とかが痛む」

「おっと、そうか!ワッちゃんがいるから今日からは毛皮取れるじゃん!」


――そしてまあ、それ以外はいまいち下手くそなのだ、アーの奴は。


――今日の所はドンドコドンドコ首領ドンイノシシは見つからなかった。

「向こうも結構賢いからこういうのは長丁場になる」とアーは言っていた。

…暫くはイノシシ鍋と山菜が続きそうだ。



ワッちゃんがここあたしのいえに住み着いて暫くたった。

秋空は過去に溶け、世間はクリスマスとか言っている。


「寒いなあ…」

「さむいねえ」


そしてあたしたちは安いテントに二人で過ごし、寒さに震えていた。

あたしは大体慣れてるけど、ワッちゃんが心配。

幸いドンドコイノシシの毛皮は二人分用意できていたから安心だけども。


「今日は釣りにしよっか、いいのが釣れたら売りにいこう」

「そうだな…よーし…」


そんなことを話してると、ワッちゃんがふと顔を上げた。


「…悪い、ちょっと待ってて」

「…はーい」


ワッちゃんが通路の方に出ていくと、ほどなくして怒号と言い争いが始まった。

ワッちゃんの家族の人が連れ戻しに来たのだろう。


「――だからお前は――」

「っせえ!学校には行って――」

「そう言う問題じゃ――」


言い争いは続く。

あたしは一人で釣りを続ける。

「…お、いい当たり…」


あたしには”家族”と言うものがよくわからない。

物心ついたころにはもういなかったから。


だから心配してくれる人がいる、と言うのは――正直ちょっとうらやましい。



ワッちゃんが戻ってきた。

「ッたく…何もわかってくれねえんだから…!」


「あ、おかえりー」どっさり。

「うわっ、凄い沢山釣れてる…!」

「結構長い間言い争ってたからねえ、どうなったの?」

竹と糸を合わせただけの釣り竿を振る(鉄パイプの方はデカブツ用だ)。


「…そのうち無理にでも連れて帰るって」

「そっかー、あっまた来た」

「入れ食い状態だな…」

「今日は調子がいいねえ、おおっと、またデンキビリビリナマズン」


何でもないかのように話をする。

ワッちゃんは細かいことを気にしがちだからね。


「…なあ、アーはどう思うよ」

「んーとねえ…」ひゅん。ちゃぽん。


――暫く一緒に暮らして、思ったことをそのまま言う。


「ワッちゃんは帰った方がいいと思うよ」ヒット。引き上げる。

「…は?なんでだよ」

「だってねえ」追加1匹、小魚が多いなー…


「ワッちゃんは、”命を背負うのがいや”とは言ったけど、”お医者さんになるのがいや”とは一言も言ってないんだよねえ」

「うぐ…」

「別にお医者さんになるのが嫌なわけではないんでしょ、なった結果患者さんを助けられないかもしれないって言うのが嫌なわけだ」

「………100%当たってますよこんちくしょう」

「にゅふふー、ワッちゃん検定1級もらえるかな」

「花丸あげるよ…」


まあ大体わかってたことだ。

それの他にもわかることがあたしにはある。


「それにねえ、心配してくれる人がいるってことは幸せなことだよー…だから、どんな道を選ぶにしても、帰って話し合った方がいいと思うんだ」

「…………アー…」


「まあ、とりあえず今日はデンキビリビリナマズンの天ぷらでも」

ぴーんぽーんぱーんぽーん。

その時、町内の緊急放送が流れる。


『緊急放送―緊急放送―、先ほど、裏山にて大型のイノシシが発見され、暴れております。近隣住民の方たちは速やかに避難を――』


「おっと、釣りはここまでかな」

「ん、まあそーだな…」


あたしたちは立ち上がり、今日の夕食を豪華にするために動く。


「へーいワッちゃんタクシー!乗せておくれやす!」

「あいよっ、振り落とされるなよ!」



現場についた時に感じたものは、ものすっっっっごい匂い。


「くっさ!!!」

「やーん、くさい…あ、そうかワッちゃんに説明し忘れてたね…」

「え!?いったい何が…」


『GAOOOOO!!!』

そして、そこに立っていたのは今までのイノシシとは一回りも二回りも大きさが違う、これぞ首領ドンと言う感じのイノシシ。


ドンドコドンドコ首領ドンイノシシ。

そして奴の口は、銀杏らしきものを食べて。


「ドンドコドンドコ首領ドンイノシシはハナガマガリチョウが大好物で、匂いを蓄えて外敵を追い払うためにも使うからめっちゃくさいの」

「んなことは早く言えやーッ!!!武器寄越せアー!」

「へいよっ!新品の包丁だよ!」


――そして渡されたのはサバイバルナイフ。


「これどう見ても包丁じゃあないんだけど!?」

「よく切れます」ふんすふんす。

「それはそうかもしれない!でも絶対アンタ勘違いして買っただろおいこっちの眼を見ろ!」


『BMOOOO!!!』

ドンドコドンドコドンドコドンドコ首領ドン

そしてそんな漫才を無視して向こうは突っ込んでくる。


「ええい、後でいくらかかったか教えてもらうからな!」

山の中ではいまいち私のスピードは生かしきれないが、補助に徹してアーに殴らせる位ならできる。

1歩圏内の樹に向かって飛び、そこから三角跳び、イノシシを切りつける。


ガリッ。

『UMOOO!』

「うそっ、牙で受け止めた…!?なら…」


一当てしただけでわかる、やはりデカブツでもボスは特に格が違う。

ならば私のすることは、攪乱。


『BAOOO!!!』うっとおしそうに振られる牙を跳び下がり避ける。

「十分!そこっ!」そしてそこにアーが走り込み、右ストレート。


どごんっ!!!『GUOOO!』

左脇腹に命中、効いてる!


「よっと!」

アーもすぐさま離れる。あれだけの巨体を相手にするには流石に正面からは厳しい。


「アー、徹底的にヒットアンドアウェイを繰り返すよ」

「はいよー、時間はかかるけど仕方ないね」

幸い、冬とはいえまだ昼頃。

日没にはまだ遠い。

じっくり時間をかけていけば――


「――あ?」

その時、私の視界の端に。

倒れている人が。あれは――


「ッ、お父さん!?」

さっきまで言い争っていた父親だった。


『UMOOOOOO!!!』

「――あ」

そしてそんなスキを見逃すような相手ではなく――突進が迫る。


どごんっっっ!!!

「――――…?」

思い描いた衝撃はなく、代わりに。


目の前に、アーの背中と両牙を抑えた腕が見えた。

一瞬後に庇われたのだとわかった。


「ふ、ぐ、ぬおおおおおお…行っ、て」

「あ、アー…!?」


無茶だ。いくらアーの怪力でも正面切っての押しあいなど。


「だい、じょう、ぶ。ぐぎぎぎぎ…ここ、から見るだけでも、あの人…今すぐ病院に運ばないと…命にかかわると思う」

「ッ」


それは、その通りだ。

今まで勉強した程度の知識でもかなり危ない状況だ。


「だから…行って、大丈夫…」

「大丈夫って、何が…!」

今の押しあいだってギリギリのくせに。


「…ワッちゃんは、優しいから、助けられる…!」

アイツの口から出たのは、私を気遣う言葉だった。


「っ、クソッ…!死ぬんじゃないわよ!」

やると決めたなら、即やる。そうしなければならないと教え込まれてきた。


走り、お父さんを回収。急いで病院へと走る。



『BUMOOOO!!!』

「さあて…あたしも、やり、ます、か」

ばきっ。ばきんっ。

無理やり両牙に指をめり込ませていく。

明日は多分筋肉痛だけど我慢。


『UMOOOO!?』

「だい、じょうぶ。あたしなら、大丈夫」

べき、べきべきべきべきべき…

折れろ、牙。

唸れ、あたしの身体。


そもそもこんな事には、あたしは慣れているのだ。

だから大丈夫。大丈夫に決まっている。


だって。

「――あたしは、ワッちゃんほど優しくはないからね!」



「た」「た」


「「ただいまぁ…」」


私たちがテントに帰り着いたのは、ほとんど同時だった。


「つ…疲れた…」ばたーん。

「あたしもー…」びたーん。


「…………どうだった、病院の方」

「…………応急処置、しっかり習っていてよかったなって」

「ああ、それはよかったー…」

「アーの方は…」

「からだ、めっちゃ、いたい、です」

「そりゃあ…そうなるか…」


「…………」

「…………」

「…………ねえ、アー」

「…………なあにー」


「私、一回帰ろうと思う」

「うん、そう言うと思った」

「何で先読みしてんのよ」

「まあ、なんとなーく?」


「…………とにかく、ちょっとしっかり話し合ってみるわ」

「うんうん、それがええそれがええ」

「まあ、普通にこっちも来ると思うけど」

「あはは、それじゃあいつも通りだ」

「うん、いつも通り」


がばっ。

私は立ち上がり、広げていた私物を手早く仕舞っていく。


「よいこらしょっと…忘れ物ないかしら」

「無いとおもうよー…」

「よし」


そして、テントから出て、いつも言っていた台詞を言う。

「んじゃ、また明日」

「はーい、また明日―」



トン、トン、トンッ。

何時ものように、軽快に壁を蹴り昼下がりの町を跳ぶ。

寒かった時期を超え、春うららと言った具合である。


「よ、っと」着地。

学校からおよそ13歩、家からなら42歩(私基準)。

コンクリの地面と水路の水音。

毎日のように私はここに足を運ぶ。


「はーい、おはよう、アー」

「あーい、おはよう、ワッちゃん」

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