第2話 お姉さんは呼ばれたい
はあ......どうしてこうなったのか......未だに理解が追いつかない。こんな展開、ライトノベルでしか....いやライトノベルですらあまり見たことがないんだが!
こういうシチュエーションに一度は憧れたりしたものだが、いざ現実になるとパニックになってしまう。
ラノベの主人公の適応力とは凄まじいものであるな。この際若干のキャラ崩壊は許してほしい。
「はぁ.......」
この先上手くやっていけるのか?彼女すらできたことない、さっきからため息ばかりついているこの男が大学生のしかも超美人のお姉さんと。まったく....先が思いやられる。
「
「あ.....はい 分かりました」
着替えやら私物やらが入った段ボール箱を車から取り出し、玄関に向かう。
玄関に入った瞬間に感じるこの清潔感!しっかり掃除されているのはもちろんのこと、置いている装飾品はどれもセンスが良く、とてもおしゃれな雰囲気である。
「いらっしゃい!ここが今日から君の家になりまーす!改めてよろしくね!」
さっきから気になっていたのだが、なぜこの人はやたらテンションが高いのか....
普通、思春期真っ只中の男子高校生との2人暮らしなんて緊張するものだろうに。
というか現に僕がめちゃくちゃ緊張しているんですけど!
なんとか荷物を一通り家の中に入れ終えた僕たちは少し遅めの昼食をとることにした。
なんとこの人!料理も作れちゃうんですって!
こんな完璧な人の彼氏ってどんな人なんだろうか。すごく気になる。いや違うな.....私、気になります!
「あの.....突然すみません。
「ごほん!」
僕が聞き終える前にわざとらしい咳払いをし質問をシャットアウトしてきた。
さすがにあってまだ数時間しか経っていない女性にする質問ではなかったな。少し反省しながら
「すみません....いきなり変なこと聞いて....」
「いいのいいの気にしないで~」
笑顔でそう言った唯さんの気持ちの切り替えに内心驚いたが、許してくれたのなら良かった。
すると、
「まあ...君がどうしても知りたいなら教えてあげないこともないけど~」
なんだその微妙に分かりにくい言い方は!まあでも最初に本人が嫌がったような様子だったので、無理に聞く必要も無い。
「いえ...やっぱり大丈夫です」
「そう?遠慮しなくていいのに....」
ちょっと!なんでこの人シュンとしちゃったの!さっき咳払いして会話を無理やり終わらせようとしましたよね!
どうも僕に女心と三平方の定理は一生理解できないみたいだ。難しいな....
しばらく待っていると、香ばしいチーズの香りが漂ってきた。
「あの、何を作っているんですか?」
「ん?カルボナーラだよ。君のご両親が君がカルボナーラが好きって言ってたから作ったんだけど....もしかして苦手だったりする?」
「いえ、そんなことないです。めちゃめちゃ好きですよ。ただ驚いたというか.....僕の好きなものを作ってもらえたってことが....」
「いいのいいの!私が作りたくて作ってるんだから!」
そういってテーブルに持ってきたカルボナーラはお店で出されるものと比べても遜色ないくらい美味しそうだった。
「凄い....こんな美味しそうなカルボナーラは初めて見た....」
「いやぁ...照れるなぁ...冷める前に食べましょう。いただきます」
「あっはい!いただきます」
なんだこの味は!まろやかなチーズと少し固めの麺がとても僕好みの味だった。
「めっちゃ美味しいです!」
「そう?なら良かった!君好みの味にしたつもりだったから」
こんな綺麗な女性が僕好みの味で料理を作ってくれることに感動を覚えつつ、最後までカルボナーラを堪能した。
昼食を終え、部屋の模様替えをやっていると唯さんが部屋に入ってきた。
「少し狭いと思うけど我慢してね。あと寝室だけど私と同じ部屋だから~」
「あっはい!分かりました......ってちょっと待ってください!さらっと何とんでもないこと言ってんですか!」
しれっと爆弾を放り込み、部屋を出ていこうとした唯さんを引き留める。
「とんでもなくないよ~一緒の部屋で寝るだけだよ~」
「いやいやいやいや!その....一緒の部屋で寝るってことが問題しかないですよ!」
「大丈夫、私は気にならないし、君に手を出したりしないから」
「唯さんはいいですよ!唯さんは!そこじゃないんです!僕がなにかするかもしれないってことですよ!」
「今、君がそう言ってる時点で手を出す気が無いことくらい分かるって。」
信頼されてるのか男として見られていないのかどちらかだが、後者だとしたら少し悲しいものがある。男として。
「んじゃそういうことで~」
「あっちょっと待っ.....」
呑気にそう言い出て行ってしまった....なんだこの展開は!おかしいにもほどがある!
ただ同じベッドと言っていなかったのが唯一の救いだ。これはいわゆる叙述トリックってやつだな。フハハハハハハ甘いな!騙されないぞ!まぁ最悪床に布団を敷いて寝ればいいし確かにそんなに問題無いのかもしれない。
そう考えることにし、再び部屋の模様替えを始めるのであった。
時刻は午後4時を過ぎていた。そのころになると、大方部屋の模様替えも済んでおり、自分の部屋が完成していた。元々、趣味が読書かゲームくらいの僕なのであまり置くものがなかった。
というか、さっき唯さんが少し狭いかもと言っていたが、そうでもない。僕が前に住んでいた家の自分の部屋より少し大きいくらいだ。とんでもない人だ.....
もうやることが無いので、唯さんの手伝いにでも行くか。そう思い、2階の自分の部屋から1階のリビングへ向かう。
「あの なにか手伝えることはありますか?僕に出来ることならなんでもやりますよ」
「じゃあ、お風呂にお湯入れてきてほしいな。えっと場所はリビングを出て右側にトイレがあるでしょ。そのとなりだから」
「はい。了解です」
そういえばお風呂まだ見てなかったな。こんなに広い家なのだからお風呂も広いんだろうな。
言われた場所に来てみると、案の定広い。なんかもうマーライオンとか付けたら高級ホテルのお風呂になりそうな感じである。しかも目立ったカビなどもなく、とても清潔感がある。もう、使うのが怖い。
気をたしかに保ち、お湯を入れる。とんでもない人の家に来てしまったと改めて感じるのであった。
「入れてきましたよ」
「ありがと~もう少しでご飯ができるからちょっと待っててね」
「分かりました」
15分くらい経っただろうか
「できたよ~食べよっか」
どうやら夕食はハンバーグらしい。昼食と同様、随分と手の込んだ料理を作ってくれている。ささやかな引っ越し祝いみたいなものだろうか。そうだとしたらありがたいな。
やはりハンバーグも絶品だった。じっくり焼いているからだろうか柔らかくて、箸で切ると肉汁がたっぷりでてくる。ファミレスのハンバーグで満足していた今までの僕がかわいそうに感じる。
食べ終えて、水を飲んでいると、唯さんが
「ねぇ今、私の料理を食べ終わったよね」
「はい....食べましたけど....どうかしました?」
「私の料理を食べた君にお願いがあるんだけどいいかな?」
いきなりなんだろうと思いつつ、
「まぁ僕に出来る事だったらなんでもやりますけど....」
「それじゃあ....あのね....えっとね....聞いてほしいんだけどね」
「はい、なんでしょう」
「えっとね....私のことを
お姉ちゃん
って呼んでほしいの!」
「え.....あのもう一回言ってもらっていいですか?」
「.......ちゃんと聞いてね。その......私のことをお姉ちゃんって呼んでほしいの!」
「えっと....僕が唯さんをお姉ちゃんと呼べばいいということですか?」
「......うん」
「えっと.....お姉ちゃん?」
「っっ///.....もう一回」
「お姉ちゃん....」
「くぅぅぅぅ///」
「そんなに恥ずかしがらないでください!こっちまで恥ずかしくなります!」
「ちょっと待ってて!」
「あっ 待ってください!どこ行くんですか?」
本日3度目のよく分からないことが起きている。なんで僕にお姉ちゃんと呼ばれたいのかがいまいち分からない。あれだろうか弟が欲しかった的な。というかどこ行ったんだ?いきなり飛び出していったが....
「おまたせ!」
そう言って戻ってきた唯さんの手にはスマホが握られていた。なんとなく嫌な予感がした僕は
「あの....もしかしてですけどスマホで撮るつもりですか?」
「お願い!1回だけでいいから!永久保存版なんだって!」
「い、嫌ですよ!恥ずかしいですって!」
「一生のお願い!可愛かったんだって!」
「なに子供みたいなこと言ってるんですか!ダメなものはダメです!」
可愛いと言われて悪い気はしないが、それとこれとはまた別問題である。
そんなにお姉ちゃんと言われて嬉しいものなのか。きょうだいがいない僕にはいまいち分からないが....
「なんでそんなにお姉ちゃんて呼ばれたいんですか?」
「だって....ずっと弟が欲しかったんだもん....今日1日中ずっとタイミングを探してて思いついたのが美味しい料理を食べさせれば呼んでくれると思ったから....」
なんだか今日1日中感じていた違和感はそういうことだったのか。
2度も作った手の込んだ料理は自分のお願いを聞いてもらうためで、同じ部屋で寝ようとしたのも、ただ単に僕のことを既に弟だと認識していたからだろう。
きょうだいで同じ部屋に寝るのがアリかナシかは議論の余地があるが....
しかし、ここまであからさまにシュンとされるとなんだかとても居心地が悪い。
まぁこれからずっとお世話になるんだからお姉ちゃんと呼ぶくらいならいいんじゃないか。それくらい大事に思ってくれているってことだと思うし。
「わかりました。今から唯さんをお姉ちゃんと呼びます。でも恥ずかしいのでスマホで撮るのだけはやめてください。その分いつでも呼んであげますから」
「いいの?これから毎日お姉ちゃんて呼んでくれるの?」
「大丈夫です。ちゃんと呼びますから」
「やった!やった!スマホで撮らないからその代わり毎日お姉ちゃんて呼んでね!」
「はいはい分かりましたえーっとお姉ちゃん」
「よろしい!」
突然子供のようにはしゃぎだした唯さんもといお姉ちゃんを微笑ましく思いつつ食器を片付け始めるのだった。
お風呂にお湯を入れたときも思ったが、浴槽がかなり広い。平均的な身長の僕が足を伸ばして肩までつかれるくらいの大きさがある。
今日は本当にとんでもない日だ。思い出すだけで頭が痛くなる。しかし、どれもそこまで悪いことではなかったと思えた。
唯さんは少し....いや、かなり変わってる人だけどすごく良い人だ。弟という存在に対しての愛は異常だけど家族思いなのだろうとわりきってしまえば問題ないことないが、これからお世話になるんだ。大目に見よう。
風呂からあがり、リビングに行くとなにやらテレビを見ていた。
「唯さ...お姉ちゃんなに見てるんですか?」
「なにってAVだけど」
「なんてもの見てるんですか!今すぐテレビを消してください!」
「なんで!動物可愛いじゃん!もしかして動物嫌い?」
「そこじゃないです!アニマルビデオをAVって略さないでください。紛らわしいです」
「弟くんよ なぜ君はそこまでAVに過剰に反応したんだい?ほれほれ言ってくれたまえよ」
「からかわないでください。お姉ちゃんて呼びませんよ」
「ごめんなさいごめんなさいどうか私目の無礼をお許しください!」
「冗談ですって」
「そっか....なら良かった。ていうかなんでさっきから敬語なんだい?きょうだいなんだからため口にしてちょうだい」
「わかった....お姉ちゃん」
「よしよしいい子いい子」
そう言い僕の頭をポンポンと軽く叩く。なかなか悪くない。おっとまずい、形だけとはいえ一応は姉だ。あまり意識してはいけない。
必死に邪念を払っていると、
「じゃあ先に寝てるから。部屋の場所は君の部屋の一個奥だから。あまり遅くならないようにね。それじゃおやすみ~」
一時間ほど携帯をいじり、時計を見るともういい時間だった。
これから僕は美人女子大生と同じ部屋で寝るのか....姉とはいえ一応今日が初対面だったので超緊張している。どうか床に布団が敷いてあってくれ!強い思いを胸に抱き、寝室のドアノブに手をかける。
「よろしくお願いしまぁぁぁすっ!!」
開かれた扉の先には唯さんが寝ているベッドの隣になんともう一つベッドがあったのだ....もうダメだぁ....おしまいだぁと某サ〇ヤ人の王子のごとく絶望する。
童貞にこの人の隣で寝ろというのかっ!
しかし、置いてあるものは仕方ない。今日は諦めるしかない。明日改めて相談しよう。そう思いベッドに入ることにした。
ほんとは一緒に寝たかったんだろって言われそうだったので一つ言わせてもらおう。
ほんのちょっとだけ思ってたよ!
その後まったく寝付けずに朝を迎えてしまったのは言うまでもないことだった。
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