第3夜 「異世界転生」

 ……皆様ごきげんよう。案内役の "まほろ" でございます。今宵も「幻話まほろば」へようこそお越し下さいました。


 皆様は "異世界転生もの" というジャンルをご存知でしょうか? 


 アニメやライトノベルで今人気のジャンルで、事故などで一度死んだ主人公はチート能力スキルを持って異世界に転生し、能力を駆使して大活躍をします。


 さて、今宵の主人公もまた不慮の事故に遭い、やはり異世界に転生を果たす事になります。果たして彼が転生するのは勇者でしょうか? それとも魔王でしょうか?



 それでは今宵の幻話まほろばを語り始めると致しましょう……。



 ◇



 俺の名前は東雲優しののめゆう


 だが、その名で呼ばれていたのは昔の話。事故に遭い、命を落とした俺はここ異世界に転生を果たした。"町民A" として……!!


 いつも町の入口に立っていて、勇者様御一行が町を訪れたら「ようこそ! ここは○○の町です」ってファミレス店員みたいな台詞で出迎える。それが俺の役目だ。


 いやいやいやいや……おかしいでしょーが!! 普通異世界転生っつーたら、勇者か魔王になるのが定番じゃね!? 何が悲しゅ〜てこんなモブキャラなんぞに……。

 

 ……まぁ、文句を言った所でなってしまったものは仕方ない。何事にも全力で取り組むのが俺のモットーだ。ここはしっかり "町民A" を務めあげてやろうじゃないか。


 ちなみに断っておくが、別に俺は46時中町の入口に立ってなきゃならないって訳じゃない。こういうのはちゃんと当番制になっていて、他の場所も含めて町の住民が交代でそれぞれのポジションに付いているって訳だ。

 RPGだとモブキャラは顔の区別がないからわからなかったが、まさかこういうシステムだったとは驚きだ。



「勇者様が見えられたぞー!!」



 見張り台から伝令が走り、この町への勇者一行の来訪を知らせた。


 俺がこの世界に転生して早1ヶ月。勇者にお目にかかるのは初めてだ。RPG好きの俺としては、ここは興奮を隠せない。


 お! 勇者キターーーー!! よし、最高の挨拶を決めてやろうじゃないか!!


 

「こんにちは! ここはハニワハンの町です!」


 (うぉぉーー!!勇者様カッケー!!やっぱ俺も勇者に転生したかったよなぁ〜!)



 渾身の笑顔で挨拶を決めた俺は、勇者に続いてやってきた僧侶のお姉さんに目を奪われた。



 (なんつーキレイなヒト……いいなぁ、俺もあんな美人にヒールされてぇ〜)



 見とれている俺の視線に気付いたのか、お姉さんが俺を見てニッコリ微笑んだと思ったらこちらに歩み寄って来た。


 風になびく腰まで伸びた黒髪。どこか俺の祖国、日本の着物を思わせる気品溢れる装備。「私、実は女神なんです」と言われても信じてしまいそうなその完璧すぎる美貌……。



『こんにちは♪ お役目ご苦労様です』


「あ……ど、ども……あざっす」



 すると、僧侶のお姉さんは俺の目をじっと見つめ、



『あら? あなた、この世界の人ではありませんね?』


「え!? 何でそれを?」


『ふふ……高レベルの僧侶だから、という事にしておきましょうか。それでこの世界にはどうやって?』



 ……俺は元の世界で事故に遭って死んだ事、そして気がついたらこの町の入口に立っていた事を話すと、お姉さんは興味深そうに聞いてくれた。



『それは大変でしたね……どうですか? やはり元の世界に帰りたいですか?』


「ま、まぁ、そりゃ帰れるものなら……」


『帰れるかもしれませんよ?』



 お姉さんはそう言いつつ、羽根の形をしたアイテムを俺に手渡してくれた。



「これは、ギャメラの翼?」



  ーー "ギャメラの翼" とは、怪鳥ギャメラの羽根から作られた、使用すると一度でも訪れた事のある町や村に一瞬で移動出来る便利アイテムだ。一回使うと無くなるのと、地下や屋内では使えないのが難点だが。ーー



『世界を渡り、旅をすると言われる幻の怪鳥 "アサギギャメラの翼" です。この世界だけでなく、一度でも訪れた事のある場所なら移動出来るそうです。よろしければ、お使い下さい』


「元の世界に帰れる……こんな貴重な物を、何故俺に?」


『残念ながら、異世界に行った事のない私達が持っていても宝の持ち腐れですので。一応 、屋内やダンジョンでも使えますから戦闘からの緊急脱出用に取っておいたのですが、これはあなたが使った方がよろしいでしょう』



 そう言って俺の手を優しく握ってくれたお姉さんは、最後に『あなたに神の御加護がありますように』と言い残し、先を行く勇者を追って行ってしまった。



 ◇



 お役目を次の担当に交代した俺は、町の程近くにある "いざよいの洞窟" に潜っていた。ここでモンスター相手に剣の修行をするのが役目後の俺の日課になっている。

 町がいつモンスターに襲われてもおかしくない世界だから、一般市民といえど戦う術を身につけて然るべきなのだ。


 既に俺にとっては雑魚と化してしまったモンスター共を相手にしながら、俺はさっきもらった "アサギギャメラの翼" の事を考えていた。


 

 (考えてみれば、元の世界の俺はもう死んでる訳だよな……このまま帰ったとしても大騒ぎになっちまうよな。「実は生きてました〜! ドッキリ大成功〜!」とか言ってごまかせばなんとかなるか? うーむ……)



 イマイチ使用を踏ん切れず、モヤモヤした気分の俺はうっぷん晴らしを兼ねて地下2階に潜り、レベルの高いモンスターを相手にする事にした。



………


「さすがにフロアが変わると手応えが違うな……」



 思った以上に苦戦を強いられた上、回復アイテムも底をついたので俺は地下1階に戻ろうとするが……。



「だ……誰か……!!」



 地下2階の奥から聞こえてきた悲鳴のような叫び声が俺の足を止めた。


 無視する訳にもいかず、急ぎ声がして来た方へ走って行くと、若い女の子が壁を背にモンスター共に囲まれているのが見えた。



「おいおい、マジかよ!!」



 俺は反射的に飛び出してモンスターの1匹に斬りかかり、奴等が怯んだ隙に女の子とモンスターの間に立ちはだかり、後悔した……。



 ……俺のレベルでこの数の地下2階モンスターを、ましてや女の子を守りながら相手にするなんて無理だ。クソッ後先考えずに飛び込んじまったぜ……。



「あなたは……いつも町の入口にいる、えーと "町民A" さん?」


「……頼むからその呼び名はやめろ。俺にだって名前くらいある。あんたは……確か宿屋の娘のエイミだったか? 何でこんな所に?」


「父が病気で特殊な薬草が必要になって。この洞窟の地下2階のじめじめした場所に生えているって聞いて……」



 彼女が大事そうに抱えているポーチ。多分その中に薬草が入っているのだろう。よく無事に入手出来たもんだ。



「 "魔除けのサイリュームライト" が手を滑らせて穴に落ちてしまって……Aさん危ない!!」

 


 俺は咄嗟に身をかわしたが、 "しゃれこうべ戦士" の振る剣の切先が左手を掠めた。



「大丈夫ですか!?」


「かすり傷だ! それよりAさんって呼ぶな!」



 ………

 ………


 ザシュッ!!


 ギャーース!!


 ………ハァッハァッ………



 なんとか踏ん張って3匹目までは倒したものの、もう俺も満身創痍だ。このままじゃ2人共餌食にされるのは時間の問題だ。さて、どうする?



「ごめんなさい! 私のせいでAさんまで……」


「馬鹿野郎! 最後まで諦めんな!! それとAさんはやめろ!」



 これまでか……こんな事ならとっとと元の世界に帰っとけば……いや待てよ? ひとつだけ助かる方法があった! でも……いや、迷ってる暇はないっ!!



「エイミ! 俺に捕まれ!」


「え?」


「いいから早く!!」



 彼女は言われるまま俺にしがみつき、同時に俺は懐にしまっていた "アサギギャメラの翼" を頭上へ放り投げた。


 一瞬後 "アサギギャメラの翼" が眩しい光を放ち、俺達を包んだ。



「Aさんーーっ!!」


「だからAさんじゃねぇーーっ!!」


 …………


 ……


 数瞬後、俺達の姿は洞窟の奥ではなくハニワハオの町の入口にあった。



「ここは……戻ってきたの!?」


「 "アサギギャメラの翼" は洞窟内でも使えるって言ってたのを思い出したんだ。一か八かだったが、上手く行ってよかったぜ……」


「あの……本当に有難うございました! よかったらAさんのお名前、聞いてもいいですか?」


「俺の名前はユウだ。もうAさんなんて呼ぶんじゃねーぞ」


「え!? AさんじゃなくてUさんだったんですか!?」


 (……こいつ……ワザと言ってるんじゃないだろな……!?)



 ……こうして俺は元の世界に帰る手段を失った。

 だが俺の目の前で悪戯な笑顔を見せる彼女を見ていると、この世界で生きて行くのも案外悪くないかもしれない、そう思えた……。



 ◇



 ……この後しばらくして、町の入口では2人仲良く、町に訪れる人々を迎える彼等の姿がよくみかけられるようになったそうです。


 勇者や魔王にならずとも、チート能力スキルを持っていなくても、彼は彼の物語を、この世界で紡いでいく事でしょう……。



 ……今宵の幻話まほろばは如何だったでしょうか? ではまた、次の夜にお会い致しましょう……。


 それでは皆様、おやすみなさいませ……。

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