第4話 村焼きギリギリセーフ
最終回視聴直後、何の因果かラスボスの極悪王女に転生してしまった。
しかし不幸中の幸いでまだ勇者を処刑する前だった。
極悪王女ミリアロゼの姿と立場になったが原作通り勇者に結婚を申し込むつもりは全くない。
寧ろ聖女と善人の美男美女お幸せにという気持ちだ。国を挙げて盛大に祝福してもいい。
取り合えずミリアロゼの過去の悪行は部下であったルシアに全部押し付けた。
申し訳ないという気持ちから苦しみが長引かない方法で処刑するよう頼んだ。
すると周囲から「なんて慈悲深い」と感激されてちょっと引いてしまった。
お陰で「魔族の呪いで残酷な性格に変化されていた」という嘘の設定をあっさり信じて貰えたので結果オーライだが。
こうして新ミリアロゼは「極悪王女」から「勇者に救われた悲劇の王女」にクラスチェンジした。やったぜ。
我ながら悪党の立ち回りだとは思うが、正直ミリアロゼの過去の報いをそのまま受け入れて死刑になるのは嫌だ。
自分が極悪王女になっていることに気づいた直後は自害したかったが、勇者による惨殺の結末を回避できるというなら話は別だった。
今後は心を入れ替えて、いや実際入れ替わっているのだが善良な姫君として生きて行くつもりだ。
勇者に対しても謙虚に感謝し功績を褒め称え、決して結婚を求めるなど迷惑行為はしない。頼まれても絶対しない。
中身は変わってしまったが、今までこの馬鹿王女がやってきた悪行についても償いたいとも考えている。
自分は聖人ではないので出来る範囲でになるが。
しかし今優先すべきなのはミリアロゼの最悪な置き土産の処理だ。
彼女は勇者の村を焼く準備をしていた。
◇◇◇◇
ルシアの処刑から数日後。
生まれた時から王女ですというような顔をして謁見室で兵士の報告を聞いた。
「……魔女が私を操って指示させた勇者様の村の件は?」
「村に送った兵たちは、魔族からの報復に警戒する為派遣したものだと改めて村長に説明しました。兵たちにも村人に決して危害を加えるなと通達済みです」
「そう……村人に被害が出る前で本当によかったわ」
心から安堵の息を吐く。本当に、本当に良かった。
ミリアロゼは魔王を倒した勇者と結婚し子供を作ることを目論んでいた。
勇者の妻となり、また子を産むことで大陸の歴史に自分の名を刻む為である。かなり図々しい。
小国の王女という立場はいいとして、残虐行為を好む人間が何故そんなに目立ちたがるのか正直理解できない。
勇者の前では高貴で清楚な王女という猫を被るくらいだったから褒められた本性でない自覚ぐらいあっただろうに。
そしてそんなミリアロゼは勇者と結婚する為に幾つかの計画を立てていた。確か五話ぐらいで説明があった筈だ。
二話では美しい王女である自分が望めば勇者など簡単に手に入ると思い込み、故に結婚を断られて激昂していたので矛盾があるが。
そういうのを気にする層は見ない方がいいアニメだった。何となく懐かしい気持ちになってしまう。まさか自分が登場人物の一人になるとは思いもしなかった。
「魔族とは本当に恐ろしいことを考えるわね。王女である私に勇者様の故郷を滅ぼさせようだなんて……」
わざとらしく震えて見せる。兵士が同情するような視線を向けるのが分かった。美女は得だ。
実際そんな恐ろしいことを考えていたのは王女本人なのだが。
王都から少し離れた所にある勇者の故郷の村。そこには勇者の母と幼い姉妹二人が住んでいる。
小さな村なので村全体が家族のようなものだ。
ミリアロゼは勇者が魔王討伐の報告に王都へ戻る前に、村に兵を派遣し村人たちを監視させた。
視聴時は勇者が結婚を拒んだ時に人質にするつもりなのかと思っていた。
けれど結婚を断られた瞬間頭に血が上って村の存在を忘れたのかと。
しかし事実はもっと酷かった。
勇者が結婚を拒んだ瞬間にミリアロゼは兵に魔法で合図を送り皆殺しにさせたのだ。
女子供関係なく虐殺、いや女子供、そして勇者の家族は寧ろ念入りに酷い殺され方をした。
村人皆殺し後に村は焼かれた。その作戦の指揮をしていたのが騎士団長だ。
国一番の騎士だと持て囃されているが本質はロリコンのサディストである。
勇者の妹たちは彼によって死んだ方がマシな目に遭った後に殺された。
この世界が自分にとっての「現実」になった今、そのような蛮行を阻止するのは当然だ。
騎士団長は魔剣を装備し自信満々に挑むも闇堕ちした勇者に一瞬で細切れにされて死んだ。
村焼きの歴史は無くなるとしても、既に他にも色々やらかしている気がする。騎士団長の事は過去も含めて調べさせよう。
いや、騎士団長だけでない。
アニメで殺人行為を盛大にアピールをして即闇堕ち勇者に殺されていった王女の配下たち全員の調査が必要だ。
そして、内容によっては処刑も止むを得ないだろう。改心しない場合も仕方ない。
いや説得しても改心は無理だろう。
ラスボスの極悪王女の体と立場で言うのも皮肉だがアニメに出てきた部下全員筋金入りに有害過ぎる。
しかし王族の権利が理不尽な程に強い国でよかった。てきぱきと罪人を処断する計画がたてられる。
いや王族というよりミリアロゼの権力が強すぎるのだ。まだ王は存命なのに全く目立っていない。
きっとこの世界は極悪王女と闇堕ちした勇者の紡ぐ復讐劇の舞台として都合よく出来ているのだろう。
王女は悪さをしやすく、勇者が凄惨な復讐をしやすく。
舞台は利用するが筋書きは変えさせて貰う。
兵を退出させると、新しく側付きにしたメイドのマリナに紅茶を持ってきてくれるよう頼んだ。
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