第2話 犠牲の犠牲になってくれ
これは漫画や小説とかで流行っているファンタジー転生というものだろうか。
それとも地震で気絶した結果見ている夢か。気絶程度で済んでいればいいのだが。
どちらにしろ入り込んだ作品が嫌すぎる。一番嫌なのは配役だ。
自業自得で復讐される極悪王女だなんて。
やらかした結果に対して物足りないと思ったミリアロゼの処刑方法だがあれを己がされると考えると今すぐ自殺したくなる。
別にナルシストではないけれど顔を切り刻まれるのは絶対痛いだろう。
手足を切り落とされるのは痛いどころでは済まない。
最後に城から投げられたが墜落死も出来ず地上に生き残りのゾンビがいたらと考えると血の気が引いた。
目の前で怯えている新人メイドのマリナのようにいっそ泣き喚いてしまおうか。
あれだけ酷いことをされた勇者が元凶の涙程度で許してくれる筈もないだろうが。
ミリアロゼは罪が多すぎる。
些細なミスをしたメイドを殺し、振られた腹いせに勇者の仲間と家族を殺し。
そして世界を救った勇者自身さえ極悪人だと民を騙し処刑した。
本当の極悪人は王女の方だ。ミリアロゼの行動を思い起こし溜息を吐く。
彼女は最初の登場シーンから悪人だった。謝り続けるメイドが動かなくなるまで鞭打つなんて。
そう思った時、あることに気づいた。
(メイドが、マリナがまだ、生きている……?)
確か彼女はアニメの第一話でミリアロゼが登場する時に髪飾りを落した罪で殺された筈だ。
必死に謝るが王女は許さず血塗れになるまで鞭打ちした後に家族ごと処刑するように家来へ命じたのだ。
母と妹の命だけは許してくれと懇願するマリナにミリアロゼは慈悲深く微笑み言う。
「そんなに大事なモノならあの世でも一緒にいたいでしょう?」
姿形は美しいミリアロゼの内面の残虐さと醜悪さをわかりやすく表現する為の犠牲。それがマリナだ。
しかし今のところ怯え切ってはいるがその体に傷一つない。
そして彼女の近くには無惨に割れた硝子の髪飾り。一気に目の前が明るくなった。
まだ、まだミリアロゼは殺していない。メイドを、聖女を、勇者を!
まだ、殺していないのだ!!
第一話の段階では勇者一行は魔王を倒した直後で王都から遠く離れた魔王城にいる。
そして何より重要なのは勇者シオンはまだミリアロゼの本性を知らない。
討伐の旅に送り出す時の余所行きの微笑みと行儀のよい言葉しか聞いていない。
この時点ならまだ最悪の結末は回避できる。かもしれない。
「あの……ミリアロゼ様?」
ずっと動かず考え込んでいた王女を不思議がったのか古参メイドのルシアが声をかけてくる。
それに反応してマリナから彼女へ視線を向ける先を変えた。年齢不詳の美女、ルシア。
先程舌なめずりをしながらミリアロゼに鞭を手渡した人物だ。
顔立ちは美しいが常にどこか下卑た表情をしている。
あの残虐なミリアロゼが気に入って傍に控えさせていたこの女の正体をアニメ履修済みの己は知っている。
悪人だ、この女も。
確かに一番最悪な人間はミリアロゼだ。でも。
手の中で皮鞭を弄んだ後、覚悟を決めた。
「兵を呼び、この魔女を捕えなさい!」
「なっ……?!」
ルシアの表情から卑しい笑みが消え驚愕の表情に変わる。
それはそうだろう。本来ならこのような展開にはならない。
だが構わず彼女を指差し声を張り上げた。
「ルシアは私を長年操っていました。彼女の正体は魔族なのです!」
早く捕えて死刑にしなさい。
王女ミリアロゼの姿と声でそう命じると辺りは騒然になった。
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