【完結】勇者を闇堕ちさせる極悪王女に転生しました。死にたくないので真っ当に暗躍します。
砂礫レキ@無能な癒し手発売中
第1話 この転生は嫌すぎる
硝子が割れる音がした。
「ヒッ、お許しください……どうか命だけは!」
怯えきった若い女の声で意識が浮上する。しかも内容は命乞いだ。物騒過ぎる。
平和な現代日本でこんな台詞をリアルで聞く機会などない。
テレビを点けっぱなしのままで寝落ちしてしまったのだろうか。
リモコンを探そうと伸ばした己の手に渡されたのは悪趣味な装飾の皮鞭だった。
「……は?」
「ごめんなさい!お許しください!殺さないでくださいぃ!」
疑問の呟きに反応したのか許しを乞う声に怯えが強くなる。
最早泣き叫んでいるような状態で床に平伏しているのは新人メイドのマリナだった。
それをニヤニヤと愉しげに見ているのは先程鞭を手渡してきた古参メイドのルシアだ。
そして自分は。いや、この体と記憶は。
「私が死んだら、母や妹たちの生活が……お願いです、ミリアロゼ様!」
名前を叫ばれた途端にふわふわしていた意識が肉体へと縛り付けられる。途端鮮やかに何もかもを思い出す。
ミリアロゼ・フォーティア・ルクス。今の「私の姿」は。
ルクス国の第一王女であり、勇者シオンに振られた腹いせで彼を闇堕ちさせる悪女……いや、極悪王女である。
くらりと眩暈がした。
◇◇◇◇
深夜番組の中でも一際視聴者を選ぶファンタジーアニメ。 『裏切られ勇者は血の復讐歌をウタう』
ブラック企業勤めの自分が帰宅し一息ついた頃に丁度始まるそれを観ながら晩酌をするのが週一の楽しみだった。
いや、楽しみというより惰性だったのかもしれない。正直そこまで面白い作品ではなかったから。
確かに絵は綺麗で男性向けのアダルト要素はあったが、それでもかなり人を選ぶ内容だった。
闇堕ちした勇者が仇敵の王女とその部下たちを残虐に辱めて殺す、それだけの物語だからだ。
魔王を倒した最強勇者が祖国の王女に言い寄られるが婚姻を断ったことから悲劇が生まれる。
彼は王女によって冤罪で拷問の末に公開処刑される。彼だけでない。
勇者に協力して魔王を討伐した聖女も魔女扱いされ、兵士たちからの凌辱の末に串刺しにされる。
大切な女性を穢し殺され、王女に騙された民たちに石を投げられ、勇者は自分が救った世界を憎みながら死ぬのだ。
そして地獄の底で再会した魔王に復讐を持ち掛けられ合体する。
かくして最強の力を持ったまま不死身の魔族として生まれ変わった彼は王国中の人間を弄び殺すのだ。
国最強の魔導士やら騎士団長やらが出てくるが魔王を倒した勇者が相手なのでただの雑魚でしかない。
そんな雑魚を闇落ち勇者が毎回嘲笑しながら虐殺し、そして終わり五分前に王女が顔を醜く歪め悔しがり次の手下を呼び勇者を殺せと喚く。
毎回それの繰り返しでエログロが強烈ではあるが個人的に初回以外は退屈な展開だった。
それでも見続けたのは元凶の王女がどんな死に方をするのかが気になったからだ。
引き延ばしの為だと理解しているが延々と生かされてきた分だけ王女、ミリアロゼにはヘイトが溜まっていた。
国一番の美人でスタイルもいいがそれを台無しにする程の傲慢さと性格の悪さ。ついでに頭も悪い。
鞭で人を痛めつけるのが趣味のサディストでナルシストな変態女でもある。
勇者に部下が殺されても役立たずと唾棄するだけの非情さ。
外見と、勇者の強さに絶望せず憎しみに燃え続けるメンタルの強さしか褒められそうな部分がない。
けれど彼女は結局最初から最後まで愚かで。
暗黒魔術で死んだ部下や生きている国民全員をゾンビにした挙句、あっさり勇者に全滅させられた。
挙句命乞いに勇者の性奴隷になってやると言い出した時は思わずテレビの前で「馬鹿か?」と呟いた。
この極悪王女様は勇者に結婚を断られて逆恨みした過去を忘れたのだろうか。
当然交渉は決裂。ミリアロゼは勇者によって自慢の顔を切り刻まれ両手を切り落とされ城から放り投げられた。
今まで見たものに比べ意外とあっさりした処刑に拍子抜けしていると、テレビの中の勇者が次の瞬間剣で自分の体を貫いた。
えっ、と思った瞬間地面が激しく揺れて、家具も揺れて、そして目の前の薄型のテレビが襲い掛かってきた。
そう、襲い掛かってきたように見えたのだ。よくある宝石箱の魔物のように、テレビの中に飲み込まれた。
先程まで見ていたアニメが映ったままなのに。
大音量で暗いエンディング曲を聴きながら意識が遠くなっていった。
そして気が付いたら全く別人の姿になっていた。
部屋も自分のマンションとは全く違う。やたら豪華で花の匂いがする。見覚えがあった。王女の自室だ。
アニメ終了五分前にミリアロゼが毎回ここで悔しがっていたので覚えている。
見覚えがあるのは室内だけではない。
先程勇者に惨殺されたばかりの王女の姿が目の前の鏡に映っていた。自分が瞬きすると鏡の中のミリアロゼも瞬きする。
つまり、自分は何故か極悪王女になってしまったのだ。
彼女の悲惨過ぎる最期を思い出し、メイドよりもこちらが泣きだしたくなった。
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