第30話

「朝葉様、おはようございます」

「おはよう、トワロ」

今日も良い天気だった。


トワロはいつも通り装備を調えて、朝葉の住むバンガローへやって来た。

「冒険者の館で聞いたのですが、先日は朝葉様一人で魔物退治に行ったそうですね」

トワロの表情は暗かった。

「うん、駄目だった?」


朝葉はちょっと不安になってトワロに聞いた。

「何か起きてからでは遅いです。今後、単独行動は危険なので行わないで下さい」

「はい、トワロ。ごめんなさい」

朝葉は素直に謝った。

トワロは安心したように頷いた。


「ところで朝葉様、今日の予定は何かありますか?」

「今のところ、特にないよ」

「でしたら冒険者の館に行って、また依頼が無いか聞いてみましょう」

「そうだね」


トワロと朝葉は冒険者の館に向かった。

「いらっしゃい、朝葉、トワロ」

「おはよう、シン。何か依頼はある?」

朝葉が聞くと、シンはまた台帳を見て一人頷いた。


「丁度良さそうな依頼がある」

トワロが尋ねた。

「どんな依頼ですか?」

「また砂漠の先のダンジョンで新しいモンスターが出たそうだ」

今度は朝葉が声を出した。

「どんなモンスターですか?」


「雷の魔法を使う、巨大なカエルらしい。その皮が欲しいって依頼だ」

シンはそう言って、台帳を閉じた。

「じゃあ、その依頼受けます!」

朝葉は元気よく言った。

「それじゃ、今度もよろしく頼むよ」

シンはそう言って笑った。


「トワロ、準備は良い?」

「はい。朝葉様」

二人は砂漠の先のダンジョンに向かって移動を開始した。


「朝葉様は勇者様ですよね」

トワロが朝葉に言った。

「自分じゃ分からないなあ」

朝葉はそう答えた後、トワロに尋ねた。

「なんで急にそんな事言うの?」

「それは、朝葉様が料理ばかりしているからです」

トワロはため息交じりに言った。


「だって、料理好きだもん。トワロもセリスさんも喜んで食べてくれてるし」

朝葉が無邪気に言うと、トワロは頭を振った。

「それはそうですが、勇者としての名声も上げて頂かないと困ります」

「でも、冒険もしてるよ!? 今日だって雷ガエルを倒しに行くじゃない!!」

朝葉はトワロの苦言に、焦った声を上げた。


「そうですね。朝葉様は料理のために冒険をしていらっしゃいますね」

トワロはそう言って、髪を掻き上げた。

「実は王から、朝葉様は調理師として成長していると注意を受けました」

「それは、否定できないかも」

朝葉はトワロから目をそらした。


トワロは朝葉に言った。

「朝葉様は勇者様として、この世界に呼び出されたことを忘れないで下さい」

「わかったよ、トワロ」


話が終わった頃、ダンジョンに着いた。

「さあ、気をつけていこう!!」

「ええ、朝葉様」

地下に潜っていくと、次々とモンスターが現れた。

朝葉とトワロは剣で闇コウモリや爪モグラを倒し、地下4階へと進んでいった。


「そろそろ、雷ガエルの巣だよ」

その時、大きなカエルの鳴き声が聞こえた。

「ゲロゲロ」

「あ、あそこだ!」

朝葉は剣を構えた。

その瞬間、閃光が走った。


「きゃあ!」

「朝葉様!」

トワロの盾が、閃光の先を受け止めた。

「朝葉様、雷ガエルはサンダーの魔法を使います。気をつけて下さい」

「うん、分かった」

朝葉はもう一度剣を構えて、人間と同じくらい大きな雷ガエルに斬り掛かった。

「解体!!」


朝葉は解体のスキルで雷ガエルを倒した。

朝葉のスキルで確認した所、皮には毒があったが、肉は無毒だった。

「よし、それじゃカエルの皮と肉を持って帰るよ」

二人はダンジョンを抜け出し、冒険者の館に行くことにした。


「おお、はやいな」

「シン、カエルの皮を手に入れたよ」

「よし、これは上物だ。報酬の5000ギルだ」

「ありがとう」

朝葉は銀貨を受け取るとカバンにしまった。


朝葉とトワロはバンガローに戻った。

「朝葉様、カエルは何の料理にするんですか?」

「えっとね、フリットっていう油で揚げた食べ物にしようと思ってるよ」

そう言うと朝葉は、フリットの衣を作り始めた。


雷カエルの肉を適当な大きさに切り分け、衣をつけて揚げる。

ジュウジュウといい音がした。

「朝葉様は戦っているときより、料理をしている時の方が生き生きとしてますね」

「そうかな」

朝葉は笑って答えた。


「もう出来るよ」

そう言って、朝葉は揚げたてのカエルにレモンを添えてトワロに出した。

出された器から、ほかほかと湯気が立っている。

「私の分も出来たし、食べよう!」


朝葉はそう言って、自分の皿の上の雷ガエルのフリットにレモンをかけた。

「いただきます」

「いただきます」

二人は一緒に食べ始めた。


「熱い! 肉汁がじゅわっとでて外はカリカリで美味しい!」

「うん、下味の塩胡椒が効いているし、レモンの味と香りでさっぱり食べられる!」

朝葉もトワロもハフハフしながら、フリットを食べた。

「ごちそうさまでした」

「美味しかったです、朝葉様」


「そういえば、冒険者の館からレストランを開いて欲しいって言われてるんだ」

「そうですか。シンにはお世話になっているから、レストランを開いた方が良いですね」

トワロは仕方ないと言った顔で頷いた。


「うん、またトワロとセリスさんにも手伝って欲しいな」

「私は構いませんが、セリスさんは忙しいかも知れませんよ」

「早めに聞いてみるね」

朝葉はそう言った後、残った雷ガエルの肉を冷蔵庫にしまった。


「飲み物とか、果物とかも用意しないといけないね」

「料理は朝葉様にお任せ致します」

トワロはそう言って、ため息をついた。

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