第31話

「おはよう、シン」

「おはよう、朝葉」

朝葉は朝から冒険者の館に来ていた。


「あのね、明後日の夕方にレストランを開こうと思ってるの」

「そうか、良かった」

シンは、にっこりと笑った。

「ウチのお客さんが、どうしても朝葉のレストランに行きたいと言っているんだ」

「そう言ってたよね」

朝葉は頷いた。


「お客さんの名前とかって分かる?」

「ああ、剣士のライトと、魔女のブロウだ」

「二人だね、了解」

「ライトとブロウにはこちらから連絡しておくよ」

シンがそう言うと、朝葉は笑顔で頷いた。

「分かった。お願いするね」


朝葉はシンと話し終わるとバンガローへ帰った。

「えっと、スライムは冷えてるし、雷ガエルの肉もある」

冷蔵庫の中身を確かめながら朝葉は呟いた。

「これなら後は、畑に行って新鮮な野菜を手に入れれば大丈夫かな」

「あ、あと角ウサギも狩りに行かなきゃ」


「こんにちは、朝葉様」

「あ、いらっしゃい、トワロ。丁度いいところに来た!」

トワロはドアを開け、バンガローの中に入ってきた。

「どうしましたか?」


「明後日、レストランを開くことにしたの。シンには報告済みだよ」

「そうですか、ちょっと急ですね」

朝葉は冷蔵庫を閉じて、トワロの方を向いた。

「それで、今から角ウサギを狩りに行って、畑に野菜を取りに行く所なの」

「一緒に行きましょうか?」

「うん、お願い!」


朝葉は装備を調えた。


朝葉とトワロは食材を取りに畑に出かけた。

途中で角ウサギに出くわした。

朝葉は解体のスキルで、角ウサギを倒すとその肉を食材袋に詰め込んだ。


畑に着くと、夏の野菜がたわわに実っていた。

「なすもトマトもキュウリもある。うん、この畑良く出来てる!」

朝葉はそう言って、野菜を採っては食材袋に入れた。

「あ。あっちになんかいるね」

「朝葉さま、お待ちください」

朝葉は巨大な葡萄の木についた、げんこつサイズのエスカルゴを見つけた。


「やった! エスカルゴだ」

「そのカタツムリを食べるんですか!?」

トワロの顔が引きつった。

「うん、美味しいよ」


朝葉は大きなエスカルゴを4匹捕まえて、二つ目の食材袋に入れた。


「これで、食材はもう大丈夫かな」

「レストランは何時に開くんですか?」

「夕方だよ」

「後は明日、街にお酒を買いに行って買い物も終わりかな」

朝葉は少しドキドキしていた。


そして、レストランを開く日が来た。

「おはようございます、朝葉様」

「おはよう、トワロ」

「トワロには食事を運んでもらったり、食器を洗ってもらったりして欲しいんだ」

「わかりました」


二人は協力しながら、ディナーの準備をした。


「そろそろ、お客様がお見えになるのでは?」

「そうだね」

朝葉達は暗くなり始めた外の様子を眺めていた。


「こんばんは、冒険者の館から紹介されたお店はここですか?」

「いらっしゃいませ。ライトさんとブロウさんですね」

「はい」


朝葉は二人をテーブルに案内した。

二人が腰掛けると、食前酒をトワロに出してもらう。

「まず、エスカルゴのアヒージョです」

「これ、食べられるの!?」

ライトとブロウは顔を見合わせた。

「いただきます」


「あ、コリコリしてて、ニンニクの風味が美味しい」

「お酒にも合います」

ライトとブロウの口にあったらしい。

二人はパクパクと食べ始めた。


「次は雷カエルのムニエルです」

「香ばしくて、肉汁がじゅわって出てきますね」

「うん。これも美味しい」

「よかった」

朝葉は二人が満足げに食事をしている様子を笑顔で見守った。


「メインディッシュは、角ウサギとゴロゴロ野菜のポトフです!」

「角ウサギが口の中で、ほろほろと崩れていきます」

「ウサギの脂が野菜の甘さと重なって美味しいです」

「ワインもありますよ」

そう言って、トワロはよく冷えた白ワインを二人にサーブした。


「デザートは、トマトの砂糖まぶしです」

「へー。甘くてさっぱりして美味しい」

「初めての味です」


朝葉はトワロと目を合わせると、ウインクをした。

どうやらディナーは成功だったらしい。


「ありがとうございました」

「いいえ、こちらこそご馳走さまでした」

ライトもブロウも、一口も残さず完食していた。

「お腹いっぱいです」

二人のお客さんは、満足げに店を後にした。


「トワロ、助かったよ。ありがとう」

「朝葉様、お疲れ様でした」

「うん。またしばらくレストランはお休みかな? 疲れちゃう」

朝葉はそう言ってから、大きなあくびをした。

「トワロはもう買えって大丈夫、ありがとう」

「それでは失礼します」


トワロは暗い道を一人帰っていった。

朝葉は店の片付けを終えると、シャワーを浴びて床についた。


「やっぱりレストランより、トワロやセリスさんに食べ物作ってる方が気楽だな」

窓の外から月の光が落ちてくる。

「でも、お客さんがきてくれるなんてちょっとすごいかも」

朝葉はウトウトとしながら、呟いた。

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