第16話

「冒険者の館に行って、新しい依頼を受けに行こう」

朝葉(あさは)はそう言って、トワロとセリスに話しかけた。


「そうですね。いまは地道に騎士レベルを上げるのが先決ですね」

トワロはそう言って微笑んだ。

「もう、トワロを危ない目に遭わせたくないもん」

朝葉はそう言って、冒険者の館へと向かった。

トワロとセリスもついていった。


「よお、朝葉、コカトリスに負けたんだって? 」

冒険者の館に入ると、シンが開口一番にそう言った。

「うん、トワロが危ないところだったんだよ」

「そうか。まだ、コカトリスは早いだろうよ」

シンは頷きながら言った。


「今の私たちに丁度いい依頼は無い? 」

朝葉がそう言うと、シンは奥から台帳を持ってきた。

「そうだな、今は巨大角ウサギの討伐が良いんじゃ無いか?」

「巨大角うさぎ? 」

トワロが訊ねると、シンは依頼書を台帳から抜き出して、朝葉達に渡した。


「森の奥に普通の角ウサギの10倍デカい、巨大な角ウサギがでてるらしい」

シンがそう言うと、朝葉は目を輝かせた。

「そうなんですか!? 」

「ああ、コイツなら今の朝葉達でも倒せるだろう」


トワロが言った。

「そんな巨大な角ウサギなんて聞いたことがありません」

「そうだな、最近モンスターも増えているし、なんか起きているのかも知れないな」

シンはそう言って、顎を撫でた。


「じゃあ、この巨大角ウサギの依頼受けます。良いですよね?」  

朝葉がそう言うと、トワロとセリスが頷いた。

「ああ、じゃ、よろしく」

シンはそう言って、手を振った。


朝葉達は一度バンガローに寄って、装備を調えてから森の奥へ向かうことにした。

「よし。トマトはたっぷりあるから、巨大角ウサギはトマト煮込みにしよう」

朝葉はそう言うと嬉しそうに食材袋を二つ鞄の中に入れた。

「トマトって何だ?」

セリスが聞くと、朝葉は冷蔵庫から一個みずみずしい実を取り出した。

「この赤い実だよ」

トワロはそれを見て、頷いた。

「ああ、畑に沢山なっていましたね」


朝葉達は余分な荷物はバンガローに置いて、森の奥に向かった。

途中はたいしたモンスターも出ずに、サクサクと歩いて行けた。


「そろそろ森の奥ですね」

トワロがそう言うと、朝葉とセリスは武器を構えた。

「あそこ、なんか居るよ」

朝葉が指さした方向には、巨大な角ウサギがいた。

「大きい!?」


10倍大きいと聞いていたが、本物はもっと大きく感じた。

トワロは剣を構えた。

朝葉とセリスも武器を構える。

三方向から、巨大角ウサギをじりじりと追い詰めた。


そのとき、巨大角ウサギがセリスを蹴り上げた。

「痛い!!」

「大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だ」


朝葉は剣をかざして巨大角ウサギに躍りかかった。

巨大角ウサギの首の根元に剣が突き刺さる。

トワロがたたみかけるように、その胸に剣を突き刺した。


巨大角ウサギが倒された。

「ふう、おっきいね」

朝葉は汗を拭いながら解体に取りかかる。

トワロはセリスの傷に薬草をぬると、包帯をした。


「セリス、大丈夫ですか?」

「ああ、ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ」

トワロとセリスが立ち上がったとき、朝葉が言った。

「解体、終わったよ」


朝葉は持ってきていた袋二つに、巨大角ウサギの肉と角と毛皮を詰め込んだ。

「角と毛皮も売れるって、シンが言ってたから持って帰るよ」

朝葉がにこやかにそう言うと、トワロとセリスが頷いた。


帰り道は荷物が多かったが、敵に襲われることも無く無事バンガローに着いた。

「さあ、荷物を片付けたら、巨大角ウサギのトマト煮込みを作るよ!」

朝葉はそう言って、巨大角ウサギの肉を切り分けた。

そして、ニンニクとオリーブオイルと香草で肉を炒めると、大きな寸胴なべに炒めた肉を入れた。

トマトも粗く刻んで、オリーブオイルで炒めてから、塩胡椒で味付けして、肉の入った寸胴鍋に入れる。


「さあ、あとは煮込むだけ。その間に冒険者の館に行ってこよう!」

「はい、朝葉様」

三人は冒険者の館に向かった。


「おお、朝葉! あいかわらず早いな!」

館に入るとシンが笑って出迎えた。

「はい、角と毛皮だよ」

朝葉はシンに、巨大角ウサギの毛皮と角を渡した。


「おお。これはデカいな」

シンは代金として10000ギルを朝葉に手渡した。

「ところで朝葉、レストランは本当に開業しないのかい?」

シンが訊ねると朝葉は渋い顔をした。

「料理を作るのはいいけど、接客が大変だって言ったでしょ?」

シンは頭を掻いた。


「前にも言ったけど、俺の店はレストランじゃねえんだよ」

トワロが頷いた。

「そうですね。確かに最近客層が変わってきてますね」

「だろう? 」

朝葉はちょっと考えてから言った。


「それじゃ、週末だけのレストランなら良いですよ」

トワロはそれを聞いて驚いた。

「朝葉様、騎士のレベルアップはいかがするおつもりですか!?」

朝葉は笑って答えた。

「休日以外は冒険をするよ。それでいいでしょ?」

「それはいいな」

シンがそう言って笑った。


「そろそろ、トマト煮込みが心配だから、帰るね」

朝葉がシンにそう言うとシンが答えた。

「ああ、また料理を持って来てくれ」


朝葉達がバンガローに戻ると、トマト煮込みの良い匂いが部屋中に立ちこめていた。

「お腹空いた!!」

朝葉はそう言って、巨大角ウサギのトマト煮込みの味見をすると、すこし塩と胡椒を足して、味を調えた。


「さあ、出来たよ」

トワロとセリスは席に着くと、朝葉の取り分けたトマト煮込みをじっくり見た。

「これがさっきの巨大角ウサギ」

セリスが呟いた。


「さあ、いただきます!!」

朝葉が元気よく言うとトワロとセリスも続けて言った。

「いただきます」

「うん、トマトの酸味と、巨大角ウサギの脂の甘みが合わさって美味しい!」

朝葉は満足げにそう言うと、パクパクとトマト煮込みを食べていった。


「トワロ、こうしてモンスターを食べても体に異常はないのかい?」

セリスも美味しそうにトマト煮込みを食べながらトワロに訊ねた。

「はい、今のところは問題ありません」

トワロも舌鼓を打っている。


「問題は、朝葉様の騎士レベルより、調理師レベルの上がり方が早いこと位でしょうか」

トワロはそう言って、ため息をついた。

「それにレストランを開くのなら、お城に相談に行く事も考えなければいけません」

トワロはそう言って、朝葉の料理を口に運んだ。

「そっか、朝葉は勇者だもんね。料理人になっちゃ困るよねえ」

セリスはそういいながら、トマトのスープを飲み干した。


「美味しかった!」

朝葉はそういって空のお皿を満足げに見ていた。

「ねえ、トワロ、レストラン開かなきゃいけなそうだね」

「そうですね、朝葉様」

「お城に連絡しないといけないかな?」


「はい、朝葉様。女王様の許可を取らないといけません」

トワロと朝葉が話し込んでいると、セリスがあくびをした。

「私はそろそろ家に帰るよ。朝葉、ごちそうさま」

「はい、セリスさん、ありがとうございました。


セリスはバンガローを後にした。

トワロと朝葉は明日、王宮に顔を出すことを決めた。

「なんだか大事になってきちゃったね」

「朝葉様、騎士のレベルアップについても真面目にお考え下さい」

「はーい」

トワロはそう言ってから、バンガローを後にした。


朝葉は一人になってから、調理器具や食器を洗った。

「こんな町外れまでくるお客さんなんているのかな?」

一人呟いてから、シャワーを浴びて、寝る準備をした。


明日は朝から忙しくなりそうだと朝葉は思った。

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