第15話

三人は城を出て森を抜けていった。

途中、スライムや角ウサギに出会ったが、特に苦戦することも無かった。


「ねぇ、トワロ。コカトリスって、そんなに強いの?」

「強いも何も、石化してしまっては何もできません」

トワロは暗い表情で言った。


「そっか、じゃあ用心しないとだな」

セリスはそう言って辺りを見渡した。

「コカトリスは岩場を好みます。まだ、現れないでしょう」

トワロはそう言ってから、剣を握り直した。


「それにしても、女王も難題を持ちかけたものです」

トワロが珍しく愚痴を言った。

「そんなに怖いの?」

朝葉は自分の脳天気さが少し恥ずかしくなった。


「なにしろドラゴンですから、致命傷を与えるのは難しいかと」

トワロは考えながら、呟くように言った。

「朝葉様は調理師に関しては、素晴らしいスピードでレベルアップしています」

朝葉は照れくさそうに頬を掻いた。

「ですが、騎士のレベルはあまり高くありません。まだレベルで言うと20に届くかどうかという所です」

トワロは不満そうに言った。


「今は、勇者さまが朝葉様しかいらっしゃらないから女王も無理を言うのだと思いますが、あまりに難しい依頼だと思います」

「そっか、じゃあ、様子だけ見て帰ろうか」

朝葉は普段目にしないトワロの厳しい表情を見て、だんだん怖くなってきた。


「そろそろ岩場じゃないかい?」

「あ、あそこ何か居る!?」

朝葉が指さす方を見て、トワロが答えた。

「コカトリス、一匹だけですね」

「一匹なら倒せるんじゃ無い?」

セリスがそう言うと、トワロが静かに言った。

「コカトリスを甘く見ちゃいけない」


そのとき、コカトリスが三人の方に飛んできた。


「しまった! 見つかった!?」

トワロは朝葉をかばって、覆い被さるように身を挺した。

トワロの左腕に、コカトリスの爪が刺さる。


「うう!」

「逃げましょう!!」

朝葉とセリスはトワロの手を引いて、森へと逃げていった。


「大丈夫かい?」

セリスは森の奥まで行くとトワロの腕を見た。

「ひどい!」

朝葉は悲鳴を上げた。

トワロの左腕は、石化していた。


「とにかく、王宮へ戻ろう」

「うん」

トワロは左腕をかばいながら、歩いた。


三人は王宮へ戻ってきた。

「戻りました。トワロの左腕が石化しています」

朝葉は泣きそうになりながら、女王に報告した。

「・・・・・・そうですか。では王宮魔術師のショーンを呼びなさい」

女王は近衛兵に命令した。

「はい」


直に気難しそうな老人がやってきた。

「また、派手にやらかしたのう」

「ショーン、石化を解いてくださらないかしら」

女王がそう言うと、ショーンはトワロに近づいて、何か呪文を唱えた。


トワロの左腕がボンヤリと光る。


「これで、石化は直るはずじゃ」

ショーンは面倒くさそうに言った。

「石化を直せるなら、コカトリスの退治についてきてくれませんか?」

朝葉はショーンに話しかけた。


「こんな老人に無理を言うな」

ショーンはそう言うと帰ろうとした。

「美味しい物食べさせてあげるから」

朝葉がそう言うと、ショーンは笑った。


「命を賭けるほど美味しいものなど、ありゃせんわ」

「そうかなぁ」

朝葉はショーンの答えに戸惑った。


一方トワロは左腕を見ると、血が通った普通の腕に戻っていた。

「ショーン様、ありがとうございます」

「これに懲りたら、自分のレベルを考えて行動を起こすことじゃ」

「はい」

トワロは深く頭を下げた。

朝葉はそれを見て、散々警告していたトワロに申し訳が立たなかった。


「朝葉様、騎士レベルをあげなければ、コカトリスは倒せません」

「うん、わかったよトワロ」

女王も、申し訳なさそうに言った。

「今回は無理をさせて申し訳ありませんでした。トワロ、命が助かって良かったです」

「はい、女王陛下」


「コカトリスは一匹だけでした。しばらく森の奥の岩場は立ち入り禁止にした方が良いのでは無いかと思います」

「そうですね、トワロ」

女王はそれだけ言うと、奥へと去って行った。


「トワロ、腕、本当に大丈夫?」

「はい、朝葉様」

朝葉は無事、トワロの直った腕を撫でた。

セリスは浮かない顔だった。


「あんなのが居るなんて、どうしたんだろうな」

セリスがそう言うとトワロも顔を曇らせた。

「そうですね、街の近くにはコカトリスなんて現れなかったですよね」

トワロが呟いた。

「ちょっと、調査したほうが良いかもしれませんね」


「私にできることって何だろう・・・・・・。騎士レベルってどうすれば上がるの?」

朝葉がトワロに訊ねる。

「戦いを重ねるしかないでしょうね」

トワロは優しい笑みを浮かべた。


初めての敗北をかみしめながら、三人はそれぞれの家に帰っていった。

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