第10話

森のそばのログハウスに戻ると、私たちはマンドラゴラを冷蔵庫に入れた。

「それじゃ、他の食材を探しに森に行きましょう」

「なあ、本当にそれ、食うのか? 」

セリスがおっかなびっくり聞いてくると、朝葉は元気よく頷いた。


「朝葉様は毒検知のスキルをお持ちですので、毒は無いと思うのですが」

トワロが言うと、かぶせるように私は言った。

「それよりも、まず食材探しに行こう! 」

「はい、はい」

セリスさんの私の熱意に引きずられて、森への食材探しへついてきた。


森では、角ウサギを二匹倒して解体した。

セリスさんは私の解体のスキルを見て口笛を吹いた。


「朝葉様、森の奥に昔は畑があったのですが。行ってみますか? 」

私はワクワクした。畑だった場所には何があるんだろう。

「行ってみようよ、トワロ」

トワロの案内に従って森の奥まで歩くと、木々が途切れ、辺りが広がった。


「すごい、色々ありそう」

「そうですか? 」

私が畑だった場所を見ると、ステータスが見えた。

調理師のスキルがいつの間にか上がって、食材サーチのスキルが身についたらしい。

「えっと、人参と、セロリと、長ネギかな」

私はそう言うと、ステータスを頼りに食材をゲットした。


持ってきた食材用の袋がパンパンになる。

なにせ、30体のマンドラゴラのスープ用の食材だ。


「トワロ、この畑を作った人はどうしたの? 」

私は食材を袋に詰めながら、トワロに訊ねた。

「確か、もっと大きな街に旅立ったと聞いたことがあります」

トワロは一応、辺りを警戒しながら私に答えた。

「そうなんだ」


「いつもこんな調子なのかい? 」

セリスさんが食材に目を輝かせる私を見て、呆れた様子で言った。

「はい、そうです」

トワロが笑って答えた。


「そろそろ帰りましょう」

「わかりました」

「私も帰ろうかな」

私たち三人は、畑を後にして、森のそばのバンガローに帰っていった。

セリスさんはバンガローには寄らず、海のそばの自宅に戻っていった。

「マンドラゴラのスープができあがったら、また、声をかけて」


私とトワロは手を振ると、セリスさんも笑って手を振った。

「それじゃ、家に入りますか」

私たちは家に入って食材を冷蔵庫や食材置き場においていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「どちら様ですか? 」

「城の使いです。マンドラゴラの討伐はどのような状況ですか? 」

「ああ、それならもう終わりました。今、調理の下ごしらえを始めるところです」

「え!? 調理なら少し待って下さい。まずは王宮へ報告して下さい」

城の兵は、慌ててそう言ってから頭を下げた。

「そうですね、失念していました」

トワロも頭を下げた。


「朝葉様、まずは王宮へ討伐完了の報告へ行きましょう」

「そっか、料理したかったんだけどな」

私は調理を一時諦めた。そして城の兵について王宮へ向かった。


「トワロ、女王様なんて言うかな」

「さあ、どうでしょうね」

私たちはまた大広間で待たされた。程なくして女王様が現れた。


「マンドラゴラ退治、ご苦労様でした」

「いいえ、セリスさんの助けで簡単に倒せました」

私がそう言うと、女王様は頷いて微笑んだ。

「あの、用事が済んだら早く家に帰って調理をしたいんですが」

「調理ですか? 何を? 」

女王が訊ねると、私は満面の笑みで答えた。

「マンドラゴラです」


「何ですって!? 」

女王がうろたえた。

「討伐したマンドラゴラは長寿の妙薬。一体1万ギルで引き取りますよ」

女王は動揺しながらも、交渉してきた。

私は、ちょっと考えてから答えた。

「27体はお譲りします。ですが、3体は味見のため、お譲り出来ません」


女王は笑って答えた。

「十分です。よく働きましたね。朝葉殿」

「はい」

私も笑顔で答える。


「マンドラゴラはどのように調理するのですか? 」

女王が興味深げに問いかけてきた。

「ポトフとホワイトシチューを作ろうと思います 」

私がそう答えると、女王が分からないというそぶりを見せたので説明した。


「香草と、角ウサギと、いくつかの野菜を煮込んで、塩胡椒で味を調えたスープを作ろうと思います」

シチューの説明は面倒なので避けた。

女王はうんうん、と頷いてから言った。


「今回の依頼の報酬は10万ギルです」

「え、マンドラゴラと別にもらえるんですか? 」

私が驚くと、トワロが頷いた。

「それなら、私じゃなくて、セリスさんに報酬10万ギルを渡して下さい」

「そうですか? 朝葉様がそう言うのであればセリスの家に届けましょう」

「話は以上です」


女王は話し合いが終わると、大広間を後にした。

私たちは、兵士から、マンドラゴラと引き換えに27万ギルもらうことを確認した。

「トワロ、私たち大金持ち? 」

「そうですね、お金は大切ですから大事に使って下さい、朝葉様」


城を出て、バンガローに戻ると私はマンドラゴラ27体を城の兵士に渡した。

兵士が帰ると私は調理にとりかかった。


野菜を洗って、刻み寸胴鍋に入れる。

裁いた角ウサギをローストした物も寸胴鍋に入れる。

香草を入れて、良く洗ったマンドラゴラをまるごと入れる。

トワロは手際よく料理する私を見ていたが、今は出来ることが無いと悟ると、自分の家に帰っていった。


半日、一日、じっくりと煮込む。

灰汁が半端なく出てくるけど、美味しそうな匂いが漂ってきた。

私は一通り下処理が終わったので、寝ることにした。

明日には、美味しいマンドラゴラと角ウサギのポトフができあがってるはずだ。

ホワイトシチューまで作れなかったのは悔しいけど、また別の機会にしよう。


私は幸せな眠りについた。

明日は良い日になりそうだ。

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