第9話英雄side3

「永遠、回復を頼む」


「はい、兄さん!」


 永遠は兄の刹那の言葉に従い腕の擦り傷に【治癒】の法術をかけた。

 一瞬で傷が治る。

 流石は聖女の法力である。


「刹那君、ソレくらいの傷で法力使ってたらいざっていう時に永遠ちゃんの法力が無くなるよ…?」


 凜が元気なく刹那に進言した。

 先程から凜の態度はオドオドとしている。

 刹那はソレに苛立った。


 自分たちは人を守るための闘いの最中なのだ。

 そんな覇気がなくて、どう人を護るのかと。


「君は魔術で遠くから敵を倒すだけで良いが僕は接近戦で怪我をするんだ。治癒の必要があるのは当然だろう?それに永遠は聖女だ。これくらいで法力が無くなったりはしない」


「う、うん…ごめん……」


「…………」


 俯いて謝る凛と、先程オークと戦って無言の剣斗。

 歳ほどの闘いを見て分かった。

 剣斗は闘いに向いていない。

 能力的な問題ではない。

 性格的な問題だ。


 しょせん剣道はスポーツでしかなかった。

 試合形式でしか結果を出せない甘ちゃん。

 刹那は剣斗をそう判断した。


(自慢の幼馴染のつもりだったんだが、僕は剣斗を過剰評価をしていたみたいだね)


 同じ英雄職と言っても《勇者》と《剣聖》では所詮位が違うのだ。

 《勇者》

 パーティーのリーダー。

 魔王を倒す筆頭の者。

 選ばれしものでも《勇者》と《剣聖》ではこれ程に違うものなのか…。

 これ以上足を引っ張りかねないのなら、刹那は剣斗を切り捨てる気でいた。

 足手まといとの旅など真っ平ごめんだ。


 凜は良いだろう。

 今は落ち込んでいるようだが、そのうち慣れる。

 剣で直接切り付ける剣斗と違って凜は後方支援だ。

 魔術を打ち込んでさえいれば良い。

 命を奪う罪悪感は剣斗より全然少ないだろう。


 何より広範囲の攻撃が出来るのも、バフ・デバフがかけれるのも、回復法術が使えるのも切り捨てるには勿体ない事この上ない。

 《賢者》は必要だ。

 刹那はそう結論付けた。


 後で城に戻ったらメンタルケアをすれば良い。

 何なら自分に向けられている恋心に訴えかけても良い。

 見た目が小学生のようなので今までは相手にしていなかったが、凜は愛らしい顔をしている。

 華奢な体だって庇護欲をそそると言う見方もある。


(ソロに戻ったらリンを口説き落とすか)


 使える様になって貰わなければ意味がない。

 たっぷり甘やかしてやろう。

 自分の意を反したら厳しさも見せた方が良いだろう。

 従順に従うようにする。

 それは刹那の中で決定事項だった。


 外見も中身も良い文武両道の生徒会長だった刹那。 

 彼は何の悪気も無く、自分に利益があるかどうかで傍に置くものを決める利己主義者だ。

 だがソレに自分でも気付いていない。


 刹那にとってはどれだけ自分が人にとって価値を見いだせて貰えるか?

 それが全てだ。


 だから刹那は剣を振るう。

 剣斗の様に魔物の死に躊躇ったりはしない。

 何故なら刹那は《勇者》だから。

 人を救う英雄だから。

 この世界の神は刹那を選んだ。

 ならばソレに答えるだけだ。

 刹那は異世界に来て、人生で今が1番楽しんでいる事に己でも気付いていなかった。

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テンプレの勇者召喚に巻き込まれたましたー『無職』のステータスの私ですが持ち前の能力でチートさせて頂きますー 高井繭来 @ominaeshi

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