第5話
どうやら英雄職の4人がダンジョンに潜るらしい。
勿論フォローの為、騎士団長・神官長が付き添いで潜ることになっている。
ダンジョン。
そうダンジョンだ。
多分想像通りのダンジョンなんだろうな、と千波夜は思った。
ゲームによく出てくる何階建てだ?と言うような異様に深い洞窟か高い塔などのダンジョンである。
だれが何のために創ったのやら。
人間がひたすらにレベルを効率よく上げるためだけの存在のようなダンジョン。
おそらく神の建造物だろう。
こんなものが自然発生するとは思えない。
創造神が己に連なる者、つまり勇者を始めとする英雄職のレベル上げの為に創ったと言うのが1番しっくりくる。
寧ろ確信さえ抱いていた。
知り合いにダンジョン作りが趣味な友人が居るからだ。
人間にダンジョンは創れない?
千波夜は友人を人間だとは言っていない。
己も蛇神の眷属であり、生まれ変わる度に記憶が刻まれて行く千波夜は、長命種の存在の知り合いも多い。
主に世界中の神話に出てくる神や悪魔だ。
いざ話をしてみると人間の想像とは恐ろしいものだと思う。
神話、あてにならない。
何せ熾天使であるガブリエルが地獄でカフェを開いていたりする。
ちなみに繁盛している。
ガブリエルの作るケーキはどれも絶品で、人界のケーキを食べる意欲が無くなるくらいだ。
特に千波夜のお気に入りはティラミスとシュークリーム。
この2つはすぐ品切れするので食べたいときは開店前から並ばなくてはいけない。
まぁ高位の悪魔の友人に頼ったら特別枠で取り置きもしてくれるのだろうが。
それはケーキに対する侮辱だと思い千波夜は1200年、ガブリエルのカフェに通い詰めている。
勿論悪魔の御客が多い。
何せ魔界なので当たり前である。
だがその悪魔も気さくで話してみると人間なんかよりよほどいい奴が多い。
早く主の宝を探し出して、魔界にステイホームを構えるのが千波夜の夢である。
まぁ神話的話はここまでとして……。
グツグツ沸騰する寸胴鍋からひたすら灰汁を取り除く千波夜を、厨房の者がこっそりと見ていた。
何をやっているのか意味が分からないらしい。
「あ~チハヤ、さっきから何をやってるんだ?」
とうとう堪え切れなくなった料理長が千波夜に尋ねる。
「灰汁を取ってるんですよ」
「灰汁?」
「鍋や煮物をつくるとき、気になるのが表面にふつふつとわいてくる灰汁です。灰汁をとらないと、色が変わってしまい見た目が悪くなったり、雑味が出て味が損なれたり、舌ざわりが悪くなったりします。
灰汁取りしなくていいものもありますね。
灰汁をとらなくてもいい野菜もあります。例えば玉ねぎの灰汁は水溶性で煮汁に溶け、独特の甘みをつくっているのでとらないほうがいいですね。
また、キャベツ、レタス、水菜、白菜、チンゲン菜などには灰汁がありません。灰汁の少ない野菜はサラダに向くいていますよ」
「「「「「おぉぉぉぉぉ」」」」」
厨房のスタッフが感嘆の声をあげた。
「どうりで千波夜の作ったスープやシチューは美味しい訳だ。みな、これからは灰汁抜きをするぞ!手間はかかるが王家の料理番として最高の料理を提供するのが宮殿料理番の仕事だからな!」
「「「「「yes、サー!」」」」」
何故厨房なのに軍隊風?
首を捻りながらも千波夜は灰汁取りを続けた。
厨房に包丁の音
火の音
油の音
オーブンの音が木霊する。
千波夜はこの雰囲気は嫌いではない。
皆で協力して美味しいモノを作るのは中々に楽しいものである。
(これで王族と貴族が腐食していなかったら居心地もわるくないんだろうが…明らかに俺のことを蔑んだ目で見てきた事から、良い人説はありえないだろうな……
つーか魔王討伐って何なんだ?瘴気のある土地でソレを好む魔族が住んでいるだけだろう?
そりゃ魔族だって国の1つも作るだろうて…特に人間相手に侵攻軍をぶつけに来たりしてない時点で、魔王が人間に興味無いと分かるんだがな、この世界の人間は阿呆か?)
お玉でスープを掬い、小皿に移して味見をする。
「良し、良い出来」
「お、どれどれ。うん、確かに美味いわ」
「私も味見させて~」
「あ、じゃぁ俺も」
「僕も味わってみたいです」
「それでは儂も御呼ばれしようか」
「いやいや、皆で味見したら王族の分と英雄職の分がなくなるでしょうーが。後でもう1つ作るからソチラを楽しみに待ってて下さいな」
「「「「「うん、待ってる!」」」」」
1週間で厨房スタッフは躾がなされた忠犬になっていた。
齢1200年も超えれば人心掌握術など簡単なものである。
魔術や薬を使う必要もない。
たかが数十年しか生きていない人間など、最初に上下関係を分からせて後は褒めて伸ばせば良いだけだ。
この国の王族や重鎮たちは権力で押さえつける傾向がある様なので、そのプレッシャーを無くしてやればのびのびと良い仕事も出来るのだ。
千波夜が召喚に巻き込まれて10日。
確実にこの王宮の食事の水準レベルは上がっていた。
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