行方不明 5
紅茶を飲み終えると、アレックは立ち上がって部屋を見まわした。そういえばいつも騒々しい子どもたちの姿が見えなかった。
「あの二人は? 今日は休日だろう?」
「ええ。外で遊んでいるはずですが……見かけませんでしたか? そうそう、あの子たち最近様子がおかしいんですよ。何かまた企んでいるんじゃないかと心配で。いくら私が訊いても答えてくれないものですから、今度アレック様のほうから声をかけていただいてもよろしいですか」
ガットとミシェルのことなら、毎日何かしらいたずらを考えているからアレックも慣れたものだ。深刻そうに話すフローナに適当に返事をして、それから椅子にかけていた上着を拾ってその軽さにはっとした。慌ててポケットに手を入れてみても、やっぱり何もない。
どこでなくした? 城か?
「フローナ、ペンダントを見なかった?」
「ペンダントと言いますと――まさか、なくしたのですか? 私は見ておりませんよ。掃除した時も見かけた覚えはありませんね」
リビングを見ても、どこにも銀のペンダントは見当たらない。どうしてこうも都合の悪いことばかり続くのだろう。今日は本当に運が悪いな。
「多分、城だ。どうせ戻らなきゃならないから、ついでに探してみるよ」
アレックがいつも持ち歩いている銀のペンダントは、アレックの師匠からもらった、同じものは二つとない大切な魔法具だった。一応外も見てみるか、と上着を羽織りながらフローナに出かけることを告げて、玄関の扉を開ける。
「いいからそこで待っててよ!」
外に出たアレックが扉を閉めた途端、ミシェルの兄、ガットの大きな声が聞こえた。かと思えば、ガットは正面を向いたアレックにどっとぶつかってきて、衝突した反動で芝生に尻もちをつく。アレックは、ガットの頭がみぞおち辺りに入り込んだせいで息をつまらせたばかりか、閉めた扉に押し戻されて背中を思い切り打ち付けるはめになった。
「――ガット!」
「あ、アレック、ご、ごめん」
ガットはその栗色の髪に葉っぱをつけて、涙目でアレックを見上げた。カッとなったアレックは、言い訳しようとするガットを無視して苛立ったまま瞬間移動の魔法を使おうとしたところで、やめた。そうだった、ペンダントを探さなければ。
「あのさ、アレック」
「後にしてくれないか」
ここでもたもたしている時間はなかった。早く城に戻らないと、今度は自分がシルマ王女誘拐の犯人にされかねない。周囲を見渡してペンダントらしいものがないとわかると、アレックは踵を三回鳴らせて瞬間移動しようとした――ものの、上着を引っ張るガットに止められてしまった。
ガットを睨んでアレックは言う。
「誰かさんのせいで今とんでもなくイライラしてるんだが、そんなに怒鳴られたいのかね」
「だから、ごめんって。ちょっと来てほしいんだ」
とガット。
「あとで聞いてやるから。今は忙しんだよ」
「お願いだよ、ちょっとだけ。ミシェルのやつ、怪我しちゃったんだよ。聞こえるでしょ、この声」
ガットに言われて確かにミシェルの泣いている声が聞こえることに気づいた。今まで気づかなかったのが不思議なくらい、叫ぶようにして金切り声を張り上げている。
「ミシェルはいつも大げさなんだ。どうせたいした怪我じゃないだろう? フローナに言ってくれ。本当に忙しいんだ」
「アレックがいいんだよ。フローナだと後がうるさいじゃないか」
ぐいぐい袖を引っ張るガットに、力で比べたら確実にアレックの方が勝るものの、ガットの気持ちもわからないわけではない。ミシェルの泣き声がますます大きくなっていくのも困りものだった。
「わかった、わかったから。そんなに引っ張らないでくれ。どこにいるんだ?」
ガットに引っ張られながら裏庭まで行くと、一本の高い木の下に横になった女の子の姿が見えた。ミシェルは木の根っこに頭を乗せて、空に向かって何やらよくわからないことを叫んでいる。近くの小麦畑のあぜ道を歩く農家のおじさんが、低い生垣の向こうからなんだなんだと顔をのぞかせていた。アレックが「騒がしくてすみません」と苦笑すると、「大変だね」と気遣いの声をかけられた。
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