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俺たちは、あの後必死になって学校から逃げ出した。
そこらへんにいる化物に度々目をつけられたが、追われたわけではない。
ただ、あの場所から離れたかっただけで、無我夢中で、ここまで走ってきてしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
運動場へ降りる階段の側で全員、息を切らしてへたりこんでいた。
「・・・はあっ、はあ・・・はあ・・・なあオスカー・・・。」
俺はなんだかんだで一緒に行動したオスカーに声をかける。
「はあ・・・な、なんだよ。」
オスカーは階段に腰をかけて一際荒い息を立てていた。あの体型で全力疾走はきつかったのだろうか。
「・・・おまっ、お前・・・教室から先生と出てきたよな・・・。見たのかよ、アレを。」
みんなの会話も途切れ途切れだ。
「見たから・・・なんだってんだよ・・・。」
「別に・・・。」
その上話すのもしんどい。それぐらい走ってきたのだ。
あのあと・・・オスカーが叫んだ後俺は咄嗟に化物を突き飛ばそうとしたが、危険を察したジェニファーに腕を掴まれ引き止められる。ジェニファーの動きを予想してなかった俺は伸ばした手は届かず、化物は大きな口を開けて自身が殺した少女の頭部を「噛みちぎった」。
そこからだ、我先となって逃げたのは。
気持ち悪かった。
怖かった、恐ろしかった。
それを見るまでは、みんなと一緒なら他の奴らも救えると思ったし、救わなきゃと思っていた。
でも無理だ。
俺たちじゃ無理だと思ったし、俺たちもあんな目にあうと考えたら足が勝手に動いていた。
階段の近くにいたオスカーと足の速いハーヴェイが先頭をきって、俺はジェニファーの手を引いてここまできた。
幸い、少女を殺した化物もそこらへんにいた化物も俺たちを追って来ようとはしなかった。
でも、もし俺たちに目をつけていたら・・・。
「夢に出てきそう・・・。」
ハーヴェイがつぶやく。そんなの悪夢以上のなにものでもない。
「グロい・・・。」
続けてジェニファーも俯いてそう言った。グロテスクだしやっぱ目の前で生徒が殺されたショックも大きいだろう。
「・・・・・・・・・。」
みんなの呼吸音だけが聞こえるような静寂がしばらく続く。
「・・・あっ!!そうだ!」
妙に静かすぎると思ったら、一人足りなかった。
「セドリックだ!!」
そう、化物やあの光景のことで頭がいっぱいであいつの存在をすっかり忘れていたのだ。
「ああ、俺らを置いて逃げたあの帽子野郎か。」
オスカーがよくわからないあだ名で呼ぶ。お前もそこまで人のこと言えないだろ、というツッコミは胸にしまった。
「置いて逃げた、ていうよりパニックに陥ったって感じに見えたけど・・・。」
「怖くて逃げた、俺たちと一緒。」
ジェニファーとハーヴェイが口々に分析する。置いて逃げようがパニックになろうが兎にも角にも探さなくては。
「あいつ一人なんて心配。いつまでもじっとしているわけにもいかないし探しに行きましょうよ。」
まだ疲れが顔に出ているジェニファーがそう呼びかけながら一番に、次に俺とハーヴェイが立ち上がった。
「あんな奴ほっときゃいいのによ。」
と言ってオスカーも渋々腰を上げる。
「あら、あんたもついてくるんだ。意外ね。」
すっかりいつもの気の強さを取り戻したジェニファーが悪気もなく言い放った。反対に威張り散らかしていることが多いオスカーが珍しく逆上せず冷静に返す。
「んなわけあるか。俺もここにいたくねーだけだ。」
ま、その気持ちはわかるけどな。
しかし、オスカーを一人で行動させたくも無い。俺たちが起こしたことに何も知らず巻き込んでしまった罪悪感もあるが、今は助けられる命があるなら出来るだけ助けたい。というか、別に死んで欲しいというほど嫌いではない。
「とにかく急いで・・・。」
「ここだよーーーーっ!!!!!」
やや遠くにあるジャングルジムの方からセドリックの声がした。だが、肝心のセドリックがどこにも見当たらない。
「どこにいるんだよ!!おーい!!」
すると、地面からにゅっと出が伸びた。
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が出たが、駆けつけてみるとそこには人が一人ちょうど入るぐらいの大きさの穴があり、セドリックはなんとその中にいた。
「なんで穴があるんだよ!」
普通学校のグラウンドにこんな深い穴なんてあるわけない。みんなの驚きをよそにセドリックは何故か照れ臭そうに笑った。
「へへへ、実は僕が掘った落とし穴が健在でして・・・。」
「・・・・・・。」
その答えには驚かなかった。むしろ、納得した。
こいつは悪戯のためにはかなり手の込んだことさえする、そんな奴なのは皆重々承知だった。
「自分で仕掛けた罠に自分でかかったら世話ないよな。」
あまりのブレなさに辛辣な言葉が漏れる。それは俺だけじゃなかった。
「はーあ、呆れたわ。」
「穴とか邪魔なだけだろ。邪魔なこいつもろとも埋めちまおうぜ。」
「そうだね、無かったことにしよう。」
皮肉にもこいつの存在を抹消することで意見が合致した俺たちをセドリックは一人孤独に反抗した。
「わー待って!待ってってばあ!僕もすっかり忘れてたんだよお!でも聞いて!!この穴のおかげで化物に気づかれなかったんだよ。」
「じゃあ一生そこにいろよ。」
オスカーが身もふたもないことを言う。
「飢え死にしちゃうよ!意味ないじゃん!わーん!・・・あ、そうそう。さっきね、化物を一発で倒しちゃうすごい人に会ったんだよ。その人にね、みんながまだ学校にいるって教えたら見つけ次第保護してくれるって!」
ツッコミのあとにさらっととんでもない話を持ち込んだことにより一瞬思考がついてこなかったが、セドリックの思いもよらない朗報に俺たちはいっせいに歓喜に湧いた。
「マジかよ!やったなセドリック!」
「たまにはやるじゃん。」
「やったー!!さすがセドリック。」
オスカー以外、みんなの態度が急に変わった。
「わぁ、さっきまで生き埋めにしようって言ってた奴らとは思えないや!・・・てか、そっちに行ったはずなんだけど。」
ぴたりと静かになった。全員の目が点になってきょとんとすら。
「え・・・?そうなのか?」
もしかしたら、逃げる途中かはたまた全く違う場所にいたためにすれ違ったのだろう。少なくともセドリックが言うような化物と戦ってる人物は見当たらなかった。
「あれぇ?おっかしいなあ。じゃあ今すぐいくって・・・まあ僕はこんなんだから見えないんだけど。」
セドリックが下を向いてなにやら考え込んでいる最中、ザッと砂を踏んだ時の足音が聞こえた。
「・・・?」
他に物音がないためすぐに気づいて音のした方向、ジャングルジムの隣にある滑り台に視線を向けた。
ちらりと覗くピンク色の靴と、オレンジ色の縦ロールをしたボリュームのある髪。よくみると金髪とグラデーションになっている。
「あら、あんたの仲間達?」
ややハスキーで中性的な声が愉快に話しかける。
「えっ、えー!?助けに行ってくれたんじゃなかったの?まあ、そうだけどさあ。」
ん?さっきのセドリックの話と違うような。声の主はまだ姿を現さず淡々と答える。
「あー、行ったわよ。あたしの仲間がね。メール見てなかったのかしら・・・ったく。」
「メール!!?」
セドリックは全力で聞き返すが、人の救助要請をそんな軽いノリで行うなんて、聞いてるこっちもびっくりだ。普通、連絡を取るならそこは電話ではなかろうか。
「まーいいわ。」
滑り台からようやく出てきた人物はこっちを見て不敵に微笑む。派手なギャル風の格好をした女の人だ。しかし、
スカートは短く胸元だって最低限の面積で隠しているだけという驚きの露出度の多さに思わず目を逸らしてしまった。
「アタシ、焦らされるのは嫌いなの。あと少し君達の来るのが遅かったらこの子だけ先にヤっちゃう予定だったのよね。連絡きたら、即ヤるとこだったけど。」
「ビッチだ・・・。」
ハーヴェイの独り言は聞かないふりをしながら問いかける。
「言っている意味がよくわからないけど、俺たちを保護してくれるんだよな?」
セドリックとのやり取りを聞いているとこの女の人が化物を倒して尚且つ守ってくれるという事になるのだが、武器らしきものも見当たらないしどうやって倒すのだろう。
「ウフフ・・・・・・まっさか!」
と意気揚々とした笑顔で、太腿のケースから銃を取り出して素早く構えた。なにがなんだかわからず俺たちは固まった。
「え?どういうこと?なにがあったの!?」
状況を全く理解できないセドリックが穴の中でぐるぐるとせわしなく回る。
「保護?なーんで化物なんか保護しなきゃなんないのよ。最初からアタシは君を囮にして仲間の化物をまとめてぶっ殺すプランだったの。」
女の人は獲物を狙うようなギラついた目付きで俺たちを見据えるが口元は笑っていた。そして銃口を舐める。すでに人を何人か殺してきたような危険な雰囲気に、蛇に睨まれた蛙みたいな気分になった。
「テメェ、騙しやがったな!!」
唯一オスカーが声を上げたがやっぱりいつもの威勢はなく前に進もうとはしない。そりゃ相手は銃を持っているのだから当然だ。
「あら?アタシ、今すぐ行くって言ったけど助けるなんて一言もいってないわ。ま、保護するとはいったんだけどね。嘘だけど。」
次にセドリックの方を見下ろす。
「ご協力ありがとね~。お礼に坊やはアタシのお気に入りのオモチャでイかせてあげるわ。」
彼女の言葉をすっかり信じて疑わなかったセドリックはどんな顔をしているのだろう。
「まずは当たり判定ガバガバのアンタから行こうじゃないの。」
銃をまっすぐ構え、引き金に指を伸ばす。一連の動作に一切の隙がない。目を付けられたオスカーはもう逃げる間も猶予もない。
「悪いけどアタシからは逃げられないわよ!」
躊躇いもなく撃った。発砲音がこだまする。
「やめろおおおおぉおおお!!!」
叫んだが間に合わなかった。最悪だ。まさか人が人に殺されるだなんて・・・。
そんな・・・。
・・・・・・・・・。
「ん?」
オスカーは無傷で立っていた。
「あん?」
何が起こったかわからないのは皆だが、撃った本人はもう一度撃つ。
「やめっ・・・。」
反射的にまた止めようとする中、またも乾いた発砲音が響く。速すぎて黙視するのは難しいが、弾がオスカーに触れた瞬間消えた。
「・・・オスカー、お前・・・。」
嫌な予感が脳裏をよぎった。そういえばこいつが教室に入る前のことはこいつの話でしか聞いていない。直接目の当たりにしたわけじゃない。もしや、今のオスカーは・・・。
「化物!?」
「はぁあ!!?違うわ!!」
「何が起こったの!?今銃・・・。」
セドリックが背伸びして様子を伺おうとしたのを。
「待ちなさい。」
女の人が上から踏んだ。
「人間・・・?ちょっと、じっとしてなさい。」
と、今度は俺たちを順番に撃った。あまりにも早撃ちなもので恐怖を感じる間も与えられなかった。
それでも痛みどころか何もない。
「うわーやられたー。」
ものすごい棒読みでわざとらしく後ろに倒れたハーヴェイも、撃たれた所を何度も見るジェニファーも皆無事だ。
「・・・・・・・・・。」
最後にトドメと言わんばかりにセドリックを頭上から撃ち抜く。
「ぎゃああああああ!!」
と悲鳴を上げたが覗き込んだらなんともなかった。
「・・・え?アンタら全員人間!?マジで!?」
今度は女の人がこっちを見て驚いた。さりげなく銃をしまって。
「そうに決まってんだろこのアマ!」
何度も撃たれていい気分ではないオスカーが罵倒まじりに怒鳴る。だが、人そっくりに化けるものがうようよいるなら女の人の行動も間違っているとはいえない。
「そうねぇ、この銃は化物にのみ攻撃出来る仕様なのよ。へえ、本当にそうなってるのね。人間なんか撃ったことないからはじめて見た。」
改めて銃を興味深そうに見つめる。なんだ、その便利な代物は。ん?待てよ?
「ま、さっきは悪かったわね。人間とか長らく見なかったしね~。ここらへんこんなタチの悪い化物ばっかでさ。」
屈託無く笑う女の人の言葉に気になることを見つけた。
「アンタ何者なんだ?なんでそんな化物にしか効かないようなもの持ってるんだ?」
まるで化物と戦うことを前提にしたような代物だ。こんな状況になってからまだそこまで経ってないというのに。
「そりゃうっかり人間を殺さないためでしょ。」
「じゃなくて、まるで化物が前からいることを前提にして作られたみたいじゃないか。何者なんだ?」
女の人は目を細め口をへの字に俺を睨む。めんどくさいと言いたそうだ。
「アタシはスージー。バーガー屋の店員よ。・・・前提にって、ここは「最初から」化物しかいないっつーの。」
ハンバーガー屋の店員が殺し屋のごとく銃の腕前が達者なのも凄く気になる。
「最初から?むしろ人間しかいないわよ!化物なんかいないわ!」
ジェニファーが反論する。動物などいるものの俺たちの住む世界にクリーチャーみたいな化物は存在しない。
「んー・・・アンタらが勝手に迷い込んだんでしょー?この世界は何も変わってないわ。化物しか住んでない、そんな世界よ。」
いや、建物はそのままなだけであとは大きく変わり果てた。空は赤く、人が消えて化物が現れる。そんな世界じゃなかった。何度も言うがあんな化物はいなかったんだ。しかしスージーはあたかも元からこんな世界だったかのように言う。頭がこんがらがった。
俺たちの住んでた町じゃないとしたらここはどこだ?
「どうなって・・・るんだ?」
眉と眉の間を手で押さえる。考え込んでも、さっぱりだ。
「この人頭おかしいわ。いいえ、混乱してるのよ、無理もないわね。」
やれやれと首を横に振って哀れみの言葉を向けるジェニファー。もしかしたらたくさんの化物を倒したからそう思い込んでいるのか?
「ビッチで攻撃的・・・。」
ゆっくり立ち上がったハーヴェイが真顔で呟く。無視しよう。
「おい、だったらお前はどうなんだ。化物しかいないつったよな。」
オスカーが訊ねるといたって普通に答えた。
「アタシ?・・・アタシだって化物よ。ただ、あいつらとは違うけどね。」
衝撃が走ったと同時に身の危険を瞬時に感じ、ハーヴェイとオスカーがそれぞれ咄嗟に防御の態勢を構えたがスージーは何もしてこなかった。
「あー待って。アンタらが人間てわかった以上、危害を加えたりしないから安心してちょーだい。」
ついさっき騙した人物の言葉は信じられない。でも、確かに俺たちを目の当たりに襲ってこようとしないあたり、あながちスージーの言うことは本当なのではなかろうかと信じたくもなる。
「クックック・・・話は全て聞かせてもらった。」
突然、どこからか声がする!・・・落とし穴の中から。
「ところで、忘却の彼方に取り残された僕を救い出してくれないかな・・・?」
そろそろメンタルが限界なのか、中途半端なキャラ作りで助けを乞うセドリック。
「はいはい。」
スージーはセドリックの両脇を持ち上げいとも簡単に深い穴から拾い出した。土埃をはらって広くなった視界を見渡している。
「みんな!!無事で良かった・・・!」
そして俺たちを見て心から安堵の表情を浮かべる。
「まあ色々あったけどな。」
ついそっけなく返す。本音を言うと全員無傷なのは嬉しいし、あそこで逃げたセドリックはある意味幸運だとも思った。あんな嫌なもの見なくて済んだんだから。
「色々って、なあに?」
「あーお前が俺らを置いて逃げたあとにそらもう色々あったんだよ。」
自分のことは棚に上げて一方的にオスカーが責めた直後に勢いよく土下座を始めたセドリックにみんなが驚いた。
「ごめん!もう僕怖くて!本当にごめんなさい!!ごめんなさい!!あ、靴舐めます。」
「いいわ気持ち悪ぃ!!」
後退りするオスカーの顔は面白いほど引きつっていた。冗談か本当か知らんが求めてもないのに過剰な詫びは人を不快にさせる。俺も遠慮したい。
「・・・それでも気になって、何回か立ち止まったんだけど化物は沢山いるし・・・。救世主が現れた!と思ったらさ、これだよ。」
すっかり落ち込んでその場にへたり込む。
怖いから逃げるのは当然。問題はそこからで、置いてきた俺たちが気がかりで、助けてくれそうな人、それも化物と対峙できるほどの実力者であることを見込んだ上で頼んだ。騙されたとはいえ俺はこいつを責める気にはならなかった。むしろ、責めるとしたら一人で行動したことだ。運が悪ければ死んだかもしれない。
「だーかーらー、悪かったって言ってんでしょ。ほら、これあげるから。」
帽子の中に手を入れ中から棒付きキャンディーを取り出した。しまうところがないからといって帽子の中が収容スペースとは・・・。
「わ、ありがとう・・・。」
セドリックの事だからすぐに表情をコロっと変えて喜びそうなのにどこか微妙だった。ちゃんと貰ってるけど。
「はーあ、なんかガン萎えだわ。帰って寝よ。じゃーね、お子ちゃま達。」
あいつに悪意はなく、ただ化物を刈りたかっただけのようで、自分の狙っている獲物じゃないとわかると用は無いと言わんばかりに大げさなため息のあとくるりと背を向け、その場を去ろうとする。
そうはさせない。彼女ほど今の俺たちに必要な存在はない。
「待ってく・・・だ、さい!!」
慌てて呼び止めた上にぎこちなくなったが、スージーは足を止め訝しげな顔で振り返る。
「ダサい?」
しまった。違う。そうじゃない。
「語弊です!・・・あの、俺たち行きたい場所があるんですが一緒について着てくれませんか?」
「えっ!?」
「はぁ!?」
セドリックとオスカーが驚愕と疑惑の混じった視線を向ける。
「アンタ面白いわね。騙した奴に頼むなんて。」
どうやら俺が相当滑稽に見えるのか鼻で笑われた。しかし構うものか。
「事情は考慮します。俺たちは見ての通り、弱くて化物には太刀打ちできません。だから貴方のような強い人が今の俺たちにはどうしても必要なんです。」
出来る限り自分の中での大人の対応を試みる。いくら周りから大人びているとか言われてもこういう堅苦しいのは知ったかぶりなので自信がないが、なるべく失礼のないようにしないと。
「ずっと同行して欲しいとは言いません。それに、俺たちも足手まといにだけはならないようにしますので・・・。」
「あ"ーもうわかったわかった!!」
うんざりと言いたげにスージーは手を叩いて話を遮った。
「そーゆー固いの苦手なの。聞いてるだけで疲れるわ!あと今更敬語もキモいからやめてちょうだい。」
敬語がキモい・・・。
タメ口に不快を示すのならわかるが、敬語を気持ち悪いと言われるだなんて・・・。
「固いのはアソコだけで結構よ。で、ようはガキのお守りをすりゃいいわけ?」
お守りと言われたら少し複雑だ。ところで、アソコとは。
「・・・んん、まあ。そうだな。」
気になる点が多数あるがキリがない。とりあえずそういう事にしておこう。
「ま、頼まれちゃ仕方ないわね。にしてもアンタほんと面白いわ。素直にずっとそばで守ってほしいて言えばいいのに。」
また笑いをこぼすが今度はさっきみたいな馬鹿にしたような雰囲気ではない。
本音はスージーの言う通りだが、虫の良すぎる話とも思った。
ん?今、仕方ないと言ったような。
「そのかわり、目的地までよ?アタシ暇じゃないんだから。」
なんと、突然の頼みにも関わらず引き受けてくれた。
「・・・やったー!ありがとう!!」
安堵と共にすごく嬉しかった。これで、俺たちの生存率は格段に上がったも同然だ。まだ実際に戦うところを目撃していないが、もう十分強いと確信している。
「うー、よかったんじゃない?」
ジェニファーとオスカーはどこか腑に落ちない様子だったが異論を唱えることは無かった。
「帰って寝るつもりだったくせに。」
一方でセドリックは一人不満げだ。しかし、それ以上何も言わないので異論は無しと見なした。意外にも根に持つタイプらしい。
「うん、よかった。」
ハーヴェイは、俺と同じ気持ちなのかやっと表情が綻ぶ。普段でもこいつの笑顔はなかなか見ないのに。
「こんな美女とご一緒出来るなんて光栄でございます。」
続けてハーヴェイがそう言った。絶対こっちの方が本音だ。反対されるよりはいいけど。
「あら、アタシ男よ。そんでどこに行くの?」
さらりと耳を疑うような事を言った。
「ええぇぇぇ~!!?」
「はぁぁぁぁ~!?」
セドリックとジェニファーが拍子抜けた声を上げたあとお互い見合わせ、もう一度同じような間抜け顔でスージーの方を凝視した。
「オカマかよ・・・。」
オスカーは絶句しているし、ハーヴェイはショックで立ち尽くしている。
「・・・・・・。」
俺も吃驚している、というか、どこをどう見ても、ましてや男と暴露されても女にしか見えない。
なぜ女装しているか気になるところだが今はそんな疑惑を追及している場合ではない。
「ついてきてくれ。」
少し前を歩いて案内する。
「・・・可哀想なハーヴェイ、行くわよ。」
「残念だったねハーヴェイ。次がいつかあるさ。」
後ろではハーヴェイが周りにひどく同情されていた。
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