【オマケと美貌のカカンの賢王②】

 深海が着いた席はカグウの真向かいだ。

 この美貌を前に食事の味が分かるだろうかと深海は心配したがそれは杞憂に終わる。


「あ、美味しい」


 昨晩食べた夕食より何倍もラキザの作った料理は美味しかった。

 その言葉を聞いたラキザがニッカリ笑っている。


「ほんとラキザって料理の腕だけはピカ一だよね~」


「料理を褒めるのは有難く受け取る。が、料理の腕だけじゃなくて宮廷聖騎士長として剣の腕もピカ一だろーが!」


「でも最近副長のクリムゾンに腕抜かれそうじゃん」


「アイツはカグウ並みに能力がチートなんだよ!大体王族の身でなんで聖騎士なんてしてるんだか?」


 どうやら王族は有能なものが多いらしい。

 で、多分美形なんだろうなとカグウとクロナの2人の顔面偏差値を考えて深海は1人納得した。


「で、フカミは此方に来て何の情報を得たかったんだ?」


「!?」


 どうやらカグウは相当頭が回るらしい。深海が此方での食事を選んだ理由を一発で見破った。


「正直クロナ姫は俺の事邪魔に思っているみたいですし、クロナ姫が傍に居ない間は部屋に鍵をかけられて軟禁状態ですのでこの国の情勢が分かりません。聖女が国を救うなら当然国は傾いていますよね?でもクロナ姫もその取り巻きも金銭面で苦労しているようには見えませんでした。

部屋の窓から見る庭園も花が咲き乱れて植物が育たない荒れ地でないことも分かりました。ならどう国が傾いているのか?ですからこの国の最高権力者のカグウ様がクロナ姫より質素な食事を摂ると聞いて、カグウ様なら説明してくださるんじゃないかと思い同じ食卓に着かせてもらう事にした次第であります」


 クツクツと小さな声でカグウが笑う。


「正直にもほどがあるぞ。俺が妹のクロナを庇ってお前を処刑知る可能性があるとは思わなかったのか?」


「正直人を見る目には自信がありますので」


 ニヤリと深海は笑みを返す。


「良いだろう合格だ。此処にいる間俺の小姓として置いてやる。オマケ扱いよりは待遇も良くなるだろう」


「で、この国の内情だったな。半年前に前王が倒れた。前王もそのまた前の王も、数えたらキリがない位この国の王は愚王だった。民無くして国はならず、とは考えず王のために民はあれと言った考え方がこの国には根付いていた。高い税で国民は何日も食べれない者もおり、餓死する民も居た。この国の大地は荒廃しており農作物もあまり育たない。僅かに取れた農作物は税として上に吸い上げられる。飲み物にすら苦労して民は水に酢を入れて飲んでいる。酢を入れることで何とか最低限の衛生的な効果が得られている訳だ」


 カグウの言葉に深海は疑問を覚えた。


「庭園は花が咲き乱れていました。とても作物が育たない荒廃した大地とは思えなかったですけど…」


「魔術師の中でも法術師を集めて大地と植物にオドで満たしているんだ。花を咲かすためだけに少ない法術師を使っているから作物まで手が回らないのが現状だ。

俺は王位を譲られたが貴族の殆どはクロナ派閥だ。

母親が下民である俺に従いたくないらしい。自分の子飼いの法術師を何だかんだと難癖をつけて俺に貸そうとはしない。仕方ないから俺は城壁の外の土地に少量のオドで大量に育つジャガイモを其処のフィルドに育てさせて町に流すようにしている。大体10年ほど前からだな」


 思った以上に深刻そうな事態だ。

 しかも10年ほど前と言うならカグウが10歳を少し行ったところだろう。

 フィルドの言う通り国随一の頭脳や指導力と言うのは決して誇張でもないようだ。


「それ以来何とか餓死する民は殆ど居なくなったがこの国では疫病が慢性的に流行っている。大人になれずに死ぬ子供や体力が無くて死ぬ高齢者は少なくない。病気は回復魔法では治せないからな。法術師が何人いてもどうしようもない。せめて浄化の魔法が使える人材が居れば少しは問題ないんだろうが…それこそ浄化の術が使えるなんて勇者や聖女クラスの者にしかその能力が認められた例がない。今回の聖女召喚は完全な失敗扱いだからな。浄化の魔法は望めないだろう」


 深海は口元に手を当て思考を始める。

 この王宮は衛生的に何の問題もない。

 むしろ水洗トイレがあって驚いたくらいである。


 中世ヨーロッパ並みの文明かと思いきや、中世ヨーロッパではまだ無かった個々の皿やナイフ、フォーク、スプーンが存在している。

 電球のような明りで城の中は夜でもそれなりに明るかったし思ったより文明が発達しているのだろう。

 王宮の中のトイレは全て水洗式のトイレであったし下水が確立されていると思って問題ないだろう。

 では衛生面とは関係なしに疫病が流行っているのだろうか?


「多分王都回れば色々納得するんじゃない?」


 チノシスが眠たげな声で言う。


「そんなに王宮と町とでは環境が違うんですか?」


「うん、まぁね~とにかく臭いよね~」


(臭い?町の方は本当に中世ヨーロッパレベルの衛生か?)


「まぁ食事中に話したい内容でないし後でラキザに案内して貰いなよ。俺はお仕事あるから着いて行けないけど。はぁ、今日もジャガイモ作りでオド使いはたすのかぁ」


 目元は見えないがフィルドが何となくガッカリしているのが分かる。

 その様子から相当カグウに使われているのだと理解できた。

 こうして深海は本日のスケジュールの一端が決まったのである。

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