No.5 海亀もどきの場合

生きている意味なんてないと思う。意味を見つけるために生きるんだろうか。でもそんなの結局は満たされた、幸せに恵まれた奴らが考える事だ。


誰からも必要とされていない。僕を生んだ親でさえ、僕のことなんかいらない。じゃあなんで生んだって?生んで後悔されるように育った僕が悪いんだろうね。きっとそうだ。・・・絶対、そう。親から見捨てられたんだもん。今更他人にどうこう言われても何も感じない。


ただ、痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。教室に入ったら自分の机に汚い言葉を殴り書きされているのも、中にはもっと汚いものが詰め込まれていても、座ったら痛いと思えば椅子に画鋲が敷き詰められているのも、昼休みにパシられるのも、殴られたり蹴られるのも虫を食わされるのも無視されるのも嫌だ。


なんでかな。今思い出しても辛くともなんともないや。


これから楽になれると思うとこんなに清々しいものなのか。


僕が死んで悲しむ人はいない。そんなのどうでもいい。周りが僕をどうでもいいように、僕もそんな奴ら、どうでもいい。机の上に花とか置かれるのかな?落書きよりはましか。

「・・・・・・。」

僕が選んだ自殺方法は溺死だ。偏見かもしれないが、僕ぐらいの年齢の人って刃物か飛び降りを選ぶんだろう。どうせなら僕の好きな綺麗な場所で死にたかったんだ。


一歩。


また一歩。


最初は少し怖かった。でも、今は全然そんなことなくて。足元から上に迫る冷たさが逆に暖かく感じる。頭まで浸かるまでにためらいはなかった。苦しい。わかっていた。息ができない。あたりまえだ。だけど、目に映る景色は今までにないぐらいに綺麗だ。一万の藍色だ。今まで、自分のキャンパスでしか感じられなかった鮮やかな色が視界いっぱいに広がる。


そういや絵が描くのが好きだったなあ。生まれ変わったらまた好きなだけ絵が描きたい。それができるなら生まれ変わっても僕で構わない。少しぐらいわがままを言うなら・・・。


あれ?なんで息ができるんだろう。


「生まれ変わっても自分でいたい、か・・・。」

声が聞こえる。どこから?誰!?

「そんな君には是非ともいい人生を歩んで欲しいが、こればかりは僕はなんとも・・・。」

なにを言ってるの?僕は今から死ぬんだよ?

「ああ、そうだな。とっとと死んでくれ。君が死んで喜ぶ者がいる。」

・・・・・・。その一言で思考するのをやめた。冷たい海の中でひどく優しい声に聞こえたけど。


「君も喜ぶと思うよ。覚えていたらの話だけど。」


どういうこと?君は誰?






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