No.2 芋虫の場合



人殺し。


そんな言葉がとうとう幻聴になってまで俺を苦しめる。


いや、幻聴じゃない。おそらく今もどこかで誰かが俺のことをそう言っているに違いない。


殺してなんかない。


殺すって、なんだ?


助けようとして、誤って、死なせてしまったことが「人殺し」なのか?




俺は医者だった。


人の命を救う仕事に大変誇りをもっていた。

ある患者の手術に失敗した。

その患者は死んでしまった。

当然、俺はとてつもない過ちを犯したと自分を責めた。責めてどうしようもないが責めて責めて責め続けた。

過ちなのはわかっている。俺は一生この罪を背負って生きていく。自分が自分で罪の重さを一番理解しているというのに、周りは掌を返したかの如く俺を責める。貶す。非難する。人殺しだと。


わかっている。

わかっている。

ただ、なぜ犯罪者と同等の扱いを受けなくてはいけない!?

それだけがー・・・。

俺の今まですらなかったかのように、否定されて。

一度犯した罪は消えない。

消えた命は戻らない。

疲れた。もう、俺のそばには誰もいない。この苦しみから解放する方法は自らも死ぬより他ない。

目の前には縄で作った輪がある。失敗しないよう、こんなところでやたらと頑張ったが、自分が楽になるための最後の努力だから構わない。


台に乗る。

輪の中に首を通す。

ああ、苦しいんだろう。でも、今まで長い間味わってきた。だからきっとこれぐらいはなんてことない。


「可哀想に。誰からも必要とされなくなったんだね。」

誰だ。また幻聴か?

「じゃあ君を必要としている世界に連れてってあげるよ。さあ、この世界での君の存在を無くしてしまおう。つまるところ・・・とっとと死ねということだ。」


俺ではない誰かが、後ろから台を蹴飛ばした。

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