淘汰された者

No.1 白兎の場合

「はぁ・・・はぁ・・・。」


なんでだろう。なんで僕はこんなにも惨めなんだろう。悪い事だってわかっている。でも、こうでもしないと生きていけないなんて、本当に惨めだ。


なぜ、僕はこんな目に合わなくてはいけない?これは僕が選んだ道じゃないのに。


あぁ、道行く人が変な目で見る。

僕と同じ歳ぐらいの子供が笑っている。


食べる物もなくて、食べる物を買うお金すらなくて、だからこうやって盗みを働くしか食べ物を手に入れられる方法がなくて、あたりまえのようにこうやって店の人に追いかけられている。当たり前だ。わかってる。盗みなんて本当はしたくない。こんなことしたくない。


なんでこうなったんだろう。


パパはいなくて。


ママは病気で死んで。


残った弟や妹も養いきれなくて飢え死にして。


なんで?なんで?

なんで僕がこんな目にあわなくてはいけない?

僕が一体何をした?息が苦しい。足に力が入らない。どうしよう、でもここで走るのをやめたら僕は・・・。


「死んでも動かせ、その足を。」


一瞬、頭の中に知らない人の声が聞こえた。何が起こったかわからなかったけど、僕はとにかく止まるわけにはいかないんだ。


「・・・!?」

曲がり角の向こう。何かが一つずつ落ちている。少しだけスピードを緩める。

トランプだ。トランプが一つの方向に導くように何枚も落ちている。それが何かはわからないけど、なんとなく僕はそのトランプを辿って走り続けた。


スペード、クローバー、ダイア、ハート。

エース、ジャック、キング、クイーン。

そして最後は・・・。


「ジョーカー・・・。」

突然、体がふわりと浮いた。

「・・・!?」

いや、違う。僕はこの目で見た。

マンホールだ!なんで?偶然にも蓋が開いていたとでもいうのか!?トランプばかりに気を取られて気がつかなかった!


いやだ!いやだ、こんなの・・・。

こんな惨めな僕のまま、死にたくない!!



「誰かに必要とされたいかい?」


またあの声だ。一体どこから?誰?というか、今はそれどころじゃない!真っ黒な穴の中をただひたすら落ちているんだ!


ダメだ。このままじゃ、死んでしまうー・・・。




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