現実
今日はやけに曇っている。白く分厚い綿のような雲が空を隙間なく隠している。西の方が少し黒みを帯びている、もしかしたら夜辺りに雨が降ってくるかもしれない。天気予報は珍しく曇りのち晴れと嘘をついた。
何が晴れだ、くだらない。
「ロリーナ、まだいたのか。」
ここは墓場。まさしく今の天気が絵になるぐらい不気味さを演出していた。その中のひとつ、新しい墓の前でこれもまた絵になるぐらい喪服の似合う金髪の少女が儚げにそこに立っていた。
「・・・。」
後ろには少し貫禄のある男性が、ロリーナに声をかけた。しかし、彼女は頑なに口を開こうとはしなかった。
「・・・早くしないと、フォックスがお前を・・・。
「お父様、早く帰してやって、あんな骨無し。」
そう冷たく吐き捨てた。ロリーナの父親はやれやれと肩をすくめて立ち去る。
「アリスちゃん。そんなところで寝るなんてよほど眠たかったのね。はやくお家に帰るわよ。」
愛しい名前が彫られた墓にそっと白い指を触れる。だが彼女が触れたのは肌の温もりではない。石の無機質な冷たさだ。
「・・・お父様やお母様・・・親戚、他のみんなはきっと貴方を厄介払いしたのだわ・・・!きっとそうよ!そうに違いないわ・・・!」
次第に涙が頬に伝う。ひとつ、ふたつ。
「私は違うわ!いつまでもずっと待っている!なんならここで貴女の帰りを・・・帰りを待ってるから・・・!私は・・・私は!!!」
早すぎる雨が、少しずつ地面を濡らしていった。
「アリスちゃんさえいれば・・・。」
そしてロリーナはもういない「×××」の墓をまるでそれが「×××」本人のように、腕をそっと回したあと強く抱き締めた。
涙と雨が混ざったものが彼女の顔と、強まっていった雨粒は心に叩きつけるように降り注ぐ。ふと、ロリーナの口から無意識に出た。
「・・・許さない、絶対に・・・。」
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