最終話 最果て。
コニコニ動画跡地を抜けると、目の前に大きなトンネルが道を塞いでいた。
少年は通りたくなかった。
約80年前のオブジェ。
崩れて生き埋めになったりしたら大変だからだ。
トンネルの周りには張り紙が貼ってあり、『ここを通るべからず』や『通ってはいけない』など、忠告文が書かれていた。
しかし、ここしか道はない。辺りは深い森に包まれていてとてもじゃないが通れない。
『サルテン・ハチュラン』まではあともう少しなのに、少年は進めない。
トンネルを通ろうと思えば通れるが、恐怖が少年の足を引っ張る。
少年はその恐怖を紛らわせようと思い、コニコニ動画跡地でダウンロードした曲をかけた。
そして、自転車をこぎ始める。ゆっくりと。
トンネルは暗くて、寒かった。ピトピトと水が垂れ落ちる音が聞こえる。
だいぶ進むが、光は見えない。
少年の心をいっきに不安とそして『恐怖』で埋め尽くされる。
が、少年はここを乗り切ればと辛抱する。
すると、前から小さな光が差し込んだ。前に進むとそれは段々と大きくなる。
ついに、出口が見えたのだ。その光は少年を包み込んでいく。
少年は自転車を静かに置き「ありがとう」と、自転車にひと言。自転車は数字になって消えた。
少年は走り出す、夢を叶えるために。
少年がトンネルを抜ける。
だが、目の前には少年が思い描いていた町はなく、野原が広がり、奥には大きな池があるだけだった。
*
「あれ、町は?」
少年が驚きのあまり思ったことを口にしてしまう。
少年は野原の中央と思われるところに向かう。
そこには青いバラが1本咲いているだけだった。辺りには短い草が生えているだけで、大きな木が生えていることはなかった。
少年は右側の方にあるベンチにお爺さんが座っているのに気が付く。
「お爺さん、今日は」
少年が笑顔で話しかける。
「……」
「お爺さんはここで何をしてるんですか?」
「ワシかい? そうじゃなぁ……ここでのんびりと暮らしておるよ」
「いつからここに?」
「うぅん……。ざっと80年前からじゃな」
お爺さんは白く長いひげを触りながら答える。
「ここに町があると聞いて来たのですが?」
「ないない、そんなもんはない。この前、
「……ホラって、どんな?」
「むかし、ここに子供たちがおってな。1つ驚かせたろうと思って、話を聞かせたんじゃ」
「どんな?」
「カッカッカッカッ。もう覚えとらんわい。あと少しの命、そんなもの覚えとる暇はない」
少年は疑問に思う。
「ここでは死なないんじゃ?」
そう訊くと、お爺さんは、
「そんなわけあるかい。生きるもんは死ぬ運命じゃよ」
と現実世界の摂理を言った。
少年はさらに訊く。
「では、なぜ死んでしまうんです?」
「それはな、どの記憶にもタイムリミットを仕掛けてるんじゃ。1人100年分のな」
お爺さんはそういうと、静かに目を閉じ、
「じゃあの、小童。最後にここの秘密を人に話せてよかったんじゃ」
と、少年に言った。
少年は人が死ぬところを見たことがなかった。現実世界でも、ここでも。
初めて親近感が湧き、まだ話したいと思った人が死んでしまった場面に遭遇した少年は泣いていた。
お爺さんのアバターはたくさんの数字となり、最後は自然に消えた。
少年はベンチの前に木の札を立て、お爺さんと書いた。
少年が池の方へ行こうと思い、足を進めようとすると、足はそれを拒絶した。
いや、反応しなかった。と、同時に咳の気配がしたので1つ出す。すると、口から数字の書かれた赤い液体が出てくる。
少年はそれが何か知らない。次々に出てくる。
少年はそれを死の液と考えた。そう考えざるを得なかった。
次第に少年の身体は立つ動作を保てなくなり、地面に倒れる。
いったいどこでウイルスが体内に入ったのか。少年は最後の力を振り絞り過去を調べる。1回コニコニ動画跡地で女性に取り除いてもらった。そこからいったいどうやって?
すると、ある1つのウイルス増殖部分が見つかる。
それはコニコニ動画跡地でダウンロードした曲だった。
たぶん取りきれなかったウイルスがいっしょに入ってきてしまい、増殖したのだと少年は考えた。
少年は身体を1回転させて、仰向けになる。
そして、上空へ向かいこう叫ぶ。
「かぁさん! 叶ったよ、夢!」
少年は叫び終えると、目を瞑った。
空には黄色の小鳥が飛んでいる。
先ほどまで吹いていなかった風が、草を揺らして少年の倒れている元へ流れ込む。
しかし、そこに少年の身体はもうない。
あるのはたった1つの失われた
ネットを旅する少年。 黒野ソソ @kuronososo
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