第5話 コニコニ動画跡地

「調子、どうですか?」

 少年を救ってくれた女性がお茶を持ってきた。

「もう、大丈夫そうです」

 少年が腕をブンブン回しながら答える。

「そうでしたか。それならよかった。思いのほかウイルスを取り除くのに時間がかかっちゃったんですけど、大丈夫そうならよかったです」

 女性がニコリと笑う。

「そうだ、僕コニコニ動画跡地を見に来たくて」

「ワァ! そうなんですね! 私も13年前にここに来たくて、親の忠告を無視して来ちゃいました。そしたらここの居心地が良くて、ずっと住んでます」

 女性はエヘヘとにやけながら頬をかく仕草をした。

「僕はここにある音楽を求めて……」

「まぁ、それはなんですか?」

 女性がこちらを見る。

「『みっくみっくにすんぞこら!』なんですが、ここにありますか?」

 少年の言葉を聞いて女性は首を縦にブンブンふる。頭が取れそうなぐらいに。

「ありますよ! あの奥のエクスプローラーに音楽ファイルがあるので、そこから自分のメモリーにダウンロードしてください」

「あ、親切にどうも」

「いえいえ。……私の周りにこの地を知っている子はいませんから。ここにあった伝説も、記憶も」

 女性は遠くを見ている。女性の視線の先にはニコッと笑ったキャラクター4人が描かれた看板がある。看板の下部には〝2009年 らキ☆すタin舞踏館〟とポップな字体で書かれていた。

「私、もっと前に生まれたかったなぁ」

 女性はそう言うと、立ち上がり奥の方へと消えていった。

「……そうですね」

 少年は誰もいない空間に、言った。

 

 

 少年は四角いファイルがバラバラに散った場所を歩いている。

 ファイルには名前が付けられていた。

 だけど、あまり汚れていて見えない。見えたものは指で数えられるぐらいだった。

 少年は女性が言っていたエクスプローラーから曲をダウンロードした。

 そして、置かれていた誰のかもう分からない自転車に跨り、最果てへとこぎ始める。


 少年は緊張と楽しみが混ざった、複雑な気持だった。

 コニコニ動画跡地を抜けると最果ての町『サルテン・ハチュラン』。

 少年は今日も悠々と進む。

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