三章 白黒創設編

十五頁目 転生の謎


「……はて、どうしたもんか」


過剰なまでに煌びやかな室内で目覚めた雪兎は、飽く事なく唸り続けていた。かれこれ5分は経っただろうか?


「まぁ……とりあえず出るしかないよな」


最高級の寝心地を提供してくれた羽毛ベッドから起き上がる事を少々惜しく思いつつ、のっそりと起き上がるとすぐに出口を探し始めた。

扉はベッドで横になっていた雪兎のちょうど足側。つまり、雪兎から見て南側にある。まだ微かに痛む頭を押さえながら、雪兎は扉の方へと足を運んだ。


「そういや、彼奴らは無事なのか?」


丁度扉のハンドルを掴んだ所で、不意にそんな心配が込み上げて来た。

陽也達は勿論のこと、能力の代償で自らの命を削られる苦痛を味わいながらも雪兎らに手を貸してくれたナハト、最後の瞬間まで雪兎らを守ってくれたブラッド、ルーサー、レイヴン。

雪兎の記憶が途切れている間……幼少期の夢を見ている間も体を張ってくれていたと考えると胸が痛む。

自身の不甲斐なさに唇を噛むが、過去の後悔に足踏みしていた所で進歩出来るワケがない。

無念を己の胸の内に押し込めると、勢いよく扉のハンドルを回した。


--の、だが。



「あ、あれぇ……?」


ガチャガチャと騒がしい音を鳴らし続けるだけで、扉が開く気配はほぼ皆無だ。

一旦手を止めて蝶番を確認するが、しっかりこちら側に付いている。つまり『押し開ける』ハズなのだが、全くもって開かない。


まさか閉じ込められた!?


焦りを隠せず、今度は力任せにハンドルを捻り押す。すると………


「んあッ!?」


外から声が聞こえたと思うと、さっきの抵抗が嘘のように消え、体当たりの勢いのままに外へ飛び出してしまった。


「どわッ!?」


飛び出した反動で躓き、慌てて体勢を整えようとした際に何かとぶつかり、その巻き込んでしまった何かと一緒に向かいの壁へと激突した。


「いっつつ……」


壁と激突した衝撃の余韻を手に感じながら、目まぐるしく変わる状況に混乱する自分を落ち着けるために、荒くなった息を整える。

そして、すぐ近くでもう一つの呼吸音が聞こえる事に遅まきながら気付いた。


「ゆ……きと………?」


ゆっくりと顔を上げると、すぐ近くに響華の顔があった。響華は顔を真っ赤にし、ぽかんと雪兎を見詰めていた。


「響華っ!?」


慌てて飛び退こうとするが、左側の通路から微かに聞き覚えのある声が耳に入った。


「なるほど、恋仲であったか。そう言う事であれば、自ら呼び出しに行こうとするのにも納得が行くな。」


「「ルーサーさん!?」」


二人して首を左に向けると、至る所に包帯を巻いていたルーサーが足早にこちらへ向かって来る所だった。


「愛し合うのは結構だが、今は時間が惜しい。 あまり王を待たせるなよ。」


「ついて来い」そう言うとルーサーは手を一振りし、踵を返した。

言われるがままに、ルーサーの後ろを付き添う。響華とはまだ気まずいままだが、直に落ち着くだろう。

響華との件は忘れる事にした雪兎は、煌びやかな通路を歩くルーサーに話掛けた。


「ルーサーさん」


「なんだ。」


「その傷は……ハスの時のモノですよね」


「あぁ。」


「ですが、傷を負った大半の理由は、俺……なんですよね」


そう言った瞬間、ルーサーは立ち止まった。

困惑する雪兎達を他所に、ルーサーはしばらく黙り込む……刹那、ルーサーが雪兎に向き直り、キッと睨め付けながら地に響くような声で言った。


「自惚れるな。」


「え?」


先程までは簡素な受け答えしかしなかったルーサーが、突然感情を露わにしたのだ。


「何が『俺なんですよね』だ。貴様を守ったつもりは微塵もない。 俺はレイヴンの指示に従った。ただそれだけだ。」


そう言うとルーサーは前に向き直る。


「だが強いて言うとするのであれば………」


「ユキト、お前は弱い。実力も、心も、両方とも。 それが危なっかしいから助けた。」


ルーサーはそれだけ吐き捨てるように言うと、薄手の腰鎧を翻した。





それ以来は全く口を開かなくなったルーサーの背を追う事数分。如何にもという厳かな雰囲気漂う大きな広間に出ると、ルーサーが立ち止まった。


「ここで待っていろ。」


そう言い残し、ルーサーは玉座が鎮座する奥へと進んで行った。

しばらく直立待機していると、ルーサーが入って行った奥の部屋から、陽也と蓬戯が姿を現した。二人は雪兎達を見つけるや満面の笑みで走り寄って来た。


「雪兎!」


「雪兎くん!」


そもそもの足の速さの関係で陽也が先になったので、まずは陽也と力強く腕を組んで再会を喜び、次に蓬戯とハイタッチを交わして再会を喜んだ。


「ったく、心配したんだぜぇ?」


「ホントだよ~!も~!」


「ははっ、悪かったって! もう大丈夫だから!な?」


本当か~?と、訝しむ陽也たちに苦笑していると、蓬戯が響華の異変に気付いた。


「んん~? 響華ちゃんなんかテンション低いけど……どうしたの~?」


「ふぇっ!? そ、そう!?」


あからさまに白けて見せる響華に、蓬戯のみならず、陽也まで勘繰り始める始末。


「おーん……確かに響華らしくねぇよなぁ………」


訝しむ二人から至近距離で問い質され、あたふたし始める響華。普段は演技が上手なハズなのだが……ここまで嘘が下手な響華は初めて見た。

その頃、響華の思考回路はまさにパンク寸前であった。


(言えるワケないじゃない!雪兎が発情期の動物並みの勢いで壁ドンして来たなんて!!)


響華に聞いても埒が明かないと判断した陽也は、次に雪兎へと目標を変えた。


「なぁ雪t--」


「知らない!」


「早ぇよ。」


目に見えて焦る雪兎を見て、にま~っと笑う陽也。クっ、ここまでか……!

雪兎が諦めかけたその瞬間--


「ほ~!!此奴らが新しい適合者か!!加えて四人ッ!! いや~、豊作であるなぁ!!」


玉座からとてつもなく野太い声が轟いた。

四人はあまりの轟音(?)に肩を竦め、恐る恐るという感じに玉座の方を向いた。

そこにいたのは、玉座を囲んでいる闘技場で見たような顔触れが三人と、初めて見る顔が一人。そして中央……すなわち玉座に居座っていたのは、顔中に大きな傷が入ったオールバックの偉丈夫だった。

突然の登場に戸惑いを隠せない一同だったが、それを読んだかのように偉丈夫が喋り始めた。


「おっと、これは失礼!紹介が遅れたな!!」


相変わらずの大声で紡いだ言葉は、雪兎たちを驚愕させた。


「我の名はビスマルク!! ここ『グラズスヘイム』の"領主"である!!」



「「「「!?!?」」」」



--夢で見た光景とは全く違う。


雪兎たちの夢は、この世界を守る最強の冒険者になるまでのシナリオを追っている。

そしてその進行関係上、一度王とは顔を合わせているのだが………夢の中では恰幅の良い中年男性だったハズだ。こんな筋肉の塊みたいな男性ではなかった。


しかし。


「フっ!その驚いた顔……恐らく『自分が知っている王ではない』、という疑問から来るものではないかな?」


ビスマルクと名乗ったグラズスヘイムの王は、まるで雪兎達の思考を読み取ったかのように答えた。


「な、何故それを……?」


一同を代表して、雪兎が王に問う。


「あぁ、簡単な話だ!」


王は豪快に笑うと、至極簡単に………一言だけ。



「我も!そしてここにおる者達も!全員が転生者である!!」



「なっ!?」「えっ!?」「嘘っ!?」「はぁ!?」


困惑の声からしばしの間。固まる雪兎達から一番手に口火を切ったのは響華だった。


「どういう事ですか!?」


「ふぅむ……そうだな、どこから説明したものか………」


顎に手を当てて考え込む王を、固唾を呑んで見守る中--。


「ビスマルク陛下。ここからは私にお任せを。」


「おお、アイゼンか!すまぬな! では頼んだぞ!!」


「はっ。」


アイゼンと呼ばれた仏頂面の男は、王に一度会釈すると雪兎らに向き直った。


「ここからは、俺たち『グラズスヘイム 四隊長』が話を引き継ぐ。まずは名だけ覚えてくれ」



「俺はアイゼン。四隊長の中では総隊長を務めている。部下からは『序列壱番アインツ』と呼ばれている」


「よろしく頼む」そう言ってアイゼンは頭を下げた。堅物のようではあるが、儀礼はしっかりとしていた。

次に進み出たのは、紫色の長髪を弄ぶ女性。


「カミラよ。『序列参番ドライ』とも呼ばれているわ。よろしくね」


最後にふふっと笑って見せると、一歩下がった。そして入れ替わりのように前へ進み出たのは、首に十字架を下げた金髪の女性だった。


「シュトラーフェと言う。皆からは『序列肆番フィア』と呼ばれているな」


「皆に加護があらん事を」と小さく祈りを告げたシュトラーフェは、手で素早く十字を切ると後ろへ下がった。相当に信心深いようだ。

四隊長も、残るはあと一人……と言う所で、アイゼンが口を挟んだ。


「今の三人は、先日闘技場で顔を合わせた者もいるだろう。 そうだな、雪兎」


「は、はい」


何故俺の名前を?と、疑問を口にする前に、突然アイゼンは頭を下げた。


「その節はすまなかったな……目の前で粛清を行なってしまった。あれは見せられて気分のいいものではない……不快な気持ちにさせてしまった事に、深く謝罪する」


雪兎も含め四人が動揺する中、陽也が小声で響華に聞いた。


「……え、いつ?」


「私たちが気絶してた時よ」


「あぁ~………」


納得したように相槌を打つ反面、陽也は少し悔しそうな表情を浮かべた。

ハスは雪兎ら四人を大いに苦しめた敵だ。夢という自分に都合がいい脳内再生を繰り返して優越感に浸っていた、自らの実力不足を痛感させられたのだから。


「チッ、あの野郎……次見かけたら一発ぶん殴ってやる………」


「それは叶わない話だな」


「………は?」


「ハスはもうこの世界に存在しない。 我々がこの手で処刑した故、な。」


「なっ………」


陽也のみならず、響華たちまでもが目を丸くした。仕方もない、突然「死んだ」と言われても、すぐ頭の中に入って来るワケがない。


「どう言うこと……ですか?」


「あぁ、処刑執行対象……ハスは以前からマークされていた。だが奴の足取りが中々掴めなくてな……」


不甲斐ないとばかりに、アイゼンは歯を食い縛る。


「だが、先日の闘技大会で進展が起きた。」


「進展?」


「そう。 実はナハトを監視する為だけに密偵を送り込んだのだが……偶然ハスを発見したらしくてな」


「なるほど」


「本来ならば連絡が来次第すぐに向かえたのだが………」


「「「「のだが……?」」」」


依然苦い表情を崩さないまま、アイゼンは言った。


「ナハトが密偵の存在に気付き、その密偵を気絶させてしまったみたいでな」


「あ。」


「その結果、救援に向かうのが遅れたというワケだ」


陽也、響華、蓬戯が「何をやってるんだナハトめ」と怒りを露わにしている間、ただ一人雪兎は『あの人か……』と、準決勝戦でナハトにこめかみ目掛けて加工ナイフを投げ付けられた男性に向かって心の中で合掌していた。


「………おっと、大分話が逸れてしまったな。 最後の一人を紹介しよう」


アイゼンは大きく咳払いすると、最後の一人に目配せをした。

目配せをされた青年は少しため息を吐くと、簡素な言葉だけを述べた。


「……ネイト。『序列弐番ツヴァイ』だ。」


短い一文だけを、まるで台本を読み上げるかのように無感情に言うと、すぐに引いてしまった。


「ネイトは闘技大会での事件があった時に別件の任務があってな。これで初対面になる」


なんだか微妙な空気になってしまったその場を、アイゼンがフォローを入れる。集団行動に難あり、と言った所だろうか?


「--以上が四隊長のメンツだ。覚えて帰ってくれ」


「分かりました」


「よし、いい返事だ。」


声色は少し嬉しそうではあったが、アイゼンの仏頂面が崩れる事はなかった。


「では次に、皆が気になっているであろう謎……『転生の謎』についてだ。」


「……はい」


四人全員が固唾を呑んで、次の言葉を待つ。

この世界に転生して来た謎を知り得る機会だ。絶対に聞き逃すワケにはいかない………


「まず説明するに当たって、いくつか確認、説明しておく事がある」


「は、はい……?」


「まずはその一。この世界の詳細は知っているか?」


「……知ってるか?」


雪兎は振り返って三人に聞くが、全員首を横に振った。


「……い、いえ」


「ふむ。まぁ、転生したばかりなのだから、知らなくて当然か」


「えぇ………」


「まずは覚えておけ。」


アイゼンは人差し指を立てると、簡潔に説明した。


「この世界は『仮想夢世界 "偽創語 (グリリム)"』と呼ばれる、大型の『医療機関』だ」


「医療……機関……?」


予想だにしていなかったワードが飛び出し、全員が驚いた。


「この世界は心になんらかの"傷"を負った、精神患者が多く集められている。ここに呼ばれているという事は、君たちにも心の傷があるようだね」


その言葉を聞いた雪兎は勢いよく振り返ると、三人の仲間たちを見た。雪兎を含めた四人は、互いに探り合うように目線を合わせていたが、途端にバツが悪くなったように顔を背けてしまった。


「……例え親しい仲であろうとも、隠し事の一つや二つはあるだろう。何、その内知ることになるさ。己が友の胸の内をな。」


「「「「…………。」」」」


完全に沈黙した四人を憐れむように見たアイゼンは、構わず話を進めた。


「話を戻そう。 世界を創り、そこに大多数の患者を集める……到底人間業とは思えないが、心の傷を癒やす事に最善を尽くしてくれるというのであれば、こちらとしてもありがたい」


「でも心の傷の修復なんてどうやって………」


「手法については、"あちら側"から説明されている。」


「あちら側……?」


「無論、この世界を創り出した者達だ」



「「「「 !! 」」」」



「奴らは言っていた。心の修復には『感情片』なるカケラが必要だと。」


「感情片………」


「感情片とは、人格を形成する上で必要不可欠な要素、"感情"をカケラとした物だ。 感情片を入手すると、自動的に収納スペース……自身の人格へ嵌め込まれる。」


その説明を聞いた瞬間、雪兎は確信した。時々感じた『ピースが嵌め込まれるような感覚』の正体はこれだったのかと。


「入手条件は、心の底から感情を露わにする事。 日常会話などで感じる微かなモノではなく、思わず体が動いてしまうほどの強い感情が必要になる。」


「ほぉーん……なら、俺はすぐに集まりそうだな」


陽也のその発言に、全員の視線が釘付けになる。

確かに陽也はすぐに体が動くタイプだ。そういう事であれば、確かに陽也はすぐにクリア出来るだろう。


「体が動いても、心が動かなければ意味がないぞ」


「っ………。」


少し茶々を入れたつもりだったようだが、アイゼンの思わぬ反撃に陽也は言葉を詰まらせてしまった。


「--ともかく、この偽創語に呼ばれた者たちの目的は感情片を集める事だ。 ちなみにここに転生して来た者たちの事を『偽人(カバー)』と言う。語源としては、差し詰め『本を包む"カバー"のように、ただ表面上だけの存在であるから』……という事だろうな」


「転生の謎については以上だ」と無表情を貫くアイゼンは、無言で雪兎たちを見下ろした。

つまり、『質問はあるか?』と聞いているのだろう。

その意図を読み取ったらしい響華は、律儀に小さく手を挙げ、口を開いた。


「あの……私たちがこの世界にいる間、現実世界での私たちの扱いはどうなるんですか?」


響華がアイゼンに投げ掛けた質問に、三人は揃って「あっ」と声を上げた。

確かにそれは気になる。転生者がいない間は行方不明として処理されるのか、はたまた全人類から転生者らの記憶を消して一時的にいなかった事にするのか。

雪兎は読んだことのあるラノベの内容を全て掘り返し、大方のテンプレ展開を脳裏に展開する。が、アイゼンの答えは雪兎が持ち合わせている知識のどれにも該当しなかった。


「あぁ。俺ら転生者がいない間でも、現実世界ではしっかりと転生者の体は動き続けている。」


「--えっ………??」


ぽかんと口を開けたまま、響華が硬直する。それは残りの三人も同じだ。


「転生者の体は、俺らがこの世界にいる間も"仮の人格"を埋め込まれて活動しているらしい。 しかもこの仮人格とやらが上手く出来ているらしくてな…… これまでの行動パターンを分析して、まるで本人のように活動するんだ。」


「だが、その仮人格は"自己の主張"がかなり控えめである為『存在するが存在していない』……所謂『空気』と呼ばれる存在に成り代わるってワケだ」


「へ、へぇ~………」


安心していいのか良くないのか分からない微妙な線の措置だな、と思わず苦笑が漏れてしまう反面、『人外の存在である"何か"の気まぐれに巻き込まれてしまった』という危機感は、確固としたモノに変わっていた。



「……質問は以上か?」


「あ、あぁ」


「では先に進むぞ。いいか?ここからが本題になる。 ………ビスマルク陛下、『感情を継ぐ者達』の説明を。」


「うむ!!」


このままアイゼンが全ての説明をするかと思いきや、今度は王へと話が振られた。

王はゆったりと玉座から立ち上がり、玉座前の段差を下る。その悠然と佇む様は、王を名乗るに相応しい風格を持ち合わせていた。


「ふぅむ……台座が無いな!よし!!」


王はしばらくの思案の後、おもむろに左手を挙げる。もしやアニメや漫画で出てくる金持ちや貴族なんかがよくやる、『指を鳴らして召使いになんか持って来させる』というのをやるのだろうか。

好奇心から微かに高鳴る鼓動を抑え、今か今かとその時を待つ。そして王の左手が肩程まで上がったその刹那………



パァンッッ!!!



「「「「 !!? 」」」」


予想していた……いや、予想”以上“の破裂音が鳴り響き、雪兎たちの度肝を抜かれた。

音の出所は”指“ではなく、振り抜かれた”腕“であったからだ。

雪兎の目の前でなにがあったかと言うと、ただ王が拳を振り抜いただけ……たったそれだけのはずなのに。

放たれた拳は肉眼で追う事さえ許さず、剰え拳は音速を超え、まるで鞭をしならせたかのような破裂音を発したのだ。

あわわと口を閉じれずにいる雪兎たちを見て、王は「はて?」というような顔をするが、すぐに自分の失態だという事に気付いた。


「おっと、これはすまない! 指を鳴らすより、このやり方の方がやり易くてな!!」


はっはっはっと大笑いする王に、四人は苦笑いを浮かべるしかなかった。

そうこうしている内に二人の執事がオーバーサイズとも言えるほどの机を運んで来て、王の前に置いた。

二人の執事はその場の全員に向かって恭しく会釈をすると、足早にその場から去って行った。


「よし!これで話が進められるな!!」


王は満足気に喋ると、ある一つの装置を置いた。それは黒いドーム状で、カメラのような部品も付いていた。


映像投影装置 《プロジェクター》


馴染みある道具が出回るこの世界では、こう言った現実世界で見るような道具は全て『魔導機械』扱いだ。確か、金貨五枚(現実の貨幣に換算すると五万円)だったような。


「さて!ここで質問だ!!」


突然の大声に肩が跳ねるが、王の様子を見る限りこれが王にとっての普通なのだろう。そろそろ慣れなければ。


「感情片を集めるのが我ら偽人の目的であるが、人間に必要な感情はなんだと思う?」


「笑いだ!」


「愛情、かな~?」


「喜怒哀楽……かしら?」


「ハッハッハ!! 確かにどれも人間に必要不可欠!実際、今出た案は全て感情片として集める事が出来る!だがッ!!どれも違う!!」


違うと言われ、もう一度思考し始める三人。当てられるかな~?と、まるで子供に難しい謎々を出すかのように笑顔を浮かべる王。

だが、王は一人だけ意見を出していない人がいる事に気付いていた。


「では雪兎くん!君はなんだと思うんだい?」


雪兎は突然名指しされた事に驚いたが、ゆっくりと口を開いた。


「……七つの大罪」


予想の斜め上を行く回答に、ほぉと目を見開く王……のみならず、陽也たちもが驚きの顔を雪兎に向ける。


「おいおい雪兎、それマジで言ってんのかよ? 七つの大罪って、確か『人が罪を犯す七つの要因』の事だよな?」


「だからこそだ」


「おん?」


「喜び、怒り、哀しみ、楽しさ。どれもオブラートに包まれている、いわば『白の感情』だ。 だけど……」


「それも突き詰めれば、人を外の道へ引き摺り出す『黒の感情』になる」


雪兎の言葉を引き継いだのは響華だった。自然と視線は響華へと釘付けになるが--


「そんな黒い所も!白い所も!全てひっくるめて人間だ!!」


王の身を揺るがすような声に、注目が一気に王へと戻る。


『『…………。』』


しばしの沈黙。そしてその沈黙を破ったのは王だった。






「正解だ、雪兎くん!」

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