十四頁目 その目に映るのは

「~~~~ッ!!?」


一体何が起こったんだ!?

幾度もの激突の末多少の邪魔は入ったが、ようやくコイツを無力化出来た。やっとコイツを殺す事が出来る……そう思っていた。

俺の確固とした確信を叩き潰すかのように、雪兎は静かに立ち上がったのだ。

立ち上がるのならもう一度叩き潰せばいい。それだけの事……。

— — だが。

雪兎は無造作に俺の首を掴み取ると、持ち上げたのだ。

今まで剣しか使って来なかった雪兎が唐突に体術を使う。ただそれだけの事だが、ハスにとってはこれ以上ないくらいの"不意打ち"だった。

取り乱したハスはネメシス《復讐の刄》を使う事も忘れ、雪兎の腕の中でただ無様にもがく。

その姿を見た雪兎は無邪気に、それでいて歪に笑うと、ハスを自分の顔に近付ける。


「兎さん、捕まえた♪」


意味も分からないはずの一言で。ハスは人生で一番の戦慄を感じた。

目の前にいる雪兎は、さっきとはまるで別人だ。コイツは……

人間の皮を被った悪魔だ。





— — 雪兎は、兎と戯れていた。

圧倒的な力。弱小な存在。わざわざその差を教えてあげたのに、その兎はまだこちらへと向かって来るのだ。

……しかも恐怖に震えながら。


「……おもしろい うさぎさんだなぁ」


その言葉に反応したかのように、兎は俺を微かに睨め付ける。

しばらくは飽きずに済みそうだ…… 期待を裏切らないでくれよ?





— — 羞恥心を捨て、ジタバタと情けなくもがいたのが功を成したのか。雪兎はどうでもいいと言わんばかりにハスを投げ飛ばす。

即座に受け身を取り、大きくステップをして距離を離すと同時に、腰を深く落として居合いの構えを取る。

そんな俺を面白そうに見ていた雪兎は、事もなげに呟いた。


「……面白い兎さんだなぁ」

「……兎だと…?」


さっきから兎、兎、兎って……何 意味わかんねぇ事言ってんだ?


「ナメてんじゃねぇぞォォ!!」


余裕のある足取りでゆっくりと歩き出す雪兎に向け、最大の憎悪を込めた斬撃を放つ。

これほどの憎悪だ、グラズスヘイムの最端にある城壁まで到達するだろう。

そしてその斬撃は、真っ直ぐ雪兎に向かい……


「止まれ。」


その一言で止まった。


「馬鹿な!!?」


唖然とするハスを余所に、雪兎は次々に"何か"を始める。


「時間改変。発生地点、到達地点を逆転し、俺が使用した事にする。」


一語一句全てがハスにとって意味不明なモノだが、それがハスにとってプラスなモノではないというのは、火を見るより明らかだった。

全ての工程が完了したらしい雪兎は、またもや不審な行動を取る……いや、手刀を居合いの形に持っていくこの構え……まさか!?


「— — ネメシス《復讐の刄》。」


— — ハスの予想は的中した。雪兎は楽しそうに笑うと、手刀を一薙する。雪兎が作り出した不可視の刃は、今ハスが作り出した刃とほとんど同じ規模だった。

唖然と棒立ちするハスを置いて、刃は易々とハスに到達する。だがその刃がハスを傷付けることはなかった。

ぬるりと体の中をすり抜ける嫌な感触がハスの全神経へと伝わり、瞬く間に鳥肌が立つ。わなわなと震えるハスを目に映すと、雪兎はまたもや楽しそうに笑った。

しかしそんな状態でありながらも、冷静に分析するもう1人のハスがいる。

ネメシス《復讐の刄》は対象への憎悪を起点に、殺傷効果を持つ刃を生成する能力だ。刃自体は憎悪の感情を抱いていなくとも作れるが、その性質故ただの見掛け倒しの刃しか出来上がらない。つまりは……


「………♪」


— — 雪兎はハスを殺そうなど思っていない。

文字通り雪兎にとってこの戦いは"遊び"であり、ハスはただの"玩具"なのだ。その捉え方がハスの怒りに火を点けた。


「クッソがァァァアアッ!!」


指十本そして足二本をフルで活用し、雪兎に全力で刃を叩き込む。しかし当の雪兎は変わらぬ笑顔を浮かべ続けており、危機感など微塵も抱いている様子はない。

次々に雪兎を切り裂く……はずだった刃。その全ては雪兎に触れると同時に同じ軌道、同じ速度、同じ規模で戻って来る。そしてそれら全部は例外なくハスをすり抜けるだけだった。


「別にあんなめんどくさい事しなくても、同じ事出来るんだよね~」


サラッととんでもない事を頭を掻きながら暴露する。驚くハスを他所に、雪兎は軽い足取りでハスへと近付く。足が一歩前に出た瞬間、ハスは無意識の内に後退っていた。

— — 能力が通じない。それどころか己の能力として返して来る。そんなの………


「……反則じゃねぇか」


圧倒的な戦力を有していたはずのハスは、いつのまにか膝をついていた。





「ワァオ……ヤルネェ」


謎のコンソールルームにて。事の発端となるキッカケを与えた張本人であるアリスは、その様子を満足そうに見ていた。

アリスのした事というのは至って単純。ただ『本人が大事にしていた感情』を"昂らせた"だけだ。

忘時 雪兎……最初は心優しく気弱だった彼は、幼少期に好奇心からくる行動によって『強者の世界』を知った。何も難しい事はしていない。ただ『動物を甚振いたぶった』だけ。しかし気弱な彼を変えるには十分過ぎる刺激だった。

流石に動物虐待を知った上で甚振る事はしなかったが、やはり心のどこかでは求めていたのだろうな………


「おい、この偽人カバー様子が変だぞ」

「んむぅ?どれどれ~…… あー、これはなんかやってるね~。誰か偽感情片でも使ったぁ?」

「私ではないぞ。」

「アタシでもないよ~」

「「…………。」」


チェシャとドロシーが、互いに探り合うように目を合わせる事数秒。やがて合点がいったかのように振り向くと、迷いなくアリスへと視線を向けた。


「「お前かアリス。」」


監視を続けていたチェシャとドロシーだったが、"新参者"がここまで暴れていれば流石に目立つ。

そしてその原因が監視こちら側の仕業だと分かればすぐに原因はアリスだと断定出来る。それは何故か?


「………エヘ♪」

「「やっぱお前なんだな」」


— — アリスが監視者の中で一番問題を起こすからだ。

騒ぎを聞き付けたグリムが事の顛末を聞くとすぐにため息をつき、まっすぐアリスの元へ足を運ぶ。


「何をしでかしたかと思えば……まさか偽感情片を使うとはな………」

「ダッテ、コノコオモシロインダモン」

「そうかそうか…… で、そのアリスのお気に入りって言うのは誰なんだい?」

「コノコダヨ」


「どれどれ…」とアリスが指差すモニターを見るや、グリムがニヤけた。


「あぁこの子か。 確か……"帽子屋マッドハッター"の弟くんだったかな?」

「ヘェ、ソウナンダ。 トイウカ、コノコニツイテ ヤケニクワシイネ。ドウシテ?」

「ん?知りたいのかアリス。 なら教えてあげよう。この子はね……」


「僕も気に入ってるんだよ」


「なっ!?」「おー!」


チラッと聞こえたのか驚く2人。対してアリスは……


「ホエー。」

「「「反応薄っ。」」」


思わずコケる3人。だがアリスは気にも留めない。


「……ネラッテルノ、ワタシダケダトオモッタノニ………」


誰にも聞こえないほどの大きさで呟くと本棚から強引に本を取り出し、『偽感情片・好奇心』という一文を消して雑な手つきで本棚へと戻す。

そんなアリスの姿をグリムは苦笑しながら見ていた。


「なんだアリス、お気に入りが他の人にも目を付けられているのが気に食わないのか?」

「……ベツニ。」


グリムの言葉に素っ気なく答えたアリスはふいっと顔を背けると、雪兎ではない誰かを映すモニターを見ていた。

— — ただし、その人間の行動はアリスの頭の中には全くと言っていいほど残っていなかった。





「あはっ、もうつかれたのかな?」


柔らかい陽が差す雪の上で、雪兎は心行くままに兎を虐め倒した。そのせいか、兎はもう抵抗の意思を失っているように見える。流石にもうこの兎では遊べないだろう。


「……あ~きたっ」


子供は気まぐれだ。例え気に入っていたおもちゃでさえも、飽きてしまえば躊躇なく捨ててしまう。ましてや飼っているワケでもない兎など金を払ってまで手にしたおもちゃと比べれば、愛着なんか無いに等しい。

名残惜しい……そんな素振りなど全く見せず、雪兎は近くに落ちていた鋭い木の枝を拾うと、迷いなく兎の脳天へと振り下ろした。


「ばいばい、うさぎさん」


その刹那。またもやパズルのピースが抜き取られるような感覚が体を走り抜ける。だが異変はそれだけではなかった。

突如地面が激しく揺れたかと思うと、まるでガラスが割れていくかのように雪景色が壊されていく。やがて亀裂は雪兎の足下にまで及び、雪兎を底無しの暗闇へと呑み込んで行った。




「……飽~きたっ」


跪くハスを雪兎は無感情に見下ろす。そして近くに落ちていた自分の剣を拾い上げると、ハスに歩み寄る。

能力が暴走しているのだろうか?一歩進むごとにノイズのようなものが走り、残像らしき影が前後に揺れ動く。何がどうあれ、傍目から見ても"異常"であるという事だけは確かだった。


「バイバイ、兎さん」


終始 幼児退行したような口調を貫いていた雪兎。凶刃が振り下ろされるその瞬間まで、ハスは思考を止めなかった。

先刻までは大した事のない素人だったハズの雪兎が、突然異常とまで思えるほどの戦闘能力を持った。

幼児退行した雪兎。能力の暴走。圧倒的な戦闘力……


「テメェは……一体………」


ハスの最後の問い掛けでさえ、雪兎は歪な笑顔でしか答えなかった— —


「絡め取れ、ドールズスレッド《糸伝いに舞い踊れ、哀れな人形よ》。」


艶やかな声が響き渡る。突如響き渡ったその声に、ハスのみならず雪兎までもが困惑したような表情を浮かべ、辺りを見渡す……その時だ。


「うわっ!?」


雪兎が上げた悲鳴に反応してそちらを見るがそこに雪兎の姿はなく、代わりに紫色の長髪を遊ばせながら片手で雪兎を押さえ付けている女性の姿があるのみだった。

驚きつつも懸命にもがく雪兎だったが、まるで糸に絡め取られたかのように身動き一つ出来なかった。

未だに状況が全く掴めていない雪兎やハスと違い、倒れ伏していたレイヴンは驚きの表情を浮かべていた。


「あなたは!?」


レイヴンの声に応えるかのように女性が顔を上げる。その容姿は、まるで色香という言葉そのものを体現したかのような、思わずハッとしてしまう程の美貌だった。


「近衛部隊のみんな、お疲れ様。 あとは私達に任せて頂戴。そう、この……」


「グラズスヘイム"四隊長"に、ね。」


四隊長と名乗った彼女は色っぽく、それでいて冷たく笑うと、ハスと視線を合わせる。ただそれだけで、彼女はハスに『逃げなければ』という本能を自覚させたのである。


「なんだってんだここは!? 怪物のオンパレードじゃねェか!!」


元々高いスペックを有していたハスは、そのまま観客席まで飛び上がる。悲鳴が飛び交う客席を前にハスは手刀を作ると、大きく一薙した。


「邪魔だッどけェェエッ!!」


不可視の刃が観客に向けて放たれる。悲鳴を上げることも忘れ、ただただ人生の幕が閉じるのを待つのみ………

— — しかし。


「ファランクス《邪を滅す神盾》」


突如ハスの目の前に立ちはだかった男が半透明の巨大な盾を創り出す。その盾はネメシス《復讐の刄》に触れると、刄を完璧に消滅させた。


「な!?」 「フッ!!」


空中で驚き戸惑うハスを、男は容赦なく盾で押し出し舞台へと叩き落とす。その凄まじいまでの威力は、生身の体を大理石へとめり込ませるほどだった。

血反吐を吐き、ビクともしないハス。気付けばその周りに三人が集まっていた。


「シュトラーフェ、トドメだ」

「……了解」


シュトラーフェと呼ばれたその女性は、足下にどす黒い血の色をした沼のようなものを発生させる。そこからゆっくりと姿を現したのは、同じく血の色をした槍。

シュトラーフェは片手で槍を二、三回転させると、紫髪の女性に目配せをする。女性は柔らかな笑みで応えると、まるでハスに糸を巻き付けるかのように手先を器用に動かす。それと同期しているのか、ハスが立たされ、同時に両手を広げられる。その姿はイエス・キリストが十字架に磔される場面を連想させた。


「彼の者に制裁を。主の言葉に応えよ、ロンギヌス《神死して刃は血を拒む》」


シュトラーフェは腰を深く落とし、槍を腰溜めに構える。そして未だに意識が朦朧するハスに向かい、死の宣告を下した。


「重要処刑執行対象、ハス・ソラナ。貴様へ制裁を下す。 案ずるな、例えそこが地獄でも、主はお前を導くだろう」


— — その言葉が最後だった。

ハスの微かな呻き声と共に、槍がハスの胸へ深々と突き刺さる。その槍は胸部を容易く貫通し、心臓を破壊すると、命の灯火を吹き消した。





— — 雪兎が目を覚ます。目を開いて真っ先に強い陽の光を直に浴びて目を細めた。


「……俺は……何……して………?」


立ち上がろうとするが、何かが固く絡み付いているせいか全く身動き出来ない。

「クソっ」と小さく悪態を吐くが、もがいてどうにもならないというのならどうでもいい。まずは状況確認からだ。

俺は何をしていた?気付いたら幼い頃の夢を見ていた。それは覚えている。

— — じゃあその間は何が起こっていた?

陽也は?響華は?蓬戯は?ブラッドさん達はどうなった?ナハトもハスも………ハス……?


「そうだ、ハス!!」


俺は確かハスと死闘を繰り広げていたはず……ならばヤツはどこだ?

唯一動く首を動かしてハスを探す。だが、そんなに時間は掛からなかった。ハスはすぐ目の前にいた。三人の人間に囲まれ、まるで十字架に磔られているかのように拘束されており、すぐ側には……荊が巻き付いたどす黒い槍を構えている女性が。そしてその女性は、躊躇なくハスの心臓へと槍を突き立てた。


「ッ!?!?」


血相を変えて慌てふためく雪兎。その反面、ハスを殺した当の本人たちは顔色一つ変えていない。


「……処刑は完了した。シュトラーフェは先に帰投させてもらう」

「え~?シュトラーフェだけ後処理サボるの~?」

「シュトラーフェはサボってなどいない。 一番面倒な役割をこなしたのだ、これくらい妥当だろう」

「ただ槍で一突きするだけの役割が一番面倒ですって?」

「直接命を手にかけるこの役割は、精神的な負担が大きい」

「涼しい顔でやっといてよく言うわよ……」

「それに、ただ処刑執行の補助をするだけのカミラよりは面倒」

「補助だけじゃないわよ!あの男の子抑えるの面倒だったんだから!」

「それでもシュトラーフェに比べれば楽」

「こんのっ……!」

「……では、執行対象の死体は俺が処理しておく。」

「あらっ、気が利くじゃな~い♪ じゃあ、アイゼン。よろしくね」

「よろしく頼む」

「あぁ。」


……平和そうに会話しといてなんちゅー会話してやがんだ……。一語一句、物騒な言葉しか使ってない。というかコイツらは一体……


『『突撃ィ!!!』』


突如、瓦礫で塞がれていた出口から怒声が響き渡る。何事かと思えば、黒い制服に防護服のようなものを着用し、盾や銃を持った人達が雪崩れ込んでくる。しかも、本来 門を破るのに用いられるはずの破城槌まで持ち出して来ていた。

そして一斉に散開し、包囲する。その様はさながら特殊部隊のようだった。

すると隊長格らしき男性が前に進み出て三人に敬礼した。


「四隊長の御三方!お疲れ様ですッ!!」

「えぇ、あなた達もね。 ところで闘技場に来ていた観客はどうなったの?」

「はッ!現在避難誘導を開始しています! もうすぐ完了するかと!!」

「そう。あなた達 守国兵の手際の良さに感謝ね。 それじゃ、あなたも持ち場に戻りなさい」

「了解しましたッ!!」


四隊長の登場、ハスの処刑、守国兵の突入……目まぐるしく変わる状況に辺りは騒然とするのみだったが、それでも『助かった』という安堵だけは、その場の皆が確かに感じていた。実際、雪兎も安心のせいか肩がどっと重くなったように感じる。


「終わったんだな……」


雪兎はホッと息を吐く。何はともあれ、ハスとの戦いは終わった。さて、これからどうしたものか……あぁそういえばこれって"夢の中の出来事"として見れば、まだ序盤なんだよな。序盤でこんな有り様じゃ、この後一体どうなっちまうんだ?というか俺らが見てきた夢の内容とはだいぶ変わってるが………

あれ?そういや今は感情を抱く事に違和感を感じないな……ハスと戦っている間は、何故か心の底から感情を表す事が出来なかったのに。今頃になって何故………


— — まぁ、今はどうでもいいか。


「あぁそうそう、レイヴン?」

「はい、なんでしょうかカミラさま」

「あなたが庇ってた子……あの子がもしかして例の"適合者"なの?」

「? えぇ、あのかたたちがそうですが……よんたいちょうのみなさまがじきじきにびこうしていましたよね?さいしょからわかっていたのでは?」

「いえ、分かってはいたのだけれど……ふふ、そう…… たった一回だけ命を掛けて剣を交えただけなのに、ここまで成長するとはね。 この子達が行く先を見てみたくなったわ♪」


あぁ……レイヴン達が何か話してるな……一体何の話を……して……た……ん………

突然、頭がぐらぁっと平衡感覚を失う。だがその感覚に抗う気力も起きず、その揺れに身を任せて崩れ落ちる。

何事かと驚きの表情を浮かべながら駆け寄るレイヴン達。だが、彼女らが雪兎を手で支える前に、彼の意識は途切れていた。





— — ズキンっと鋭い頭痛が雪兎を襲い、嫌々という感じに目を開ける。


「いってぇ…… なんなんだよ畜生……」


頭を抑えながらむくりと上体を起こす。

はてさてここはどこなのか……あぁ、そういや昨日はやけにリアルな夢を見たんだっけ。

いつも見ている異世界転生の夢で、何故か陽也達がいた。そして闘技大会に出場して、突然狂人じみた男が乱入して来て……あはは、今日は面白いネタばっかだ。これを聞いたら、あいつら腰を抜かすに違いない。あぁ、面白い夢だったなぁ………


「………バカか俺は。」


ポフっと妙に柔らかい枕に頭を下す。視界に映る天井は梁……ではなく、見たこともないほど豪華な装飾に飾られた純白と金の天井。

雪兎が体を預けているベットは上品な低反発で、枕は頭が易々と埋もれてしまう程に柔らかい羽毛枕。ついでに布団も羽毛製。

金持ちじゃなきゃ一度も体験出来ないであろうこの状況を、現在進行形で金欠な高校生が体験出来る。こんなのちゃんちゃらおかしい。

しかしこんなありえないような状況でさえ簡単に説明出来てしまう魔法の言葉がある。


— — そう、夢だ。


故に雪兎はこう呟くのだった。


「現実見ようぜ、俺。」

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