第238話 斎藤義龍3

「アアア、モウ、アソブノハ、ヤメダ」

そう言うと義龍は窓から飛び出す。


ニルに乗って義龍を追いかけるが、義龍は逃げ回りながら姿を変えていく。


背中から蝙蝠の様な羽が生えて、背中の上部から竜の顔が突き出す、腰から毛むくじゃらの足が現れ、次第に竜の形になりながら巨大化していく。


歪な竜だ。


全身が黒く羊の角、胸に義龍の顔があり、身体は人間、毛むくじゃらの4本の足。


「ギガガガガガ、シネエエエエエ!!!」

大きな口を開けて吠えると鋭い牙が光る。


義龍はニルと同じぐらいの大きさになっていた。


そして速い!!


こりゃ道三も負ける訳だ。


義龍は狡猾でニルの後ろから襲い掛かり、帰蝶に噛みつこうとする。


帰蝶が後ろを向き、左手で俺の服を掴み、右手に持った倶利伽羅剣で迎撃すると、今度はニルの下からニルの腹に噛みつこうとしてきた。


ニルはギリギリ躱す。


「拙いな、義龍の方が速い」

「そうだね。一瞬でも動きを止められないかなぁ」

「小天狗達を呼ぼう」

俺は小天狗達を召喚した。


「なにー」

「ぎゃっ!なんだこいつー」

「怖いよー」

小天狗達が出現すると、義龍は小天狗達を食べようと襲い掛かる。


小天狗達は飛行速度が遅い為恰好の的だ。今度は義龍から小天狗を庇うので精一杯になってしまった。


「ダメだこりや! 小天狗達は送還しよう」

「そうだね」


小天狗は10人いる。それをニルだけで庇うのは、限界になっていた。


やばっ!!


送還しようと思った隙に天十が義龍に喰われそうだ。間に合わない。


「がはは、間に合ったようだな」

すんでの所でスレイプニルに乗った新免無二が空を駆けて来て、事なきを得た。


そして無事小天狗達は送還出来たが、事態はあまりに変わらない。無二に背後から噛みつこうとするのを防ぎ、小天狗から無二に標的が替わっただけだ。


まあ、10人守るよりは1人を守る方がまだ増しだけどね。


「佐助!五右衛門!果心居士! なんとかならないか?」


「ほっほっほ、我らでは厳しいが、玄以の真言を試してみたらどうかな?」


「成る程、果心居士、玄以に頼んで来てくれ」

「ほっほっほ、承知し──」


義龍が果心居士の首を後ろから喰おうとして、果心居士は転移で逃げた。


取り敢えず、次の手も打っておこう。


蜻蛉トンボ!!」


蜻蛉トンボを召喚した。

「参上してたデス」


速度は義龍より蜻蛉トンボの方が速かった。しかし、蜻蛉トンボが義龍の後ろに回り首に噛みついたが、ダメージは与えられない。


その内、玄以が窓際に立ち、義龍を注視して印を結び、真言を唱えた。


「ノウマク・サラバ・タタギャティ・ビャク・サラバ・ボッケイ・ビャク・サラバ・タタラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキ・ギャキ・サラバ・ビギナン・ウンタラタ・カンマ………」


義龍が苦痛の表情で仰け反った。


「やったね!」

そう言うと帰蝶はニルから義龍に飛び移る。


帰蝶の姿は一瞬の内に白い大蛇に変わり、義龍に巻き付いた。そして口に加えた倶利伽羅剣で義龍の首を刎ねた。


「グギャアアアアアアアア!!!」


その後、帰蝶は人間に戻り、義龍の斜め下に駆け付けたニルに飛び移る。


落下する義龍を俺は草薙の剣で斬り上げて左右に両断すると、無二がはスレイプニルで駆け抜け癬丸で上下に斬り払った。


十文字に斬ったのだ。


「弟達の敵は取ったわ」

帰蝶は落下しながら消えていく義龍を睨みながら、涙を浮かべた。


眼下で兵士達と戦っていたゴブリンの姿も消えていた。

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