第236話 斎藤義龍1
俺達は果心居士の転移の魔法で、稲葉山城の天守閣に転移した。
そこは魔界の様に変貌していた。
柱の位置や天井の高さ、部屋の広さはそのままだが、それぞれが赤と黒の生物の身体が脈を打つかの様に蠢いていた。
窓から見える景色で辛うじて、ここが天守閣だと分かる。
奥には禍々しい椅子に座った斎藤義龍と跪く男がいた。
「ん? 何者だ! ほほう、父上と岸信周、信房か。後は誰だ?」
「ふん、義龍の振りをするな!」
斎藤道三は義龍を睨む。
「俺は織田信長だ」
俺は平然と言った。
「帰蝶よ。この顔を忘れたのかしら」
帰蝶も落ち着いた口調で言う。
「信長あああああああああああああああ! 貴様が信長かああああああ!」
義龍が急に怒りを顕にした。
「あら、アタイの事は無視するのね」
帰蝶は無表情だ。
「くくく、信長と帰蝶。貴様らがいた所為で、俺がどれ程苦悩したことか分かるまい。長男の俺が家督を継げると思っていたのに、よりによって父上が赤の他人の貴様に家督を譲ると言い出した」
「だからぁ! 義龍の振りをするなと言っておろう!」
道三は怒鳴り刀を抜いた。
「この顔が、業病が、悪いのかぁ! だから家督を譲れなかったのかぁ!」
義龍は着けていた仮面を投げ捨てて、崩れた顔で道三を睨んだ。
「もう、演技は止めろ。反吐が出る! いいか、貴様は武家の慣習を知らん様だが、庶長子は家督継承順位は低い。正室の子である孫四郎、喜平次、利治の方が順位が高い、元々家督継承が出来ない事など、聡明な義龍が知らん訳なかろう。業病とは何の関係もない。義龍はそんな事望んでもいなかった」
「だ、だったら何で信長なんだ!」
「貴様には関係あるまい! 正室の娘である帰蝶を正室と迎えた、信長の将来性を見込んでの事だ。それに長井道利に騙されて土岐頼芸の子だと思った義龍は、儂の事を父上と呼ばなくなったはずだ」
「くくく、元美濃国守護の土岐頼芸の子なら俺が美濃の守護になってもおかしくないであろう」
「馬鹿を言うな。義龍は儂の子だ! 母・深芳野は頼芸の側室だったが、儂の側室となってから義龍を懐妊した期間が短い事が証拠だと言われたのであろうが。………はぁ、こんな事ここで言いたくないが、深芳野は長い間頼芸から夜伽に呼ばれていない。そして儂と関係していたのだ。これは儂の家臣の間では周知の事実だ」
「え、そうなの?」
帰蝶が声を上げたので、俺は帰蝶の口を塞いだ。
「今は黙ってて」
俺が帰蝶に言うと、帰蝶はうんうん頷く。
「嘘だぁ! 俺が業病だから家督継承出来なかった。そして俺は土岐頼芸の子だ」
「はぁ、仮に土岐頼芸の子なら斎藤家の家督継承出来んだろう。そして俺の子なら業病以前に家督継承の順位は低い。貴様の言う事は矛盾ばかりだ。そんな低脳は義龍じゃない。義龍は聡明な子だった。義龍をどこにやった。殺したのかぁ!」
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、くくく、くははははははははははは。死ね死ね死ねええ!」
ズズズと音がして、義龍が急激に猫背になり背中が膨らみ、二本の黒い毛の生えた太い腕が飛び出した。
そして、ジャンプし道三に襲い掛かり、背中から生えた腕の爪が道三の顔を払う。
道三は唖然として硬直していた。
俺は飛び出そうとしたが、既に上泉信綱が道三の前にいて義龍の腕を受け流した。
「ふむ、悪魔は頭に槍が刺さっても死なないな」
上泉信綱が呟く。
義龍の頭に槍が刺さっていた。
いつの間にか上泉信綱が槍を突き刺していたらしい、義龍はニヤリと笑って槍を引き抜いてジャンプし飛び退く
「尚光! コイツらを殺せ」
義龍が跪いていた男に言うと、男は立ち上がり振り向いた。
赤い瞳の男。
「竹腰尚光?」
岸信周が呟く。
「やれやれ、父上から『コイツら』になったか。上泉殿、感謝する」
道三も刀を構えた。
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