第231話 VS美濃軍2

信長の小姓と近臣達が4隊に別れて、前後左右あらゆる方向から、その機動力と戦闘力を活かして奇襲を掛けて美濃軍を翻弄した。


奇襲と言っても攻撃したら、直ぐに引き揚げる為反撃も出来ない。


しかも、進軍時のウィークポイントを巧みについてくるのだ。


大軍の進軍だ、全員同じ速度で進めない、体力がない者や体調が悪い者は遅れがちになる。


また、どうしても縦長の隊列で移動する事になるのだが、人数が多い箇所と少ない箇所が出来てしまう。


そして大軍の人員は精強な武将だけではない。兵糧を運ぶ者や近隣の村から急遽掻き集められた者もいて、錬度にムラがあるのだ。


そんな状況を上空から確認し、的確に弱い箇所を攻撃し、反撃される前に去っていく。


たった40人の者達にあしらわれ右往左往し、進軍は思う様に進まない美濃軍。


奇襲されれば放って置くわけにもいかず、都度進軍を止め、または速度を遅くする必要がある。


「随分時間を稼がせて貰って、準備は整いました。そろそろ攻撃しても良い頃合いです」

竹中重元が内藤興盛に言う。


「良し、ひと当てするか。出撃だ!」

太鼓の音がなり、織田軍の4千人の兵が出撃した。残り千人は「釣り野伏せ」の伏兵として隠れている。


織田軍の進軍の速度は速い。全員軽装備の常備兵だ。訓練も行き届いている。


美濃軍が察知し迎撃しようとして、今までのいくさと同じ感覚で陣を敷こうとしているところに、織田軍は対峙せずそのまま突撃した。


美濃軍の兵達が混乱する中、織田軍は縦横無尽に暴れまくる。5倍の兵数がいても慌てて戸惑う者達は戦闘にならない。


「くぅ、信長の野郎はいくさの礼儀も知らんのかあああああ!」

日根野弘就の叫びが聞こえた。


「早く立て直せ! 数は此方の方が多いのだ。落ち着いて反撃するのだあああ!」

長井道利の必死の叫びに少しづつ体制が立て直ってきた頃に………。


「全軍退却!」

内藤興盛の号令で、退却の太鼓が鳴る。これ以上はない絶妙のタイミングだ。最小の損害で織田織田は退却した。


「くそおおお! 追ええええ! 逃すなぁあああああああああ!」

長井道利の号令で追撃の体制になり、織田軍を追う美濃軍。


織田軍の機動力より劣る美濃軍は次第に離されていく。


そして織田軍が通り過ぎた後に数門の大砲が設置してあった。


大砲の砲弾は徹甲弾、鉄の塊が飛ぶタイプだ。黒色火薬は炸薬に用いるには安定性が低い為、まだ着弾時に爆発したり炸裂する榴弾は実用化していない。


従って本来は城門や城壁、城その物など建造物を破壊する為の物だが、「釣り野伏せ」によって釣られて追って来た美濃軍は縦に並んでいる。


そこに大砲を人に向かって発射した。先頭の人から縦に並んだ敵兵を、二人目、三人目………と、砲弾は一瞬で人体を破壊していく。


隣を走っていた仲間が一瞬の内に肉塊に変わる、ある者は上半身を喪失する。被弾した肉体の箇所が破壊されていき死屍累々の景色が現れ、阿鼻叫喚の坩堝と化していた。


1発の砲弾で被弾する人数は百人に満たない。その中で当たり所が悪く即死する人数は十人程度であろう。


しかし、大砲はその致死率以上の恐怖を美濃軍の兵に与えた。


「うあああああああ!!!」

大声を上げて思わぬ方向に走り出す兵士。


「嫌だああああ!」

「助けてくれええええ!」

泣き叫ぶ兵士達。


縦に並んでいると危険な事を悟って散開し始める兵士も出て来た。


それも竹中重元の狙いの一つだ。


「鉄砲隊!今だ撃てええええ!」

内藤興盛が合図する。


「釣り野伏」の伏兵の替わりに用意したていたのは、大砲だけではない。寧ろ本命は鉄砲隊だ


左右前方から5百人づつの鉄砲隊が現れて、美濃軍の兵士達に一斉射撃を行った。

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