第230話 VS美濃軍1

「まだぶつかる迄に時間がありますので、多少小細工もしておきましょう」

そう言って竹中重元が俺を見た。


「ん、なんだ?」


「信長様、木下藤吉郎殿と果心居士様をお借りしますよ」


「あ、ああ。此度の戦術は重元に任せたんだ。好きに使うが良い。果心居士、藤吉郎、重元の要求に答えてやれ」


「ほっほっほ、承知したぞ」

果心居士が現れた。久しぶりの登場だな。


「御意」

木下藤吉郎が俺に頭を下げて、重元のところに行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


稲葉山城からはカーペットバイパーの獣人である日根野弘就が、1万の大軍を連れて来ていた。それを迎えに行った長井道利と米田城主・肥田忠政。


肥田忠政は蛇の獣人(リンカルス)だ。


リンカルスは別名ドクハキコブラと呼ばれ、防御行動として吐く毒は敵の眼を狙って3m程度まで飛び、眼に入ると激痛を感じ、最悪の場合は失明に至る。毒は神経毒と細胞毒で、 咬まれると細胞毒の作用で、咬症部位を中心とした皮膚の広範囲な壊死を生じることがある。


「日根野殿、此度は援軍有り難う。出陣西濃の戦い以来だな」


「ああ。今回は大軍で挟撃出来る。俺達が織田軍の後ろから攻めれば、岸も城から出撃するだろう」


「うむ、その点は問題ない。予てからの計画通りだ。堂洞城が落とされる前に急ごう」


「そうだな」


その時、鉄砲の音がした。


「敵襲です!!!」

と見張りの兵の声がした。


「なに! 何人だ! 直ぐに迎撃しろ」

大軍の奇襲はあり得ない。事前に察知出来なかったところを見ると少数のはずだ。


そんな考えが長井道利の頭をよぎった。


「十人程度の様です!」


「やはりな。十人程度なら直ぐに蹴散らせ」


「はい! 承知しました」

長井道利の近衆がそう言った駆けていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


近臣達の中から比較的年齢の高い10人がスレイプニルに乗って奇襲をしていた。


柴田勝家をリーダーとした、織田信広、明智光秀、森可成、金森長近、河尻秀隆、中川重政、佐久間信盛、前田利玄、安藤定治の10人だ。


合流した直後で、戦闘体制が整っていない、油断しているところへの奇襲だ。慌てふためく敵兵に対し縦横無尽に暴れまわる。


「ははは、撫で斬りだな。慌ててやがる」

安藤定治が誰に話し掛けるでもなく声にした。


「安藤殿、油断されるなよ」

織田信広が定治に声を掛ける。


「ああ、大丈夫だ」

定治はそう言って敵兵を斬り倒した。


「む、敵兵が集まって来たぞ」

河尻秀隆が警戒の声をあげた。


「そろそろ潮時ですな」

明智光秀が柴田勝家を見た。


その時、遠くの方で「兵糧が焼かれたぞおおお!!」と叫び声が聞こえた。


「うむ、上手くいったようだ。引き揚げるぞ!」

柴田勝家はニヤリと笑って声をあげた。


柴田勝家の号令で引き揚げる10人。


最後尾に位置取った前田利玄と森可成が振り返り鉄砲を構えた。


「殿をします」

そう言って前田利玄は、追っ手の先頭を走る敵兵の額を撃ち抜いた。


「同じく」

森可成も鉄砲で追っ手を撃つ。


「俺も手伝おう」

金森長近が戻って来て鉄砲を構えた。


馬に乗って追って来た敵兵を何人か撃ち殺すと3人は逃げ出した。普通の馬ではスレイプニルの足には追い付けない。


「このスレイプニルって言う馬は凄いなぁ、速いし空も飛べるなんて、武田信玄の飛行騎馬隊に匹敵するな。この馬を俺に貰えないかなぁ」

安藤定治は近臣に加わったばかりなので、訓練はしていたが、戦場でスレイプニルに乗るのは初めてだった。


「無理だな。スレイプニルは信長様の愛馬ニル様の子供達で、全て信長様の物。もっとも仮に下賜していただいても、生駒の者がいないと世話もできまい」

中川重政が安藤定治に答えた。


「そ、そうか。生駒家の者も一緒に来て貰えねえかな?」


「それこそ無理だろう。生駒家の者は信長様以外に臣従しない」


「はぁ、無理かぁ。そして鉄砲の威力が凄まじい。それから馬に乗りながら鉄砲を撃つなんて信じられないぞ」

安藤定治は感心する事頻りであった。


「安藤殿も出来る様になって貰わないと、近臣として活動出来ないぞ」

河尻秀隆が会話に混ざってきた。


「はぁ、信長様の馬廻衆は要求が高過ぎるよ」

溜め息をつく安藤定治。


「「そうなんだよなぁ」」

激しく同意する明智光秀と佐久間信盛だった。


「まあ、その内出来る様になります。兎に角目の前の課題を少しづつこなしていくんですよ」

追い付いて来た前田利玄が慰める。

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