第232話 VS美濃軍3

鉄砲の弾丸が横殴りの雨の様に美濃軍の兵士に降り注ぐ。


織田軍の鉄砲は連射こそ出来ないが、後装式のボルトアクションだ。


鉄砲隊は毎日訓練し熟練しているので1分間で10発は撃てるし有効射程距離は200mだ。


しかも銃口はライフリング加工をしており、弾丸もフルメタルジャケット、弾頭は鉛を銅でコーティングしており、貫通力が増している。


この世界の火縄銃は前装式の鉛玉。通常は1分間に1発。どんなに熟練しても1分間に3発撃てれば良い方で、有効射程距離は50m~100m。しかも鉛玉は銃口にカーボンが溜まり易く数発に1回掃除が必要だ。


で、何を言いたいかと言うと。遠距離から狙撃出来るし、人体を貫通し後ろにいる者も被弾する。


一方、美濃軍は火縄銃しか見た事がないので、この距離なら大丈夫。これを盾にすれば大丈夫。そう思っている美濃軍の兵は次々と撃たれていった。


「か、数で押しまくれえええ!」

日根野弘就が叫ぶ。


「堂洞城まで押し切れば岸信周と挟撃出来る。何としても押し切るんだ。頑張れ」

長井道利も兵を鼓舞する。


「あ"ぁ?」

日根野弘就が唸った。


「どうした?」


「肥田忠政の野郎! 逃げやがったぁ!」

日根野弘就は肥田忠政と兵達が逃げて行くのを見ていた。


「ちぃ、腰抜け野郎がぁ! 肥田忠政の兵は2千人だ。ちょっと痛いなぁ。しかし、数はまだまだ俺達の方が多い。ここは踏ん張らねば、お前ら立て直せ。行け!」


「お前らも行け! 押し潰せ!」

日根野弘就と長井道利は、各自の馬廻衆を出撃させて体制を立て直した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「退却!」


内藤興盛は美濃軍の状況を見て透かさず退却を指示した。神憑りとも言えるタイミング。


これからという矢先の退却に美濃軍の兵達は気勢を殺がれた。


「ほっほっほ、ここまでは上手くいったみたいだな」

果心居士が現れて大砲をしまう。


「残りは1万5千人ぐらい。いよいよ大詰めですね。最後の仕掛けが楽しみです」

竹中重元がニヤリと笑う。


「ほっほっほ、任せておきなさい」

そう言って果心居士は消えた。


「果心居士殿、頼みますよ」

竹中重元がそう言うと、果心居士の手だけが現れて、手を振って消えた。


「全く、信長様の家臣達には驚かされるな」

内藤興盛が竹中重元に言う。


「ええ、色々な方がいて、それぞれ信じられない実力です。作戦が湯水の様に涌き出ますよ」


「ははは、重元殿もその1人ですぞ」


「何を仰いますか、私などまだまだ。早く勘助殿の境地になりたいものです。今回の作戦は興盛殿がいないと成り立ちませんでした。そう言う興盛殿がその1人ですね」


「いやいや、今回は用兵のみだったから楽させて貰ったよ。あっはっは」


織田軍の退却は整然として素早かった。あっという間に駆け出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ちっ、まただ。あいつら、良いときに逃げやがる」

日根野弘就が舌打ちをして長井道利を見た。


「余程優秀な指揮官がいるな。引き際が良い、もう少し時間があれば一太刀浴びせられたのに」


「追いかけろぉ! 追撃だああああ!」


美濃軍はまた織田軍を追いかけるが、織田軍の機動力は高く、見る見るうちに引き離された。


「俺達は堂洞城に行けば良いんだ」

「そうだ! 堂洞城に急げ!」

長井道利の言葉に日根野弘就が叫ぶ。

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