第192話 森部の戦い4

「もう、逃げなくて良いな。がはは」

新免無二と剣豪達が振り向いた。


「全開でも大丈夫ッス、よっと」

池田恒興が水平に刀を薙ぐと、敵兵が上下に両断された。


剣豪達が殺気や威圧を全開で斎藤軍に向かって行った。


「アネサン、モウ良イノー」

「がんがん行ってもええやわ」


「レベ上ゲ、サイコー」

「殺ッタルデヨー」

「ウヒョー」

元倭寇の許二達も鶴姫の言葉を聞いて、斎藤軍に飛び込んでいった。


伏兵は完全な左右からでは無く、左右後方からの襲撃のため、単純に後ろにも逃げられないし、襲撃してきた相手の人数も分からずパニックを起こして右往左往する斎藤軍。


そんな斎藤軍の中で1人万丈の気を吐く「首取り足立」こと、巨漢の足立六兵衛。


「うがぁああああ! さあ、来い!」

斧を振り回し織田軍の兵を寄せ付けず、しかも織田軍の兵は既に数名足立六兵衛に倒されていた。


今も5人で囲んで何とか押さえている状況だ。


左右後方から襲撃した織田軍の中には、武将として兵を率いる近臣達も混ざっている。その近臣の中で、足立六兵衛に挑む者がいた。


「退け退け!」

部下の兵士達を押し退け現れた前田利家が、前田慶次の朱槍を真似た長い朱槍を持って現れた。


服も斑猫ハンミョウの派手で硬い前翅を取り付けている。慶次と同じだ。


「天下御免の傾奇者、前田利家参上!」


「としいえ? 知らんなぁ。慶次じゃねえのか。はぁ、………物真似小僧、相手にとって不足はあるが、殺してやるから掛かって来い!!」

足立六兵衛は溜息をついて斧を構えた。


利家は槍を両手で持ち、半身になり力を抜いて構えた。足立六兵衛の挑発に無言で答え、涼しい目で六兵衛を見て口に笑みを浮かべた。


「ほう、ちったぁやるみたいだな」

足立六兵衛も警戒し本腰を入れた様だ。


利家は前後に軽くステップし始めた。この世界の戦いではステップを踏む戦士はいない。殆どは足払いや投げを警戒しベタ足だ。


利家はジャーマンシェパードの犬の獣人。その種族固有の俊敏性を生かした戦い方だ。


「ふむ、チョロチョロしやがって。さっさと来やがれ」

足立六兵衛が挑発する。


利家は挑発に応じて飛び込んだ。六兵衛は「しめた」と言う顔で目を輝かせニヤリと笑う。六兵衛は利家の突き込む槍を斧でへし折ろうとしていたのだ。


しかし、利家は飛び込んだふり・・をして、前に出ていなかった。フェイントだ。


「しまったぁ」と一瞬顔を歪める六兵衛。振り下ろした斧は途中で止める事が出来ず空を切る。


利家は「してやったり」と笑みを浮かべて、六兵衛の振り下ろした右腕に槍を突き刺し、素早く抜いた。


「つぅ…」

六兵衛は斧を落とすが素早く左手で拾う。が、時既に遅し。利家の2撃目の突きが六兵衛の心臓を貫いていた。


「があああああああ!!!」

前のめりで倒れる六兵衛。しかし、六兵衛はまだ諦めていなかった。大口を開けその牙で利家の首を狙って飛び掛かってきた。


だが、利家は息の根を止めるまで気を抜かず、既に槍を引いて身構えていた。


六兵衛はその利家を見た。

「天晴れ………、がはっ……」


利家は六兵衛の喉を突き刺し横に躱した。


そして六兵衛の死を確認すると、倒れ落ちた六兵衛の首を脇差しで落とした。


「やったな。見事な突き技だ」

富田勢源が利家の後ろから声を掛けた。


「がはは、今の突き技に名を付けてやろう。そうだな………、『槍で3回突き』なんてどうだ。悪くないだろう」


「え?」


「可笑しいッスよ。無二さん、ネーミングセンスが壊滅的ッスね」

池田恒興が新免無二の言葉を否定してくれて、ホッとする利家だった。


「『神速三段突き』にしておきな」

と富田勢源が言って『神速三段突き』に決まったのだが、無二は納得がいってない。


「槍で突いたのが分からねえよなぁ。『神速三回槍で突き』がよくねえか? がはは」

と小声で恒興に言う無二。


「ぶー。三点ッスね」

「どこが三点なんだよぉ! がはは」

と言いながら歩み去る恒興と無二。


「勢源さん、やっぱり物真似はカッコ悪いですかね?」

利家が富田勢源に尋ねた。


「いや、初めは皆真似から入るものだ。そのうち個性をだせば良い。それも一種の『守破離しゅはり』だよ」

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