第191話 森部の戦い3

「無二さーん」

恒興が新免無二を見つけ、敵の斬撃を摺り抜けながら駆け寄る。


新免無二は振り向きざまに十手を恒興に叩き込んだ。


「危ないッスね」

恒興は抜刀せず、鞘で十手を受ける。


「がはは、腕を上げたな」

ニヤリと笑う無二。


「遊んでないで退却ッスよ」

恒興は、左手の親指で退却中の織田軍を指差し、振り返り織田軍の方向に走り出す。


「がはは、もう退却か。早くねえか?」

無二は恒興の横に並んで走り、迫る敵を十手で叩き飛ばす。


「何言ってるッスか、退却の為の出撃ッスよ」

恒興は抜刀し追いかけてくる敵を斬り倒して進む。


「ああ、ウザいッスね。」

恒興は大きく息を吸い込んだ。


「あ! おい、止め──」

無二の言葉は途中で遮られた。


「あああああああああ!!!」

恒興が大声を上げて殺気を周りに放った。


周りの敵が恐怖で硬直する。


「さあ、急ぐッス」

恒興は走り出す。


「あ~あ、殺し合えなくなっちまったじゃねえか。がはは」

無二も走り出した。


「殺しまくるの間違いじゃないッスか?」

恒興は白けた顔で言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ちぃ、鶴翼で仕留められなかったか。だが、逃さんぞぉ! 追ええええええええ! 逃がすなよおおおおお!」

斎藤軍の指令官である長井衛安が大声で命令し、自らも早足で進む。


逃げる織田軍。追う斎藤軍。


「そろそろだな」

ニヤリと笑う木下藤吉郎。


追う斎藤軍の左右両側から織田軍の伏兵が突然現れた。


竹中重元が提案し訓練してきた戦法「釣り野伏せ」だ。


部隊を3つに分けて、2隊を伏兵として左右で待機しておく。残った1隊が撤退を装い、伏兵が潜む場所に誘導するのだ。


誘導された敵が伏兵に左右から攻撃されたタイミングで、撤退を装っていた兵が反転する事で、3方向から包囲攻撃する戦法だ。


史実では九州の島津氏が得意としていた、「釣り野伏せ」で九州を席巻したと言っても過言じゃない。


もっともこの戦法をする為には、相当錬度が高くないと上手くいかないので、訓練や経験も含めて精強な兵士達と卓越した指揮だったのだろう。


俺の兵士や武将達は、兵農分離で明けても暮れても訓練をしてるからね。錬度も高くなるってもんだ。


そして、この度開発したカモフラージュ用の布も素晴らしい、忍者の技術を発展させて周囲に溶け込む様に隠れていられるので、森や岩場など遮蔽物が多いところじゃなくても隠れていられる。


今回はその実地試験も兼ねていた。見通しの良い場所でも敵に気付かれないか。斎藤軍はまんまと引っ掛かったね。


何も無いと思って気にもしてないところから、いきなり敵兵が現れて物凄く驚いた様だ。ビックリ大成功だ。


「釣り野伏せ」は少ない兵で、多くの敵も倒せるとの事だったので、態々人数も少なくして、2千の兵で6千の兵に試してみた。どうやら3倍の敵でも大丈夫の様だ。


この戦法を使う事が分かると、敵は疑心暗鬼になって、俺達が撤退をしても不用意に追えなくなるメリットもある。


さて、蹂躙しますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る