第185話 井伊直親

臨済宗龍潭寺りゅうたんじの住職である南渓瑞聞なんけいずいもんが、同じ臨済宗の禅僧の友人である清洲城にいる3人の僧侶の元に訪れた。


南渓瑞聞は遠江国井伊谷城主であった井伊直平の三男であり、直平の次男・直満の子直親を南渓瑞聞と同じ臨済宗である信濃国伊奈郡の松源寺に匿っていた。


何故匿っていたかと言うと、直平の嫡男・直宗はいくさで亡くなり、次男である直満は今川家の家老である小野政直の讒言により今川義元に誅殺された事で、次の誅殺対象になる事を恐れたからだ。


しかし、先日あった織田信長の三河攻略から今川義元が迎撃されたいくさを見た井伊直平は、今川家は将来遠江国も奪われるであろう事を予測し、井伊家存続の為、孫である直親を織田家の家臣にして貰う事を望んだのだ。


井伊家自体は長男直宗の嫡男・直盛が井伊家の当主となり井伊谷を治めているが、織田家と今川が遠江国でいくさになった場合、どちらが勝っても井伊家の血脈が残る苦肉の策だ。


快川紹喜かいせんじょうきからその事を聞いた俺は、南渓瑞聞の願いを快諾。


井伊直親を織田家で召し抱える事にした。


井伊直親20歳。コヨーテの獣人。

大人しく知的な雰囲気がある男だ。いくさ働きは未知数だ。近臣に入れて様子を見ようと思う。


井伊直親には二人の女性が同行していた。一人は妻の「ひよ」。もう一人は直盛の娘で「次郎法師」と言う女僧。「次郎法師」は織田家に来て、帰蝶や鶴姫・ゆず・吉乃の勇姿を見て「直虎」と名乗り直親と共に戦う事を選択した。


史実の女城主井伊直虎だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「信長様、ちょっと良いかしら」

珍しく吉乃が俺の執務室に入って来た。


執務室には俺と帰蝶と鶴姫がいる。


べ、別にエッチな事はしてないよ。

………してないさ。

………俺は・・してない。


帰蝶がさぁ、直ぐに抱き付いて舌を使って来るんだよぉ。


そうすると鶴姫も張り合って、………ね。


おっと、こんな事を考えてる場合じゃない。吉乃の事だ。


「おう、どうした?」


吉乃はいつも生駒家の使用人出身の家臣達を統括して、清洲城で飼っている馬やスレイプニル達、ユニコーンの世話をしている。


夜は清洲城に帰って来て一緒に夕食を食べて過ごすが、日中執務室に来る事は珍しい。


「実はねぇ………」

帰蝶と鶴姫を見て顔を伏せる吉乃。


帰蝶と鶴姫何事かと不安な顔で無言で吉乃を見ている。


二人に聞かせたくないのかと察して。

「帰蝶、鶴姫、席を外してくれ」

と俺が言うと。


「あ、いや、良いの。二人が居ても問題は無いわ。ちょっと言い難かっただけよ」

吉乃は顔を上げて真剣な眼で俺を見た。


可愛い………。

やっぱり吉乃は可愛いよなぁ。


なんて思わずニヤケてしまったらしい。


「………真面目に聞いてね」


「はい………」


静まる室内、無音の一瞬の後、帰蝶と鶴姫が唾を飲む音が聞こえた。


「………赤ちゃんが出来たのよ」


「おお! 本当か? でかした」

俺が吉乃を抱き締めようとしたら、帰蝶と鶴姫が先に吉乃を抱き締めた。


「おめでとう! やったね」

「先を越されてしもた。でも、おめでとうちゅうわけや」


しまった、出遅れた。


俺は帰蝶と鶴姫の後ろから吉乃を抱き締めた。


「えへ、何だかごめんね」


「ん~ん、謝る事じゃ無いわ。お目出度い事だから良いのよ」

帰蝶の言葉を聞いて、妻達が仲良しで良かったと思う俺だった。


戦国時代は家督継承の骨肉の争いが多いが、その心配はしなくて良さそうだ。


「ねぇ、アタイが一番エッチしてるよね」

帰蝶が変な事を言い出した。


「そ、そうだね」


「もっと、いっぱいエッチしよう。アタイも赤ちゃんが欲しいなぁ」

帰蝶が俺に抱き付き俺の唇をペロッと舐めたです


「お、おう」


「そんな事ダメやわ。オタイもエッチしたいのやわ」

俺を後ろから抱き締めて、耳朶を甘噛みする鶴姫。


「私の順番を帰蝶に譲っても良いわよ」

と吉乃が言い出した。


「そんなのダメやわ。公平にしとっていたぁ」

「それは、ダメだよぉ!」

と叫ぶ鶴姫と俺。


吉乃はそんな俺を見て、ちょっと嬉しそうだった。

可愛い………。

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