第146話 村木砦の戦い4

織田信行と林秀貞・通具みちともの兄弟は守備兵を若干残して、急いで何とか400人の兵をかき集め出陣の準備をした。


そして、平手政秀の兵が末森城下を通り過ぎるのを待って志賀城に出陣した。


しかし、荒子城の前田利久、松葉城の織田伊賀守、深田城の青山信昌と合流した内藤興盛、安藤守就の大軍勢とばったり会ってしまう。


「信行殿、何処へ行かれる? 村木は逆方向ですぞ」

織田伊賀守呑気な声で信行に尋ねる。


「お、おう。そうであった逆方向だな。はっはっは」

から笑いの信行。


「はっはっは、信行殿もうっかり者ですな」

呑気な織田伊賀守と不審がる顔で信行を見る内藤興盛達と、不思議な物を見る様な顔の安藤守就。


信行は仕方なく内藤興盛達の軍に合流した。


「信行様、このまま村木に向かえば今川義元殿に見限られますぞ」

小声で信行に耳打ちする林秀貞。


「分かっておる。な、何とかしないと……」


「しかし、これ程の軍勢を用意出来るとは、信長も侮れませんな………」


「はぅ、こ、これほどとは………」

信行は信長軍の大軍勢を目にして怖じけずき、すっかり信長と戦う気力が萎えていた。


「興盛殿、我はちょっと忘れ物をしたので、末森城に戻る。後から村木向かうので、先に行っててくれ」

信行は内藤興盛にそう言うと、そそくさと兵を引き上げようとする。


その後ろ姿に内藤興盛が威圧を込めて大声で叫んだ。

「信行殿! もし今川に寝返ったら只じゃ済みませんぞ!」


「ひゃ! そ、そんな事はしにゃい」

萎縮し、思わず噛んで返事をした事さえ気付かない信行は、末森城に戻ってしまった。


「興盛殿、あの男は何奴だ」

安藤守就が不思議がる。


「信長様の同腹の弟で不穏分子だ。脅しておいたので、この戦いの間は何も出来んだろう」


「ほう、織田家も大変だな」


「ははは、何て事ないさ。寝返った瞬間に」

手刀で首を切る真似をする内藤興盛。


「ふははは、腹の中に虫を飼って泳がせておくとは、信長は面白い男だな」

安藤守就が大笑いした。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「興盛、遅かったな」


今川は村木の地に砦を作っていた。その砦と対峙し陣取っていた信長達。


「申し訳御座いません。我々の到着を待っていただいたのですね」


「おう、折角美濃から客人が来てるからな。客人の前で決着をつけるさ」

と言って俺は安藤守就を見た。


安藤守就は畏敬の念を持って俺に頭を下げた後、小声で内藤興盛に尋ねる。

「興盛殿、信長様は本当に寺本城を攻略してから、ここに来たのかのう」


「ははは、信長様に限って偽りはない。今頃寺本城は屍の山を片付けるのに四苦八苦してるだろうよ」


「ふむぅ、信長様はなんとも恐ろしい御仁よのう」


「味方であれば頼もしいはず。敵に回らん事だな」


「うむ、しかと心に刻んでおこう」


その時、俺の前に饗談が現れた。

「今川軍の兵数は2000人じゃ」


「ほう、それっぽっちの数でこの尾張に侵攻出来ると思ったか。それとも俺達の実力を見定めようとしているのか。何れにしても踏み潰すだけだな」

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