第130話 VS清洲織田家3
「俺に信長を裏切れと言うのか?」
狼狽える信光叔父。
「誘いに乗って清洲城内に入り、そのまま織田信友とその家老を討ち取ってしまえば良いのだ」
山本勘助は事も無げに言う。
「そのまま清洲織田家に寝返っても良いんだよ。その時は戦国時代の武将同士、互いの夢を目指し戦おう」
俺は平然と信光叔父に言う。
「え! むむむ………」
信光叔父は俺の想定外の言葉に驚き、そして何やら考え込む。
俺達の初陣の戦いを思い出したのか? あのときより大幅に戦力は増強してるからね。
「そもそも信光殿は、清洲織田家の誘いに乗って信長を倒したら、その後はどうなると思っているのだ」
伊達稙宗が信光叔父に言う。
「お、尾張下四郡の半分を統治する」
「その後だよ。恐らく清洲織田家は尾張下四郡の
三好政長が尋ねて信光叔父は政長に顔を向けた。
「そ、そうだ」
「はっはっは、全くおめでてたいですなぁ。東には織田信行がいる。すんなりとは尾張下二郡は手には入らんだろうに」
小梁川宗朝が大声で笑い出し、信光叔父はむっとして宗朝を見る。
「まあ、織田信行と争う事になりますな」
今度は海野棟綱が喋る。
「ああ、信長様亡き後、信長様の兵は使えませんよ。信長様を裏切った貴方に味方する者はいません。むしろ敵に回るでしょう。しかも信行軍には猛将柴田勝家がいますので、簡単には勝てないでしょうな」
と真田幸隆。
「……成る程、今川義元か」と沢彦宗恩。
信光叔父は何の事か分からない様で、無言で沢彦宗恩を見る。
「そう、恐らく今川義元が後ろで絵を描いているでしょうな」
と真田幸隆が頷きながら答える。
「どういう事だ………」
信光叔父が幸隆に尋ねる。
「信光殿が信行と争ってる間に、東から今川西から清洲織田が侵攻して挟撃されたら」
と
「まあ信光殿も信行もお手上げでしょうな」
と山本勘助。
「そして尾張下四郡は今川の物になる筋書きと言う訳だ」
と伊達稙宗。
「むっ、信長だったら対応出来るのか!」
信光叔父は俺に怒鳴る。
「今川義元は、鳴海城の戦いの時に電光石火の速さで戦場に来て、今川軍と山口軍を完膚なきまでに叩き潰した、信長様を警戒しているのでしょう」
と内藤興盛が「何で分からないの」って顔で、信光叔父に丁寧に説明する。
俺のほとんどの家臣達が先を見通せるのに、自分は尾張下二郡を任される事に満足し、それ以上は考えられなかった事が歯がゆいのか、歯軋りをする信光叔父。
「くっ、分かった。清洲織田の誘いに乗ったふりをしてやる。だから──」
信光叔父は悔しそうに俺に言うが。
「信光殿! 勘違いしないで貰いたい」
山本勘助は大声で信光叔父の言葉を遮る。
「ん!」
信光叔父は勘助を向く。
「信長様は織田信友が清洲城に籠城しても全く問題無いのです。城門でも城壁でも一瞬で破壊する大筒と言う武器を持っていますので、籠城は意味をなさない」
と山本勘助は続ける。
「では、俺は何の為に誘いに乗るんだ」
信光叔父は不貞腐れた様に勘助に尋ねる。
「城門や城壁を破壊したら城を奪った時に直さないといけないじゃないですか」
山本勘助は答える。
「お、俺が誘われたふりをして清洲織田家を討つ事は、清洲城の城門程度の価値しかないのか?」
信光叔父は疲れきった様に言う。
「その通りです。到底尾張国の2郡を要求する程の価値は無いですな」
山本勘助は平然と言い切った。
はぁ、山本勘助は言い難い事もはっきり言い過ぎだ。
信光叔父がすっかり悄気ちゃったよ。
「まあまあ、皆さん、信光さんに言い過ぎですよぉ」
養徳院の優しくほんわかとした声が、緊張感のある評議の場を変えた。
「信光叔父さん、俺と一緒に戦って、いずれ尾張一国を任せられるぐらいの武功を積んでくれよ」
俺の言葉に力なく無言で頷く信光叔父。
信光叔父しっかりしてくれよ。父信秀の重臣で幾多の戦場で活躍した猛将だろう。
もう一人、驚き怯えて俺達の会話を無言で聞く事しか出来ない、過去の猛将である秀敏大叔父がいた。
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