第83話 引き継ぎ

久しぶりに帰って来た那古野城。


家臣達と嫁候補の帰蝶、直子、ゆず、吉乃、そして50人の根來衆、それから、養徳院とそのお供達と共に那古野城下に入った。


出迎える大歓迎の領民達。那古野城下でも大浜の戦いの歌が流行っていることは、饗談から聞いていたが、盛り上がり過ぎだろう。お祭りの様だ。


俺達はそれぞれスレイプニルに跨がり城下町を城向かってゆっくり進む。その後を牛車に乗った養徳院とそのお供達は徒歩だ。その後ろを根来衆50人が続く。


領民達の声が聞こえる。

「信長様あああああ!」

領民の声に手を振る俺。


「天下御免の傾奇者だ!」

「すっげぇ!あれが噂の長い朱槍………」

「滝川慶次様。格好いい」

流石慶次は目立つからねぇ。


「単眼坊主の鉄の棒だ!」 

「あの人が杉谷善住坊だ」

一目で分かる風貌と巨体だもんね。


「物干し竿ってあれか!」

「佐々木小次郎様ぁ 」

小次郎の刀も目立つからね。


「諸岡一羽様はどこぉ」

「富田勢源様ぁ、素敵ぃ!」

「愛洲小七郎様ぁあああ」

………。


それぞれの声援が聞こえるが、恒興の声は聞こえないな。歌の歌詞が気になるぞ。


城門の中にて顰め面しかめつらで出迎えた元筆頭家老の林秀貞。秀貞の姿を見て俺達は下馬した。


「信秀様より筆頭家老の任を解かれましたよ。引き継ぎの為、待っていました。まさかお戻りになるとは、思ってもいませんでした」


「ふっ、俺がいない間に、那古野城下は随分と寂れたなぁ。ちゃんと仕事をしてから大口を叩けよ。引き継ぎはこの者達に任せる」


俺は秀貞の言葉に皮肉で返し、海野棟綱うんのむねつなと真田幸隆を紹介した。


「海野棟綱だ。引き継ぎは宜しく頼むぞ」

「真田幸隆です。宜しくお願い致します」


「ふん、何処の馬の骨かも知らない田舎侍が、筆頭家老の業務を理解出来るのかな」

林秀貞は挑発する。


「軍師の山本勘助だ。馬鹿を言うな棟綱殿は

清和天皇の子孫である海野氏の直系だ。源頼朝様から『弓馬四天王』と称された海野幸氏

の子孫でもあるぞ」

山本勘助は林秀貞を睨み付ける。


「ひぃ、よ、酔っぱらいが何を戯れ言を、そんな御仁が大うつけ者の家臣になるか」

林秀貞は怯えながらも言い返す。


「おい、言葉に気を付けろよ! 同じ信秀様の家臣とは言え、嫡男の信長様の悪口は看過出来んぞ!」

海野棟綱は迫力のある顔で林秀貞を睨みながら、刀に手をかけて一歩前に進んだ。


俺の後ろにいる仮称信長24衆の家臣達も怒りの表情で殺気を放っている。


ここで、林秀貞を殺したらちょっと不味いか? うーん、でも史実でも後で追放するんだよなぁ。


なんて考えていたら………。


「まあまあ、秀貞も棟綱さんもそれくらいにしなさいなぁ。死んだら引き継ぎも出来ないわよぉ」

と養徳院がほんわかと仲裁する。


養徳院に言われると和んじゃうから、殺気も消えるなぁ。


この場は取り敢えず養徳院の仲裁で事なきを得て、林秀貞、海野棟綱、真田幸隆の3名は引き継ぎの為、場を離れて、俺達は那古野城に入城した。



後日、棟綱から報告。

「林の野郎、大した事はしてませんでしたよ。文官に丸投げでした」


そして幸隆から補足。

「なんか嫌味ったらしく尾張国の流儀を説明しようとしてましたが、棟綱様が総て理解していて、林が言うより前に言ったら、目を丸くして何も言えなくなってました」


林秀貞………。要らねえな。

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