第82話 戦勝報告3

「報告はもう終わりか?」

俺は平手政秀に尋ねる。


「それがですね。大浜の戦いに参加した林秀貞の与力と、信光軍としていくさに加わった与力が、信長様の与力になりたいと内々に話がありました」


与力って言ったら地方の豪族で、西洋の貴族の寄子みたいなもの。言わば俺が寄親なる。寄親が寄子を保護する事になる訳だが、寄子の持つ戦力を当てに出来る利点がある。先日のいくさで俺達の戦闘力を見て、保護して貰う気になったのか?


「嬉しい話だが、親父の傘下内で勝手に寄親が変わったら不味いんじゃないの?」

生駒家宗は小折城主だったので、勝手に与力にして、平手政秀に怒られたからなぁ。相手の信清が了承してた事で事無きを得たから良いけどさ。


「信秀様に確認したところ、『与力を持つなんて年齢的にはまだ早いが、既に志賀城城主平手政秀と小折城城主生駒家宗が与力になってるからなぁ。それぐらいの与力を持つのも将の器よ。あっはっは』と信秀様のお許しは出ました」


「それは有難いな。で、誰?」


「林秀貞の与力である荒子城城主前田利春まえだとしはると、信秀様の与力で比良城城主佐々成宗さっさなりむねです」


「おお! 凄いじゃない。バリバリの武将の家じゃん」


前田利家の家と佐々成政の家だ。そう言えば那古野城で戦闘訓練をしてる時、佐々成政と前田利家がよく来てたなぁ。


「何でも息子達が、信長24人衆に憧れていて、どうしてもと親が説得された様です」


「24人衆なんて無いけどね。そうすると那古野城、志賀城、小折城、荒子城、比良城の戦力を自由に出来る訳だ。作戦の幅が広がるなぁ。勘助」

俺は山本勘助に話を振った。


「そうですな。しかし小折城の生駒家は武家商人。戦力の期待は低いでしょう。どちらかと言うと財力と情報力を期待したいところですな」


「まあ、そうだが戦力が無い訳じゃない。むしろ財力使って戦力を増やしても良いぐらいだ。これからいくさも増えるしね」


「ほう、信秀と信行を暗殺して一気に織田家を継ぎますか? 天下布武を目指す為、スタートは早い方が良い」


一緒にいた養徳院と平手政秀が驚き、凄い顔で山本勘助を睨む。


帰蝶と沢彦宗恩たくげんそうおん快川紹喜かいせんじょうき海野棟綱うんのむねつな、真田幸隆は涼しい顔で会話を見守る。


戦国時代は下克上だからね。このぐらい当然の顔だ。むしろ確認しておきたいんだろう。


しかし、親子や兄弟の情がなければ山本勘助の言うことは分かる。確かに早いに越した事はない。


「おいおい、物騒で馬鹿な事を言うなよ。暗殺をする気はないし、親父の事は割と好きなんだよ。天下布武の準備は出来る範囲でやってるじゃないか」


勘助は養徳院と平手政秀の視線を無視して話を進める。歯に衣着せぬこんな物言いが煙たがれる原因なんだよなぁ。


「信行からの暗殺者は頻繁に来てますがね。信行が生きてる限り家督相続は少々手間ですよ。そうすると家督を相続するまでは、信秀のいくさに付き合うのですな。」

ちょっと皮肉を言った後、勘助は話を続ける。


そうそうこんなところが嫌われる原因だ、ズバリ過ぎる。もっとオブラート包んだ言い方があるでしょ。まあ、俺はズバリの方が分かりやすくて良いけどね。


暗殺しようと思えば、猿飛佐助と石川五右衛門や他の忍者で一瞬に出来ると思うけどさぁ。


「親父が生きてるうちは親父のいくさに付き合うし、家督相続も親父に任せる」


「承知しました。その方向で戦略を考えましょう」


山本勘助と海野棟綱、真田幸隆が頷く。この人達非情だね。そこがまた頼りになるんだけどね。

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