第84話 前田利春1

那古野城の毎日は落ち着きを取り戻し、日課の狩りも行っている。那古野城に続く街道に現れるモンスター達が少なくなり、街道の安全が保たれて来た。


林秀貞が居た時は出来なかった楽市楽座を那古野城下でも実施する様、海野棟綱と真田幸隆に指示した。


「大賛成です、直ぐ実施しましょう。志賀城で成功している経済政策ですからね。この衰退した那古野城の経済も少しづつ回復出来るでしょう」


街道の整備も同じ理由で実施し始めた頃、生駒家宗が吉乃に会いに来たので、街道の整備資金を生駒家に供出して貰う事にした。


代わりにと言う訳でもないでもないのか? 那古野城の商売の窓口を生駒家に任せる事になった。生駒家と伊藤屋で話が済んでる様だったので、俺と直接売買する事にした。


生駒家宗も商売上手だな。


ついでにと息子の生駒家長を家臣にしてくれと置いていった。吉乃の兄だ。


という事で少しづつ那古野城下の経済も上向きになってきた。


そんな頃、前田利春が尋ねて来た。前田利春は犬の獣人だ。犬種で言うとジャーマンシェパードだな。前世では軍用犬や警察犬としても活躍している、知的で勇敢しかも忠犬だ。


「ささ、こちらでございます」

青山信昌が最大の礼儀を持って出迎えて連れて来た。


「初めてお目に掛かり候。拙者が荒子城主前田利春でござりまする」


思いっきり昔風の言い方だが、風格のある佇まい。がっしりとした体格に、背筋が伸びて姿勢が良い。老将と言う言葉が似合うご仁だ。武士の正装で和服に似た出で立ちが益々その風格を漂わせる。


俺の服を見詰め俺の返事を待つ。


俺は普段着。何度か信盛に正装に着替える様に言われたが無視した。だって和服って動きにくいし嫌いなんだよぉ。


いつもの冒険者が着る戦闘用の動きやすい服装。肩や胸、膝、肘には甲虫のモンスターの硬い上翅がついている。


「織田信長だ。この度は俺の与力になってくれて有難う。良しなに頼むぞ」


「はっはっは、聞いてた通りの御仁だ。周囲が大うつけと言うのも分かるな。まあ、宜しく頼もう」

前田利春が俺の服を見てそう言った。


このオヤジ、態と堅苦しい言葉で様子を見やがったな。


「ちょっと、親父ぃ………」

一緒についてきた息子達が利春の裾を引く。


俺と一緒にいた沢彦宗恩たくげんそうおん快川紹喜かいせんじょうき海野棟綱うんのむねつな、真田幸隆、山本勘助の5人は素知らぬ顔だ。


こいつら分かってるねぇ、ここで怒っちゃいかん。駆け引きだ。恒興がいたら「無礼な」って怒って刀の柄を掴むところだ。


「利春、俺は常在戦場だ。救援を求められて一刻を争う時、いちいち鎧に着替えられるか。俺はこのままの服で今直ぐ行けるぞ。荒子城が攻められて救援が必要なら、一番に行ってやる」


「くっくっく、あっはっは、成る程、確かにそうだ。その服ならそのまま駆け付けられよう。志賀城で今売り出し中の防刃の服だな。『常在戦場』、良い言葉だ」


利春はニヤリと笑い、俺もニヤリと笑って頷いた。


お、知ってるのか。情報が速いな。外側は蜘蛛の糸で作った厚手の防刃の服。中は芋虫の糸で作ったニューシルクだ。着心地抜群で手放せないんだ。


「言葉が過ぎた様だ。申し訳御座らん。改めて与力の件、宜しくお願いいたそう。息子達を紹介しよう、家臣にして欲しい」

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