第62話 元服

吉法師13歳。


今日は俺の元服の儀があるのだ。俺の仲間で参加するのは、俺、帰蝶、直子、ゆず、平手秀政、養徳院だ。


先日、養徳院が志賀城に来て俺と帰蝶達の服装を決めて、洋服をオーダーメイドで作成済みだ。


通常元服は氏神様の社前で行う。織田家の氏神様は津島神社で、建速須佐之男命タケハヤスサノオノミコトを主祭神としていたのだが、『津島牛頭天王社つしまごずてんのうしゃ』と称し、神仏習合の神である牛頭天王を祭神としていた。


その津島牛頭天王社の社前で儀式は行われると思ったが、俺の元服は父信秀の居城である古渡城で行うらしい。帰蝶達と織田家の親戚や重臣達が両脇で見守る中、儀式用の大人の服を着た俺は、名前を呼ばれて前に出ると、赤い絨毯を1人で歩き。神主と父信秀と平手政秀が待つ。


父の顔を久し振りに見た。荒々しく迫力はあるが、痩せて頬が痩けていた。何か病をかかえているのかも知れない。


俺の烏帽子親は平手政秀になって貰った。

平手政秀が俺の頭に儀式用の烏帽子をのせて、大人の名前をつけて貰って完了だ。


平手政秀から『織田信長』になった事を告げられる。これで今後、俺の名前は吉法師から信長なるのだ。


その後、この世界特有のスキルの鑑定が行われる。

俺は烏帽子かぶったまま神主の前に進むと、神主の目の前に置かれた大きめの水晶玉に手を触れる。


その水晶玉を凝視する神主。

「む、むむむ、むむむむ……」


「どうした。早くスキルを言え」

信秀が神主を急かす。


「信長様のスキルは……」

「スキルは?」

見守る親戚や重臣達が息をのみ見詰める。


「プレイヤーで御座います」


「プレイヤー?」

神主の言葉に俺は思わず呟く。


神主の言葉に親族と重臣達がガヤガヤ、ザワザワとざわめく。


「何だ!それ?」

信秀が神主の顔を睨む。


「どうやら『ゲームを遊ぶ人』の様です」

「はぁ、ゲームを遊ぶ?」


「あっはっはっは、遊ぶスキルなぞ、武将には無用だ! 大うつけ者にぴったりだな」

重臣柴田勝家が大笑いして叫び、周りの重臣達もそれぞれ騒ぎ出した。


「大うつけ者!」

「遊びのスキルとは大笑いだ」


「おほほ、これで信長の廃嫡は確実。信行が跡取りね」

母である土田御前も叫ぶ。


「戦闘スキルの無い者は武将失格だ!あっはっはっは」

弟織田信行も大声で笑う。


みんなが騒ぐ中で父は俺を見詰めた。目と目があい、俺は平然と胸を張り父を見返す。


信秀はニヤリと笑った後、騒ぐ者達を見て叫んだ。

「静かにしろ!」


静まる一同。


「信長を廃嫡にはしねえ!」

ざわめく一同。


「廃嫡はしねえが、出仕停止とする!」


「おおおおお!」

「出仕停止と言うと追放か!」

「やったぜ!」

歓声をあげる信行派の者達。


父はみんなに聞こえない小声で俺に言った。

「奴らを黙らせる手柄を立てて戻って来い。志賀城の発展がお前ぇの手柄だと言う事は知っている。武力で周囲を黙らせる事が出来たら跡継ぎはお前ぇだ」


俺は不敵な笑顔で軽く頷き信秀に応える。そして信秀を背に、罵声と嘲笑の赤い絨毯の上を平然と胸を張って歩く。


絨毯の最後で悔し涙を流す養徳院を横目に、俺の後ろに平然とついてくる帰蝶と直子、悔しい顔のゆず。


大うつけ者と言われて追放された俺が、奴らの度肝を抜いてやる。


しかしスキルがプレイヤーかぁ。

何だろう、それ。


『信長の野暮★な事は言わないで』や『ドラゴン&モンスター』をプレイするみたいに、この世界をプレイしろって事かな?


もう、遊び倒してやるぞ。

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