第51話 北伊勢2

俺、帰蝶、池田恒興、果心居士、杉谷善住坊、霧隠才蔵の6人は、北伊勢の山の中にある薄暗い森のにいる。


果心居士の魔法で転移した直後、異変を察知して全員臨戦態勢になっている。


ヒュッ。

細長い何かが帰蝶の首に伸びて来た。


帰蝶が躱し、俺の居合い一閃。


シュパッ!

襲ってきたものを斬り、帰蝶を庇い前に出て構える。


足下から突き出てきた何かを、恒興が上から斬ると前に走り寄り、水平に大木を斬るが……。


幹の半分程で刀が止まった。


「ちっ、斬り通せなかったっす」

恒興はそう言って大木を足で押して刀を抜いた。


自分の横の大木を、鉄砲の銃身で叩き折った善住坊が恒興に駆け寄った。


「おう、助けはいらなかった様だな」


「はい、大丈夫っす。これでも毎日鍛錬と狩りで鍛えてるっす」


「ははは、ところでこいつらはトレントだな」


トレントは木のモンスターだ。


「トレントっすね。しかしこいつを斬り通せなかったっす。まだまだっすね」


「いや、そこらの武士なら表面を斬るので精一杯だ。そこまで斬れれば上等だぞ」


シュッ。

枝がまた帰蝶を狙う。


恒興は俺の方を振り返ると善住坊も俺を見た。


俺は帰蝶を襲ってきたトレントを、居合い斬りで水平に両断した。


「アニキは片手で両断っすよ。俺は両手で半分、まだまだ修行が足りないっす」


「ははは、吉法師様は特別だ。レベルも高い比べるもんじゃねぇ。しかし、まあ頑張りな」


「頑張るっす」


恒興と善住坊が俺の元に歩いて来た。

「アニキ、流石っす」


「おう、まだいるぞ。気を抜くなよ」


「あぁ、怖かったわ。吉法師様、有り難う。かっこ良かったぁ、素敵!」

帰蝶が両手のナイフをしまって抱き付く。

ふへ、胸が当たってるんですけど……。


怖かった様に見えないが、ツッコんではいけない。俺は帰蝶の頭をよしよしと撫でる。


その時。


「ほっほっほ、儂に絡み付くなんて百年早いぞ、燃え尽きて消えろ」


果心居士に絡み付いたトレントの枝が、黒い炎に包まれた。黒い炎はそのまま本体まで到達しトレントを燃やし尽くした。


「あ~あ、勿体無い。トレントの木は高く売れるんだぜ」

善住坊がため息をついて、果心居士を見る。


「ほっほっほ、そうか、すると炎は厳禁だな。魔弾で倒すか。それ!」


果心居士が人差し指をトレントに向けると、幹の根元にあったトレントの顔の額部分を撃ち抜いた。


「善住坊、トレントは高く売れるのか」

俺は善住坊に尋ねる。


「おう、高く売れるぜ。重厚で硬く反りが生じにくく傷もつきにくい。湿気や水、虫害にも強く、耐久性も高い。硬材の最高級品だ。トレントの家具は一生物いっしょうものだし、船を作る硬材にも使われる」


「ほっほっほ、それでは収納しよう」

果心居士が右手を下ろすと。


ズズッ!

俺達が倒したトレントの死骸が影に沈んだ。


「そうか、じゃあ1本持って帰って増やせるか試して見よう」

俺は近くいたトレントをテイムした。


トレントが根を器用に動かし、俺の側にのそのそ歩いて来た。


「コイツはテイムしたから攻撃しないでね」

俺の側に歩いて来たトレントを撫でる。


「はぁ、アニキは常識はずれっすね」

「ああ、トレントを使役するなんて、普通じゃ考えられねぇ。」

恒興と善住坊は驚き呆れかえる。


「ほっほっほ、常識に捕らわれない事は大事だぞ」


「んじゃ、善住坊と果心居士は遠くのトレントを倒してくれ、俺とツネは近距離のトレントを倒す。帰蝶の護衛はテイムしたトレントだ」


「おう、任せな」

「ほっほっほ、承知した」

「アニキ、了解っす」

「え~、トレントぉ! 吉法師様に守って欲しいわ~」

我儘帰蝶は無視して先に進むのであった。

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