第50話 北伊勢1

俺と帰蝶、池田恒興、杉谷善住坊、果心居士が部屋にいる。


霧隠才蔵は何処かにいて、見えないけど呼べば現れるはず。


「饗談、北伊勢の坂氏について教えてくれ?」

俺は饗談に周辺国を調査して貰うついでに、北伊勢の坂氏についても調べる様指示していた。


饗談が俺の前に現れ、俺に寄り添う帰蝶を見た。

「はぁ、久しぶりに登場したと思ったら、こんな扱いかのう。いちゃつきながら我を呼ぶとは酷いのじゃ」


帰蝶が俺の腕を抱き締めて、半透明で現れた饗談を横目で見る。


「まあ、饗談はヒロイン枠じゃないからね。諦めな」

信長の妻はいっぱいいるはずなので、ゴーストにまで手を出す余裕はないんだよ。


「早く話しなさいよ」

帰蝶が饗談に言う。


「我はヒロインになりたいのじゃぁ」


「…………」

みんなジト目で饗談を見る。


「はぁ、分かったのじゃ」

饗談は嫌な顔で調査結果を話し始めた。


「坂氏は北伊勢の北勢四十八家に入らない小さな豪族じゃ。豪族と言うか里の民じゃな。山の奥でひっそりと暮らしておるのじゃ」


「その里には何人ぐらいいるんだ?」


「うっ、分からんのじゃ」

痛いところを突かれた顔をする饗談。


「はぁ、その里の場所は、分かってるんだよな」


「大体の場所は分かってるのじゃ」


「つまり潜入出来なかったって訳か」


「うううう、そうなのじゃ。恐ろしく強度な結界が張ってあってのう。ゴーストも通れなかったのじゃ」

うるうるしている饗談。


可愛いんだけどね。


「相手が上だっただけだ。気にするな」

俺は饗談を慰めた。


「吉法師様ああああ」

目に涙を溜めて俺に抱き付こうとした饗談だったが、先に帰蝶が抱き付いていた。


「吉法師様、優しい」

帰蝶が抱き付いて俺の胸を撫で始めた。


うっ、乳首は駄目だってば……。

首も舐めちゃダメぇ、スプリットタンの舌がチョロチョロ、クネクネと気持ちいい。

あぁ耳の方まで這う帰蝶の舌が……。

ってこんな事されてる場合じゃない。


みんなは白けた顔で帰蝶の悪ふざけ?を見ている。


帰蝶を離して、饗談に話し掛けた。

「大体の場所が分かれば良いよ。地図で教えてくれ」


帰蝶は俺に離され、俺の胸をツンツンしている。涙目の恨めしい顔で俺を見る饗談。


「この辺りじゃ」

饗談は果心居士が出した北伊勢周辺の地図を見て場所を教える。


「ほっほっほ、ここなら近くまで転移できるぞ」


「それは良かった。じゃあ行くか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺達は果心居士の魔法で転移して、北伊勢の山の中の薄暗い森に来た。


「薄気味悪いっすね」

と言いながら何かを察して、腰に差した刀の柄を握り、おもむろに刀を抜く恒興。


うん。恒興も成長したなぁ。


「気を付けろ」

俺は小さな声でみんなに警告する。


「おう、何かいるな」

小さな声でこたえて、杉谷善住坊が肩に担いだ鉄砲を構えた。


善住坊の鉄砲は特別製だ銃身が厚く作られていて、鈍器として使える様になっている。


巨人族サイクロプスに鉄の棒で殴られたら、そこらのモンスターは一撃だ。


帰蝶が俺から少し離れて無言で腰を落とし、両手にナイフを持って身構えた。刃に紫色の液体が薄く塗られている。


毒だ。


食えるモンスターに投げないでね。

と密かに思う。


「ほっほっほ、気にする事もないだろう。弱い敵だ」

果心居士は杖を手にし 、いつもの笑みを浮かべる。


俺は左手で腰の刀の鯉口を切ると右手で柄を握り、膝を軽く曲げて身体の力を抜き半身になった。


林崎甚助直伝の居合いの構えだ。


ズズッ、ズズッ、ズズズズ。

微かな音がする。

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