第12話 塚原卜伝1

始めはやはり日本の剣豪のルーツ、塚原卜伝だな。


饗談に調べさせたところ、塚原卜伝は諸国武者修行中で有り、現在伊勢国に来ているとの事だったので、近くで都合が良い。


卜伝一行は伊勢国のとある寺に逗留していた。卜伝は門人80人あまりを引き連れていた。


寺の境内に俺達4人が入ると、門人達駆けて来て、先頭の男が声を掛けて来た。

「ちょっと待ってくれ、この寺には剣聖塚原卜伝先生が逗留している。卜伝先生に御用か? お主達は何者だ。」


後ろに門人が5人、いつでも刀を抜ける様に身構えている。


「ほっほっほ、儂は果心居士。後ろにいるのは尾張の織田吉法師様とその付き添い2名だ。塚原卜伝殿に用があって来た面会を所望したい」


「じじいとガキが何のようだ!」

後ろにいた門人が叫んだ。


「なにぃ!」

恒興が腰に差した刀の柄を握る。

慶次は目を細め、無言で肩に担いでいた槍を下ろした。


「ほっほっほ、儂はじじいだが、吉法師様をガキとは随分な言い様・だ・な!」

果心居士が言葉の最後と同時に魔力を解放した。


前方に濃厚で禍禍しい魔力が放出された。一般人なら倒れるほどの魔力を浴びても、流石剣豪の門人、後退りながら刀を抜いた。

「くっ、ばっ、化け物か!」


恒興が刀を抜いて、慶次も槍を構えた。


「ツネは前に出るな」

俺は恒興の服を引っ張って後ろにやり、刀を抜いて前に出た。


「俺だってやるときはやるっす」

恒興は不満そうだ。


「ほっほっほ、ここは任せなさい」

果心居士が地面から浮いて前にスーっと移動した。そして軽く手を振ると強風が吹き荒れ、門人達が吹き飛ぶ。


「うわぁああああ」

「何だこりゃあああ」


そこに5人の男達が駆け寄って来た。


「何事だ!」

吹き飛ばされた男に事情をを聞く男。


「あの老人と子供が卜伝様に用があると押し通ろうとしたので、刀を抜いたら吹き飛ばされて……」

吹き飛ばされた門人達はニヤニヤし始めた。


「先輩達が来た! けっ、これであのジジイも死んだぞ」

なんて呟きも聞こえる。


「ならば、問答無用!」

男の一人が俺達に切りかかって来た。


「ここは任せてください」

スッと慶次が前に出て無造作に槍を横に振る。


男は上段から切り下ろそうとした刀を、瞬間的に防御に変える。しかも刃が欠けない様に峰で受ける。刀の使い方が一流の証だ。


慶次の槍は鋭く早いしかも重い。

通常の槍の柄は木製だが、慶次の槍は鉄製だ。受ければ当然……。


パキンッ!!!


男の刀は折れて脇腹に槍の柄が直撃し、九の字になって吹き飛ぶ男。死んではいないが暫くは使い物にならないな。


「ほう、やるな」

不適な笑みを浮かべて刀を構える男。

八双の構え、しかし刀は肩に担いだ様に寝せて、刀身が見えない。


成る程、刀の長さが見えない様に構えるのか、鹿島新當流、面白い。


果心居士が俺の横に来ていた。

「ほっほっほ、このレベルの奴らは慶次に任せてみようぞ。経験は鍛練の一環だ」


「良いだろう」


慶次は無造作に間合いを詰めて、槍を再度横に振り払った。先端は後ろに石突きが前になっている。


「それは先程見た」

男は構えたまま後ろに少しだけ避けた。

槍の軌道を見切り、ぎりぎりで躱し反撃するつもりだろう。


だがそれは悪手だ。慶次の槍は鋭く重い。そして長い。


通常の槍なら躱せただろうが、慶次の槍は軌道が変わり、石突きが顎に当たる。


ガコッ!


嫌な音がして男は崩れ落ちる。


「なんだと! 我らが負ける訳にはいかん、全員で掛かるぞ!」


戦いを見ていた残った3人が一斉に慶次に掛かろうとしたが……。


果心居士が手を上から下に振ると、稲妻落ちて男達二人が倒れた。


「ほっほっほ、3人は厳しかろう、槍持ちだけ残した。慶次! 存分に戦え!」

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