第2話 饗談1

目を覚ますと白い天井が見えた。

見たことの無い部屋。


掛け布団をどけて起きようとして、違和感を感じる。


ん?


小さい手、足、身体………。


俺の名前は「高橋 蓮」、日本で三番目に多い苗字にありふれた名前。


「彼女いない歴=年齢」、人付き合いも無いコミュ障の30歳。会社と四畳半一間のアパートとを往復する毎日。


趣味はゲーム、歴史シミュレーションゲームとロールプレイングゲームが好きでよくやっていたが、アクションゲームやシューティングゲーム等のリアルタイムの操作は苦手だった。


要するに鈍臭いのだ。


そんな俺は徹夜続きの仕事が漸く完了し、ふらふらになりながらの帰宅途中に、トラックに引かれて一生を終えたのだが……。


流行りの異世界転生って奴だ。

赤ちゃんになってやがる。


ラノベでは生まれた瞬間から意識があったり、生死に関わる何かがあって記憶を取り戻したりするパターンが多いんだけど。


感覚的に1歳……、2歳直前ぐらいか?


白い空間で神様と会って、説明を聞いてスキルを貰うイベントも無いし、一体ここはどんな世界だ?


周りを見渡すとどうやら文明はある程度進んでいる様だ。中世ヨーロッパ風の作りの部屋に高級な家具。


金持ちの家に生まれた事は間違いない。


うあっ!


天井近くに透明な人が浮かんでいた。


男にも女にも見える。

女であればショートカットの髪型でボーイッシュで整った顔。

女だとしたら胸は小さい……。


ビックリした俺に気付いたその幽霊がふわふわと近付いて来た。


「ほう、我が見える様だのう」


俺に顔を近付ける幽霊。

キスしてしまいそうな距離で俺の眼を覗き込む。


ひっ、ひぃ。


怖い……。


テ、テイム!


思わず、反射的に飛び出した言葉……、言葉?

喋れないので、念じた様だ。


「うがっ! な、何をしよるんじゃい」

あわてふためく幽霊。


<ゴーストをテイムしました>


おお! テイムに成功した様だ。

テイム出来れば此方の物だ。


「む、むむむ。『此方の物』とは酷いのう」

幽霊がふわふわと俺から距離をとると拗ねだした。


おや? 俺の考えが分かるのか?


「うむ、分かる様になったみたいじゃ」


お前の名前は?


「饗談と申す」


女?


「うがっ、何処からどうみても女じゃろぅ」


胸が無いね。


「ぐはっ、し、失礼なぁああああ!……ある、……あるじゃろぅ、……あるはず、……ふぇええええええええん」


ごめんごめん。俺の名は高橋蓮。宜しくね。


「タカハシレン?……いや、お主の名は吉法師じゃよ。尾張南西2郡の領主である信秀の子供じゃ」


……吉法師、……信秀。

吉法師は織田信長の幼名。

信秀は織田信長の父。


ふむ、成程! 


ここは異世界戦国シミュレーションゲーム『信長の野暮★な事言わないで』の世界か!


日本の戦国時代をモチーフにしながらも、中世ヨーロッパの雰囲気でRPG要素も盛り込んだ、モンスターが跋扈し、エルフやドワーフ、獣人達もいる、よく分からんパロディゲーム。


そして俺は織田信長だ。

ふむ、信長でゲーム開始か。

先ず先ずだな。

尾張は小国だが、人材は豊富だ。


ゲームでは信長が尾張統一後からのスタートなんだけどなぁ。


「ゲーム? 現実じゃよ」


そこは、まぁ良いよ。

ゲームでもリアルでもどっちでも良い。


俺はこの世界で思うがままに遊び倒してやる!

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