第9話 別居の始まり
出て行くとも言わず、5月1日に旦那はごみ溜めを残して、出て行った。
「段ボールとか、箱とか処分していい?」
と、聞くと、全部残しておけと叫ばれた。
正直、冗談じゃなかった。ただのごみ溜めを残されて、どうしていいかさっぱりだ。並行して就職活動も行っていたのだけれど、それをしながら、不登校の娘がさらにひどくなった。覚えている限り、5月はまともに学校へ行っていないように思う。その間に…というか、いくつかの娘がらみの事件も起こった。
パート勤務が決まり、小躍りしていた時、娘の部屋から見知らぬタブレットが見つかった。どうやら、ネットで知り合った男性が貸してくれたものらしい。どうやって手に入れたのか? 住所と電話番号を相手に教えてしまっていたのだ。昔とは違い、住所を特定されたら最後だ。グーグルさんに聞けばいくらでもおしえてくれる。便利な反面危険だ。パートしている場合じゃない!!と、思った私は速攻、パート先に頭を下げ、制服も用意してもらったのに申し訳ないが辞退したい旨を伝えた。怒られるかと思いきや、オーナーは非常にいい方だった。「辞退なんて言わないで、席は残しておくから、また働きたくなったら連絡をちょうだい。そして、誰も相談する人がいなかったら、私も娘がいるから安心して電話してきなさい」と、言ってくださった。何故に世の中、家族よりも外の人間の方が優しいのだろうって思った。正直、電話越しで泣きそうになった。
これについては、旦那には言えていない。
言ったところで、ほれみたことかと、嬉しそうに楽しそうに私を責めるだけだろうから。どうしようもない。
一度だけ、娘のネット管理が難しいことについて、出てった後、電話したことがあるのだけれど、何の解決にもならなかったし、何の安心も癒しにも頼りにもならなかった。結局、自分で頑張るしかないのだと思うだけで終わった。
私は娘の件もあり、開き直った。
しばらくは家の空箱(旦那のもの)や無駄なゲーム機やパソコン付属品(旦那の)を集めて、片づけなければならないし、娘も様子をみなければならないので、就職活動その他をしないことにした。唯一しようと思ったのは近所へフリーペーパーを配る仕事だけ。こちらに関してはほぼ自宅作業の後、二時間程度の野外での仕事のため、いくらかのたしになればと思ったので辞退しなかった。私はそれでもいつ収入がキレるかもしれないから保険として~~なんて、考え出して、悶々として、仕事を探してはあっぷあっぷしそうな気がしたので、思いっきりよく、ピアスを開けた。ピアスを開けるとする仕事に結構制限がかかる。バチンっと、一つづつ両耳に娘に空けてもらった。おかげで今、ファーストピアスがキラキラと耳に輝いていて、すっかり忘れて服を脱ごうとすると、引っかかって悶絶するほど痛い目に遭う。(何度かやってしまった)
その後、娘は旦那が出て行ったショックか、それとも、私がパソコンを取り上げたせいかで、二週間ほどまるっと学校を休んだ。学校の担任からはこれ以上休まれると、成績が出せません、進学にも響きます、なんとかしてください。と言われる。正直、自分のことでもないので、できる気がしなかった。だって、私は娘ではないし、娘は私ではない。どんなに怒ったところで、昼まで寝ていて、後は学校へ行かないの一点張りだからだ。ちょっと、担任の方、私が責められてもこまるのだけれど…と言いたかったけれど、彼らに言わせたら親と子は一心同体。そして、担任も仕事として必要なことだからどうしようもない。一応、医者から起立性調整障害の診断までもらったのだけれど、それでも、担任はその症状でも、学校へ来ている子はいるので、来させてくださいと言われ……私は腹をくくり「学校へ行きたいか? きちんと、起きて、学校へ行きたいか?」と、まるで「力が欲しいか!?」と、聞くアニメに出てきそうな魔人のようなことを娘に聞き、娘は出来たら行きたいというので、力を貸すことにした。
娘の中身、どうも、自分で制御できる部分と制御できない部分があるらしいことに気づいた。中身がヲタク気質なため、推し関連に関係することは我慢ができないのだ。娘のパソコンは義母に託し、私は娘に寝る前にカーテンを開いて寝ること、9時にはテレビその他を観るのを止めること&セントジョージワートのお茶を寝る前におちょこ一杯勧めた。その代わり、朝に起きたら、二度寝せず、4時頃であってもテレビでYouTubeの好きなものを見ても良い。むしろ、観ろ!!である。
この方法、おわかりだろうか?
ブルーライトは人の眠りを妨げる効果がある。いわば、日光のようなものだ。それを深夜まで浴びてしまうと、眠ることができず、朝に起きることができなくなる。しかし、逆に考えたら、朝にそれを浴びると身体が眠れなくなるというか、起きてしまう。二度寝防止ぐらいにはなるだろう。むしろ、公然とYouTubeやテレビ、アマプラを観れるならばと起きて、好きなだけ早朝に見る。逆に夜は精神の鎮静化作用のあるお茶を与えて、早めに眠らせる。体のリズムを逆転させる効果がある。
ただ、この方法、私も命を削るようになる。何故なら…理論的にはそうでも、子供は言うことを聞かないものである。私がいつも通り10時ぐらいに寝てしまうと、こっそり起き出して、娘はテレビを見たりするだろう。そんなわけで、私は娘の監視のため二日ぐらい寝てるのか起きてるのか、ふわっふわした状態で生き続けた。案の定、三日目、微熱が出て、一日寝る羽目になった。けれど、そこまで辛くはなかったのは別居していたからだろう。旦那がいたら、旦那の面倒をみなければならない。娘だけにかかりっきりになっていたら、確実にすねる。本人は認めないだろうがすねる。ちなみにこの時期に茶碗を二・三枚割った。手元も怪しくなるほど大変だった。
そんな中、義母からそりゃ、どうよって話を聞かされた。
「テレビがないっていうから、いくらか出して(一部補助という意味)買ってあげてん」
いや、義母さん、旦那、二台目の家のテレビを置いてってますけど!?いい人だと思っていたのだけれど、ちょっと、過保護すぎるというか、40にもなろうって息子に年金暮らしの義母さんが出してあげるって、どうなんだろう? ちなみに旦那にはいつも通りお小遣いは渡しているし、義母さんには旦那の生活費も渡している。
ちょっと、段々、この息子を作ったのは……?
いや、みなまで言うまい、いい人なんだ。義母さん……てか、いいなぁ…旦那、お前感謝しろよ? てか、普通、断れよ!!!
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