第7話 クエストが塩漬け

 三月という期限を設けてから、彼はかなり落ち着いている。しかし、だがしかし、気に入らないことがあると、子供のように悪態をつくのは変わらず、それは子供にまで波及していた。

例えば、自分が風呂に入りたい時間に誰かが風呂に入っているとキレる。

 どうなんでしょうね? いや、確かに、ご飯食べて一段落したら、風呂入ってゆっくりしたいのも判るんですけど、けどね。風呂場まで行って、早く出ろって叫んで、イライラするってどうなんですかね? そんなにどうこうしたいなら、さっさと出てって一人で暮らせばいいんじゃないですかね? 家族四人で暮らしていれば、多少の我慢や不便は当然のことだと思うんですよ。子供だってしたいこともあるし、それによって、風呂がおくれたりなんてこともあると思う。しかも、九時なんですよ。深夜の十一時とかそういうわけじゃないんですよね。九時に風呂に入ろうとして、誰かが入ってたら悪態をつくんですよ。もうちょっとさぁ、せめて、優しく、次入りたいから早めに出てや~とか言えないんですかね、獣ですか?

 とにかく、なにかのアラを見つけてはつっかかってくるので、彼が帰って来ると、大体、子供らはさっといなくなる。娘は時々私との間に入って、通訳らしきことをしてくれるがそれもなんだか申し訳ない気持ちだ。どちらが大人か判らなくなるからだ。

 他にも、極端に自分の金が減ることに過敏になっているようで、必要なものなのに買おうとすると、文句を言い出す。

 例えば、寝室を追い出された私が娘の部屋のロフトで寝ているのですが、寝ているところに電気がないので危ない。ロフトですから、階段踏み外したら最後なわけですよ。(先日やったけど)それで、玄関にあるようなか~るいスポットライトなんかでもいいからと思って、色々調べて、まぁ、ニト〇だの、ナフ〇だので売ってるということが判明したので、買いに行ったわけですよ。そしたらば、屋根裏収納の電気を外して持ってけばいいんじゃないかって言い出したんですよね。ちょっと待って、じゃ、屋根裏収納の電気はどうなるんですかねぇ? 小さい窓一つで、始終暗い屋根裏収納で真っ暗な中、いろいろ探せってことなんでしょうか。とにかく、そこは譲れなかったので押し通した。おかげで、快適なロフトになり、読書もできるようになりました。

 他にも彼のオスハムスターとウチのメスハムスターさんが脱走の末に結婚してしまいまして、チビハムスターさんらが八匹生まれたので、それらのために収納ボックスでも買って、加工して、ケージにしようとしたところ、今買わなくてもいいだろうとか、言い出しましてね。待って、チビハムスターは二週間で大体乳離れ、三週間で大人の食べ物を食べ始め、四週間後には子供によっちゃ、もう大人で繁殖できる子も出てくるわけですよ。また増やす気ですか! 早めに買って、加工して、全員バラバラで暮らせるようにしないとヤバイいんですよ! そう言っても、彼は買うことを拒否。おかげで、とりあえず、サンプルにと一個だけ買い、あと、二週間で別個にせねばならないというのに…呆然としております。

 こんな調子だから、通帳とカードを返せ!と言われているのですが、死守しております。判りますよね? ライフライン確実に握らせたら、私も子供も困窮するのが目に見えているわけです。怖いですよね。

 毎度、買い物に行くたび、なにかを購入するたび、思うんです。

 ああ、四月からはどうなるんだろう。こんな風に普通に買い物も出来なくなるんかなぁ?とか、格安の100g98円の豚小間すら買うのを躊躇するような生活になるんかなぁとか、生活保護についても調べたのですが、実両親からそれをしてしまうと、色々制約もかかるから最終手段だと言われており、私も出来たら、そこは避けたい。いくら今まで通りな収入が保護で受けられるとしても、なにかを手放すことになるのだけは避けたい。でも、でも、と、ぐるぐると思考がめぐる。息子が中学に上がるので、また、いろいろ物入りになるだろう。先にいろいろ買っておかねば、養育費もまともに払ってもらえる可能性もなさそうだし…完全におかしくなるしかない思考です。

 そういう状態なもんで、もう、お金のこととか考えたくなくて、考えないようにするには……と思い、実益もかねて通信講座を受講し始めました。国家資格が取れて、なおかつ、できるだけ有効なもの…まぁ、後は自分で興味があるもの。年始割引きで、受講料はほぼ半額ぐらいで、なんとなく、いつもなら、気にも留めないことを始めちゃいました。

 子ハムスターのきゅいきゅい言う鳴き声を聞きながら、少しばかり難しい問題集を広げ、お前らに絶対ひもじい思いだけはさせない!と、頑張っております。

 新クエストに関しては塩漬け。なにしろ、耳が隠れるほど、髪が伸びているというのにカットにも行ってくれないぐらいですから、もうどういっていいやらわかりません。

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