第6話 新クエストの始まり
彼との話はどうにもこうにもラチがあかない、三月まで我慢しなきゃならないのかという割に、家を探している風にも、法的にどうこうしている風にも見えない。ただのくたびれたオッサンに見える。
どうしようもないので、自分から動くことにして、彼の会社の福利厚生の相談室なるところへ電話をかけてみた。彼も了承済みの弁護士なりを紹介してもらうつもりだった。私個人としては、なんとか、法的な権利だけは保護してほしかったので、その相談もしたかった。まぁ、一番は完全なる他者からの助言というものを聞いてみたかった。
義両親も両親も結局のところ、好きにしてよいしか言わないわけだし、しかしながら、この後のことや子供のことを考えると彼の気性が落ち着いて、二人でまた仲良くやってほしいという義両親と、今までさんざんな目に遭ってきたのであるから、さっさと分かれるなら別れてまえ!の両親との双方では無茶がある。されど、ここらへんで相談できる人と言ったら、なかなかいない。狭い世間、田舎である。信用している人にしたって、このような重い話題を背負わせるのはどうかとも思ったのである。
電話をかけると、声的に初老ぐらいの温和そうな男性が出た。ラジオでなんたら相談室~でも開いてそうな声だと思った。とりあえず、会社の名前を聞かれ、答えると、相談はあっけなく始まった。
彼が酷くイライラしていて、当たっているように見えること、家事を完璧にできないなら、自分の食い扶持ぐらいは稼げと言われたこと、子供らに強くいろいろ強いる割に何もしないし、自分はスマホとパソコンで遊んでばかりいる事……ゆえに、3月をめどに離婚か別居の話が持ち上がっており、権利の話をしたところで全くラチがあかないこと。ネットで知り合った女性と遊ぶこと…など、まぁ、ざっくりと手短に話すと。
その男性は「ねぇ、旦那さんは何歳?」と聞いてきた。勿論、正直に答えた。
食べるものは食べているか? 最近、食べ物の嗜好が変わったように感じることはないか? 寝ているか? 寝られているか?
思うところがあったのでこのように話した。
そう言えば、コロナはじまりだったか、前からだったか、昼のお弁当を食べなくなったこと、菓子パンばかり食べている事。晩御飯も嫌いなものが出ると食べない。場合によっては食べられそうなものでも残す。朝はほとんど食べずスープのみ(これは前からである)
睡眠に関しては、私はいびきがうるさいからと寝床から追い出されているので判らないが、午前二時から七時ぐらいまで寝ている事。などである。
そうすると、男性はもしかしたら、内臓がヤラれてるのかもしれない。と、言い出した。かかりつけの内科医に連れて行き、今言ったことを話し、診察してもらいなさいと、イライラしているのは内臓がおかしくなっていて、辛い。食べ物に関しては内臓がおかしくなっているから前と同じものが食べられず、その上、食べられないからまた内臓が良くならないという悪循環、内臓がおかしいから眠れておらず、眠りが浅いため、貴方のいびきが気になるのだろう。とのことである。盲点であった。
しかし、彼が自分から病院へ行くような人間ではなく、非常に難しいというと、とにかく真摯に思いを伝えてしっかりと話しなさい。そして、年一の定期検診を受けていたとしても、あくまで数値だけの話であるから、本人が問診時に不調を隠していたら、出ない場合もある。なによりも、身体が本当に壊れている人は壊れていることに気づいていない。みたいなことを暗に言われた。
そんなわけで、新しいクエストがくわえられたわけである。
養育費やら、権利云々に関しては、家庭裁判所へ相談しなさい。すぐに調停だの裁判になることはないから、ただ、家庭裁判所はこれぐらいの年収ならどれぐらいの養育費を貰えるとか、ひとり親の場合の権利などの資料を持っているので、色々教えてくれるだろう。それでもどうしようもないときは裁判だの調停だのになるかもしれないが、どちらにしろ、弁護士はまだ早い…というようなことを言われた。
その男性曰く、どちらかというと、その旦那の方が心配だ。多分、過労やらなんやらで身体を壊したりしていて、イライラしているだろう。なにもなければいいけれど、なにかあって倒れたときでは遅い。特に男が言い出す「完璧な家事」などアリエナイ。アリエナイことを言っているのに気づいていない。もしかしたら、気づいているし、離婚もしたくないのにどうこう言って、身体が辛いことを八つ当たりしているだけのような気がする。
案外、病院へ行き、悪いところを治すと、「あの時は悪かった、どうかしてた」などと言って、おさまる事案が多い。だそうだ。
どちらにせよ、二つの助言をいただけたことは非常に嬉しかった。
何よりも、他人の目線で話を聞いてもらえたのは心が楽になった。
その男性によると、「完璧な家事」などないのに、その言葉にハマって、苦しむ妻は非常に多く、貴方もその一人だろうと言われたのが心底嬉しかった。
ただ、この家庭裁判所への相談はともかく、一番のビッグなクエストがかなりな重責な気がする。ヤツは尿道結石を粉砕しなければならないぐらいまで、病院へ行こうとしなかった人であるし、何度、私が説得しまくり、義両親まで引っ張り出して、夜間救急へ放り込んだか判らないほどの病院嫌いである。
とりあえず、義実家へ内科への受診するように言ってほしいと連絡をし、私自身もなんとか…と思っていたのであるけれど、今朝、年一の健康診断の封筒がリビングのテーブルに置いてあった。彼のものである。これで、何らかの異常がはっきりと出てくれることを祈るばかりだけれど、楽観もしてられないので、本人の機嫌の良いときにでも話をするしかないなぁと思う。
いや、正直に言おう、
もう、倒れて…不調なら倒れて!!
その方が楽だから!!
不謹慎は重々承知であるけれど、それぐらい二本足で普通に歩いている彼を病院へ連れて行くのは非常に大変なことなのである。
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