第5話 無知な彼

 彼は怒らなくはなったが、あからさまにイライラすることが多くなったように思う。

 彼がいうところの搾取を一刻も早く終わらせたいのだろう。話し合いの場を持って、とりあえず、形は別居。別居するのは息子が小学校を卒業した時から、少なくとも息子が中学を卒業するまで家に住みたいこと、数年前にローンの残りを返すために実家の両親から葬式代として預かっていたお金をそれに入れていたので(両親了承済み)そのお金を差し引いて、財産を二人で半分にすることをお願いした。

 すると、自分の両親も家を買う時に支援してもらったお金があるので、返したくないという。私は意味合いが違うと答えた。一人っ子の私が、もしも、両親が急に亡くなった時のためにあずかっていたモノであって、くれたものではない。それをたまたま金利が上がりそうだったし、お金も手元にあったので返しただけのことだ。こんなことになるなら、いつまでも箪笥貯金のままで、埃をかぶらせて、せっせと彼の給料から返させればよかった。

 他にも離婚の前に別居という形になるので、法律上、別居中の生活費のいくらかは収入の少ない方が収入がある方からもらうことができる旨を言うと、今度は理解できない、あり得ないと拒否した。養育費にしてもそうだ。養育費とは彼が子供のために払うものであるはずなのに、何故か、私と彼で負担することになっている。つまり、養育費が十万だとすると、5万彼が負担し、私が5万…つまり、養育費が半分に減らされるわけである。

 そして、このまま家に住むのであれば、また養育費から家賃分減らすと言われた。

最終的にどう考えても雀の涙、子供らの教育費にも満たない金額しか払わないということを彼は希望してきた。

別居したとして、その日から、私は生活費0で、子供らもなにもない。

これではすぐに私が就職できたとしても生活もできない。

にもかかわらず、子供らには不自由なく暮らせるようにしてやらなければならないなどと、口先だけでいいように言う。自分から別居だの、離婚だの、搾取の生活から抜け出したいだのと言いながら、全く責任を取るつもりがない。

そもそも、今の状態(精神病院へ通院中&不登校の娘を、なんとか、学校へ行かせるべく奮闘中)の私に就業できるかどうか謎だ。

私は貴方は生きていくにおいて、どれだけお金がかかっているのか判っていない。そんなに世の中安くもなければ、甘くもないし、楽でもない。このコロナ中でどれほどのリスクを背負って、私達は別居だの離婚だのと言っているか判っているのか。と、言った。

けれども、彼は全く判らない。そうだろう、彼は実家暮らしからこの私との生活をしはじめたので、食べ物の適正な値段すら知らないのだ。

子供らにしたって、息子は言うことを聞かないからいらない。娘は言うことを聞くから彼女は自由にさせたいなどという。いらないではない、お前の権利ではない。義務なんだよ! 彼らが健やかに生活するために、十分なお金を払わねばならないんだよ!と、言ったが、それについては私には働け!の1点張りだ。

15年間専業主婦をし続け、子供を育て続けていた私が貰える時給も月給も彼は判っていない。手取りも私が専業主婦が出来たぐらいであるから、普通の人よりも貰っているのに、どこまでせこい男なんだろうとため息が出た。

その上、息子の小学校の卒業まで待ってくれと言ったら、そこまで我慢しなければならないのかと言い出した。我慢だ、我慢。子供と一緒、私と一緒に暮らすのが我慢ときている。本当に彼に女性でもいないのだろうか? お金がかかるが探偵でも雇って少し行動を探らねばならないのか? 酷く悩ましい。そうでなくとも、これからお金がかかるというのに、何を馬鹿なことをしなければならないのか…正直言っても、もう、彼に女がいようが男がいようが構わない。慰謝料もいい、ただ、子供と私のしばらくの間の生活費と学費だけでも十分保証してほしい。

ラチがあきそうにもないので、私は間に入ってくれる弁護士を雇うことを提案した。彼もそれには承諾してくれた。彼の中で、多分弁護士は自分の味方をしてくれるとでも思っているのだろう。彼はあまりにも判っていなさすぎる。

 この調子では養育費も成人するまで支払われるかどうか不安だ。

 もし滞ったら、気まずいが義両親や会社へ連絡することも考えねばならないと、思った。

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