第3話 親とは偉大である
その後も彼は一人で子供二人を育てられないのであるなら、早めに実家の両親に出てきてもらって、一緒に暮らしたらどうかと提案してきた。私は一人っ子で、両親は私の祖母が第一次コロナ自粛時期に亡くなり、後、三年ほどで実家を片づけて、私の近くで暮らそうかなどと話していた時期だったので、そんなことを提案してきたようだ。
私は両親も年配だし、家もまるっと一軒分あるのだから、いろいろな整理も含めて三年ほどは無理だ。と答えた。そうすると、彼はそれまで待てないと返答した。
どこまで自分本位な男である。
そもそも、子供の養育する権利も義務も親の私と彼にあるべきなのに、それを何を勘違いして、自分だけでなく、年配の実家の両親に負ぶわせようとしているのだろう。さっぱりわからない。とりあえず、その話はとん挫したけれども、どこまで子供らと私を捨てたいんだろうと思った。
両親にその話をすると、貴方の好きにしなさいとまた言ってくれた。
老後の貯えもあるし、お前と子供らぐらいしばらくの間養える。子供らの養育費を貰い、なんならその家も出ればいい。ただし、腹立たしいし、あって困るものではないから、貰うものががっつりともらえ。とのことだった。
ハンズフリーで実父と実母の声が両方聞けて、涙がこぼれた。
毎日泣きそうなのに、何故か、涙が出たのは娘を見張ることができないと、彼の前で大泣きして以来だ。しかし、その時とは違う涙だった。
彼と付き合う前、私は見合いを繰り返していた。一人っ子で両親を失えば、私は天涯孤独の身となる。三十に手が届きそうな私を両親は心配したのである。私は若かったし、死ぬときは死ぬよと思っていたのだけれど、今となっては笑えるほど、浅慮であったなぁと思う。人間そう簡単に死ねないし、なにより、死ぬまでがじわりじわりと辛いのだ。特に女一人は大変だと思う。両親としては、自分らの近くで嫁ぎ、自分らの手伝える範囲で、子供を作り、家族を形成してほしかったのだと思う。
見合い相手には条件的にいい人とはいっぱいいたように思う。勿論、逆にどうよって思う人もいた。(見合いをするというのに、日雇いとか、二度目の夜のデートで自宅まで送らず、真っ暗の中、家へ一人で帰す男など)それらをはねのけ、好みじゃないとしりぞけ、一蹴して、彼と一年ほど付き合い。新幹線で二時間半かかるような場所で同棲し、意気揚々と子供が出来たので結婚する。三十ぎりぎり前で入籍、ああよかった…なんとか、両親を安心させられたなんて馬鹿なことを考えていた私。
結婚はできたものの、どれほど両親は心配し、私からの電話で一喜一憂したことだろう。この時、心から「ごめんなさい、ありがとう」と言った。両親は謝ることではないし、泣くことではない。何をお前が悪いことをしたのか。むしろ、これからだ。子供らと暮らせる家を手に入れ、ほっとしてから泣けと。
40過ぎても、子供子供してる私に対して、両親は本当に甘い。
親とはなんてありがたいものなんだろう。
私はそんな親になれるのだろうかと、凄く思う。
ついでに言うと、親に対して、彼は義母の忠告や、優しい助言を全部蹴り飛ばす。何かを言い出すと、「うるさい、面倒、いらない」今はそれしか言わない。義母さんはそんなうるさい人ではない。むしろ、こちらが何か言えばしてくれるが、何も言わなければ干渉もしてこない、見守ってくれる方だ。少々、過保護ではあるが私にも優しい人だ。
彼が尿道結石で夜中に苦しんだ日も、車の運転ができない私に代わり、救急病院まで走ってくれるし、今だって、娘の不登校に付き合って、朝に送ってくれている。仕事をしていたころはともかく、仕事を辞めてからは本当に至れり尽くせり、おんぶにだっこ、子供の予防注射、制服の採寸、昼間の買い物にも連れてってもらっている。甘いものが好きな方なので、持病があるからあまりよろしくはないのだけれど、月一ぐらいでケーキなどを差し入れるととても喜んでくれる。
義父さんにしたって、私は不満はない。黙ったままなことが多いけれど、怒鳴られたこともないし、理不尽な要求をされたことなど一度もない。
しかし、彼は話を聞かない。実の両親だというのに、はなしもきかなければ、尊重もしない。本当に聞かない。
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