第2話 眠れない
自分では思ったよりも、平気なつもりであったし、気丈なつもりであった。
それはあくまで『つもり』なのだと、思い知った。
不登校の娘に合わせて、夜九時までに大体のところの仕事を片づけ、十時くらいまで娘と二人で過ごし、就寝する。私は夫婦の寝室兼パソコン部屋から追い出されていたので、娘の部屋の二畳ほどのロフトに季節荷物と一緒に眠っている。ほぼ、セミダブルのベッド一個分の空間が私だけのスペースだ。二畳ロフト、冷暖房完備、電気スタンド、二口コンセント付きだ。小さい頃見た小公女セーラーを思い出した。まぁ、彼女らの場合よりも天井がかなり低いので、立つこともできない。
十時に寝て、疲れているはずなのに寝付けず、多分、十一時ぐらいに眠る。そして、2時か3時ぐらいに起きて、夢うつつのまま、これからどうしようかなんて考える。考えたくなくても、考えが浮かんでくるし、眠れない。ぐずぐずしていると、辛くなるので、精神科からのセロトニンを増やす薬に手を伸ばし、持ち込んでいる水筒のお水で飲む。そして、また寝床に潜り込む。睡眠薬もいただいているけれど、朝の時間に起きれなくなってしまうと困るので、最終手段だ。それから、なるだけ考えないように、積み本へ手を伸ばす。
本や漫画を読んでいるときだけが唯一心が軽くなれる。特に目が滑るようになったら、眠くなってくるし、また二度寝できるので悪くない。そんなこんなで、五時頃までぐだぐだして、部屋に暖房を入れて、六時に一度、六時半に一度、七時に一度…娘を起こして、支度を促す。息子もいるので娘ばかりにかかりきりにはなれない。娘ばかりかまっていると、幼いころから実のところ甘えたな息子も同じように接してくれと、甘えてくる。本人は全くもって、認めてくれないだろうけれども。(彼の名誉のために言っておく)
娘の不登校は彼の娘へのかかわり方の変化とともにひどくなったように思う。最初は病気を疑ったものの、血液検査では結果は良好。多分、精神的なものなのだ。私は昔はべったりと優しく、かわいがってくれたのに、今では怒鳴るしかない彼に怯えているように見える。現に娘は自室の前を夫が通る時、テレビの音量をさげるのを見た。テレビを見ることに何らやましいところはないのだけれど、彼が何かを思って、ドアを無遠慮に開けることを恐れていると私は思った。
娘はなんらかで知り合った二十歳代の男性と私のスマホで毎日ラインをしている。多分、ツイッターだろう。毎日一時間少し、とても楽しそうだ。リアルで会う場合は私も一緒させろと言ってある。成人女性ならまだしも、娘はまだ中二の小娘だ。何かがあってからでは遅い。下心があるのか、それとも、歳離れた妹をおもんばかっているのか、その相手の真意は知らない。けれど、どんな相手であれ、止めるのは酷な気がした。娘は多分その相手に父性と兄性(私の造語)を求めている。私は学校へきちんと行った日は彼とのラインでの通話を許している。それによって、彼女は朝に青い顔をしながら、それでも頑張って学校へ通っている。ありがたい話だ。この日本において、義務教育は受けなくとも卒業はさせてくれるが、娘が求むる進路はどう考えても、中学に程よく通って卒業することを求められる学校であった。もしかしたら、本当は虫垂炎であったらどうしよう、娘に無理をさせているのではないだろうか…そう思うのだけれど、医者の診断が下されてない以上、娘は健常者で、中学に行かねばならない。家へ帰って来るまで、実のところ、固形物の食べ物が喉を通らない。情けない母親である。
娘は会話を終えた後、寂しそうに、癒しが欲しい、リア充爆発しろとぼやいている。どうも、二十代の男性は彼氏というものではないらしい。あくまで『兄・父』の代わりなのだろう。庇護してくれる男性は祖父では役不足。彼が怒鳴るしかなく、昔のように関わってくれない以上、娘は寂しいのだ。時々、彼(夫)にかしずいて、暮らしていればいいのかとも思うこともある。そうすれば、娘や息子から父親を取らなくて済む。けれど、娘も息子もそれをよしとしていない。娘も息子も彼の被害者だ。そして、こんな扱いをうけていることを一番知っている私の理解者だ。
そんな折、たまたま、予約していた精神科の先生との面談の日があった。
私は最悪の事態を思い、モラハラで診断書は出してもらえるだろうかと聞いてみた。こんな感じの扱いを受けていて、私も悪いところがあるのかもしれないけれど、彼に急に捨てられるようなことがあれば最悪公的支援も視野に入れねばならない。
精神科医は優しく、今、診断書を出すことはできない。診断書は支援してくれる先に求められてから出すものだからだ。つまり、逆に言えばそこから求められれば、すぐに出してくれるのですか? と、聞いたら、それの答えはYESであった。おかげで少しほっとした。公的支援は申請してから一カ月はかかると聞いている。実の両親に頭をさげれば一カ月ぐらいならなんとかなるだろう。年金暮らしの両親に頼るのは忍びないけれど、こんな状況で私がすぐに働き、収入を得ることは難しいと思えていたからだ。
精神科医は状況をきき、睡眠薬を二週間分都合してくれた。これは本当に私が眠ることで自分を保つための最後の守り薬となるだろう。
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